今、東京ではタワーマンションの建設・分譲ラッシュが続いています。その傾向は都心や東京湾岸エリアだけにとどまらず、さいたま市や川崎市など再開発が進む首都圏各地に林立して街の風景を一変させています。
そんなタワーマンションブームが地域にどのような影響を与えているのか、そして人口減少時代になぜそれほどキャパシティーのあるタワーマンションが続々と建てられているのか。4月13日に放映されたNHKの新番組『首都圏情報 ネタドリ!』で「沸騰!タワーマンション~人口減少社会 どうなる首都圏」と題して特集していたので、私も視聴してみました。
(写真はイメージです)
6戸に1戸がタワーマンション
NHKの『首都圏情報 ネタドリ!』は始まったばかりで、首都圏の気になるニュースの「ホンネ、真相、本当のこと」に迫る30分番組。MCにタレントの岡田結実さん(隔週で高橋みなみさん)を迎え、社会問題を若者にも分かりやすく伝えようとしているのが伝わってきました。
NHKの調査によると、首都圏のタワーマンションは1976~1999年の間にはわずか150棟が建設されたのみだったそうですが、2000年以降に急増し、一昨年までに800棟以上が建設され、今や分譲されるマンションのうち、6戸に1戸はタワーマンションとのことです。
タワーマンションは多額の建築費がかかり、都市計画法によって建築できるエリアも極めて狭い地域に限定されます。このため、マンションディベロッパーが1社で、自由に建築・分譲できる物件であるとはいえないのです。では、どうしてそのようなタワーマンションが急増しているのでしょうか。
その背景には行政による再開発計画がありました。番組では埼玉県さいたま市と神奈川県川崎市の例を紹介していたのですが、どちらのケースも行政とディベロッパーの思惑が合致し、その結果として本来なら難しいタワーマンション建設が可能となったとのことでした。
官民利益の一致で分譲が進んださいたま市
舞台はJR埼京線などが通る武蔵浦和駅周辺の再開発事業でした。再開発にあたって市は開発業者を募集、その中で市民の利益となる一定の要件を満たす計画には補助金を出すと、ディベロッパーにとってもうれしい提案を盛り込みました。
そして採用された業者による事業は進み、総工費381億円に対し43億円にも上る補助金が市から支払われたとのことでした。
さらに超高層ビルの建築には、通常なら建築基準法などの法規制も障害として立ちはだかります。容積率と建物の高さ制限がネックとなり、駅前の好立地であっても業者の計画に見合う階数を確保できないケースも多いのです。
ところがこれが再開発に絡むと、公共性の観点から容易に規制が緩和されてしまいます。その結果、武蔵浦和駅周辺には市民生活に役立つコミュニティスペースや文化施設、教育施設などが新たに誕生し、ディベロッパーは緩和された容積率と高さ制限によって多くの居室を分譲できたのです。
こうした再開発はさいたま市に限らず首都圏では多くのエリアで行われ、どこも行政による補助を受けているわけではありませんが、用地所得や法規制の緩和により、ディベロッパーが建設しやすい環境が整えられてきたとのことでした。
行政による補助金は建築費を抑えたいディベロッパー側には大きなメリットとなり、地域住民にとっては新たな商業・文化施設を利用することができます。そして行政は多くの新規住民を獲得することになり、人口増と税収アップが期待できます。
行政主導の再開発、それにともなうタワーマンション建設が首都圏で増加している背景には、行政と住民、ディベロッパーの3者がともに利益を得ることができるという思惑の一致があったのです。
人口激増の弊害続出の川崎市
しかし再開発には負の側面がないわけではありません。続いて紹介された神奈川県川崎市のJR武蔵小杉駅周辺の再開発では、タワーマンションの林立により極端に人口が増えたため、市のインフラや交通に悪影響を与え、一部の住民は快適とはいえない生活を強いられる羽目に陥っているとのことでした。
武蔵小杉駅周辺ではこの10年でタワーマンションが10棟建築され、人口が約3万人も増加したそうです。さらに比較的開発の進んでいなかった駅の北側にも新たに5棟の建築が予定されているとのことでした。
急激な人口増は武蔵小杉駅のキャパシティをパンクさせ、朝の通勤通学ラッシュ時には、改札を通過するための行列ができていたのです。さらに駅構内のホームも人であふれ、これでは安全確保が難しいと、JRがホームの拡張工事を行うに至るほどでした。
そして人口増は教育施設にも及びました。ファミリー世帯の増加にともない小学校の教室が足らなくなり、市内周辺の小学校18校のうち、8校で増築または校舎の新築となったそうです。
市の調査では住民の生活満足度は80%を超えているそうですが、悪影響の側面も見逃せないと思わざるをえませんでした。人口増による混雑やインフラ面の整備が追いつかないといった状況だけでなく、周辺の日照に悪影響を与え、電波障害によるテレビ・ラジオの受信に問題を発生させることもあります。
住民と業者、そして行政がいずれも得をする再開発といえども、誰もが幸せになるわけではありません。実際にその場で生活をするとなると、不便が生じる可能性も少なくありません。タワーマンション購入するならそうしたことも考慮した上で検討すべきであるといえるでしょう。
住宅供給過多時代、タワマンの価値の下落は激しい
今後首都圏では、約160棟のタワーマンションが計画されているそうです。そうなるともうどこに行っても、駅前にはタワーマンションがあるという時代が来てもおかしくありません。
ではユーザーは、どのタワーマンションを購入しても安心なのでしょうか。もちろんそんなことはありません。通常のマンションや一戸建と同様、将来にわたって資産価値が安定し、かつ居住性や安全性も確保されるかというとそんなことはないからです。
東日本大震災を思い出してください。首都圏ではすでに風化してしまった感がありますが、震災直後の避難やその後の計画停電に対してタワーマンションは無力でした。
その教訓から多くのマンションで自家発電を備えた物件が増えましたが、その能力にも限界はあり、電力規制が長期に及べば、外に出るためにエレベーターを使用しないといけないタワーマンションでの生活は、苦労を強いられるものとなります。
その点、戸建住宅や低層マンションはすぐに避難でき、エレベーターが止まっても極端に生活が困難になることはありません。
そうした特殊な状況とならずとも、タワーマンションが増えれば特別なものではなくなるため、相場内で特殊な地位にいるといえるタワーマンションの価格の状況は、しだいに下がっていくでしょう。他の分譲マンションの過剰供給も相まって、中古マンション市場は現在とは違った様相となります。
タワーマンションのみならず多くの物件がやがて資産価値を落とす中、「プレミアム」が外れたタワーマンションは、とりわけ顕著な下落を見せる可能性が高いといえるのです。不動産相場は、低価格帯の物件より高額帯の物件ほど価格の上下が激しくなる傾向にあるのが現実だからです。
タワマンを買って、需要不足の前に戸建てに買い替え!
では今後、タワーマンションは買わないほうがよいのでしょうか。タワーマンションの持つ利便性はたしかに魅力的です。自身の生活に照らし合わせ、仕事や子育てに意味のある物件だと考えられれば購入しても構わないでしょう。
しかし将来的に高値で売ることを目的とした投機的な購入は、今後は控えた方がよいのではないかと思われます。先述したように、将来タワーマンションの資産価値が上昇することは考えにくいからです。実際に住むにあたって意味のあるのならOKです。ただ、その場合でも災害時の安全性が十分に担保されたものでないといけません。停電時の自家発電装置が備わっているタワマンを選ぶことは当然として、避難計画やその経路を周辺のハザードマップでよく確認して、不安なく行動ができるか否かを確認してください。
タワーマンションの乱立は、不動産としての一般化につながり、最終的には物件がスラム化してしまうこともありうることを知っておいてください。物件の過剰供給はどこかで需要不足に転換し、空室が目立つようになったマンションでは修繕もままならずに、物件が朽ちていくのを見守るだけになるでしょう。タワーマンションのような高くそびえ立つ物件がそうなった姿は無残極まりないですし、防犯面でも危ういことになります。
20年、30年後にはそうした時代がやってきます。タワーマンションをすでに購入してしまった方やこれから購入する方は、ズバリ、需要不足の前に売り切り、戸建てに買い換えるというビジョンを持っておいた方がよいでしょう。
伊東博史(宅地建物取引士)
大手不動産仲介会社で売買仲介に約10年間の勤務。のべ30年間以上にわたり、大手と中小、賃貸と売買と、多角的に不動産業務に携わる。現職では売買と賃貸仲介と管理、不動産投資や相続のアドバイスを行う。