相続した不動産をどうしたらいいのかという相談を受けることがよくあります。売却をしようか、そのまま残しておこうか、あるいは、賃貸しようか、だいたいこの3つの選択肢で迷われていますが、よくある相談が、両親がずっと住んでいた実家の処分をめぐって、相続人の間で意見が分かれて困った、というものです。
また、子がないまま死亡した所有者の不動産を、兄弟姉妹で分割するという相談も増えてきました。今回は、売却を前提として、相続した不動産の売却をする際にはどのようなルールや手続きがあるのかを説明します。
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遺産を売却するために必要な相続登記
相続した不動産を売却するためには、まず相続登記をしなければなりません。不動産の所有者が被相続人の名義のままでは売却できません。相続登記の手続きは以下のようになります。
遺言の有無の確認
まず、被相続人(死者)が遺言を残していないかを確認しましょう。自筆証書遺言(遺言者が全文と日付、氏名を自書して押印。パソコン作成や録音は不可)の場合、家庭裁判所で「検認」の手続きを受ける必要があります。検認とは家裁が遺言書の内容を確認し、遺言書の偽造などを防止するための手続きのことです。
遺言書が封をされている場合は、勝手に開封してはいけません。「封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。」(民法1004条第3項)と定められており、もし、これに違反(開封)した場合には、5万円以下の過料(罰金)が課せられることがあるので注意が必要です。
公正証書遺言(遺言者が口述し、公証人が筆記)の場合は家裁での検認は不要です。また、作成しているかどうかは、公証人役場で検索することが可能です。
相続人の確定
次に、誰が相続人となるのかの確定が必要です。そのためには、被相続人の出生から死亡に至るすべての戸籍、除籍、原戸籍の謄本が必要となります。
相続人が子だけというのであれば、戸籍を収集して相続人を確定することは容易ですが、被相続人に子がなく、親も死亡していて相続人が兄弟姉妹の場合、収集する戸籍が広範に及ぶため時間も費用もかかってきます。具体的には、被相続人の出生から死亡まで(子がいないことの確認)と、被相続人の両親の出生から死亡まで(両親がともに死亡していて他に兄弟姉妹がいないかの確認)となります。特に、被相続人の母親の戸籍を取得することを忘れがちなので注意が必要です。
さらに、相続人が誰であるかの確定が済めば、その相続人の現在の戸籍と本籍地記載がある住民票が必要になります。
相続の方法を決める
相続人が確定すれば、不動産の相続方法について、相続人間で協議を始めます。ある程度の内諾を事前に得ておくことは問題ありませんが、協議自体に関しては、相続人確定後の方が望ましいと筆者は考えています。
それは、戸籍の収集を始めたときに、今まで存在の知らなかった相続人が出てくる可能性があるからです。今まで存在を知らなかった兄弟や姉妹が出てくることは筆者の経験からいえばそれほど珍しいことではありません。初婚だったと思っていた父親が実は離婚していて、前妻との間に子がいたということもあります。離婚率が増えている現状では、今後さらにそうしたケースは増えるでしょう。生まれてすぐに養子縁組に出されていた兄がいたなんてことも、昔はよくあることでした。
そのような隠れた相続人がいる場合、連絡がついたとしても、円滑な相続手続きに協力してもらえるという方がまれです。協力してもらえない、あるいは紛争となることが大部分です。したがって、実際の分割については相続人がきちんと確定してからの方が望ましいと筆者は考えます。
遺産をどのように相続するかは、民法で定められた相続順位と分割割合に従う方式(法定相続)と、分配について話し合って決める方式(遺産分割)に分かれます。法定相続は相続人の被相続人との関係や相続人の人数で数字が決まっています。
遺産分割は、介護などの寄与分を考慮するなどして取り分を話し合って決めますが、普通の話し合いとは違い、基本的にはやり直しはできないものです。協議の結果は遺産分割協議書に記し、各相続人が自署かつ実印を押捺、印鑑証明書を添付して法務局に戸籍謄本など書類一式とともに登記申請を行います。印鑑証明書は3カ月以内のものでなくても大丈夫です。
売却するために最適な遺産分割手法
相続が済めばいよいよ、不動産を売却する手続きに移ります。
法定相続で相続した場合、不動産は相続人全員で共有した状態であり、相続人全員が当事者です。売却するにあたっては、相続人全員が売却に合意し、売却契約や残代金の決済時に同席し、売買契約書の署名捺印や印鑑証明書の添付など必要となります。また、残代金の決済時にも登記用の委任状や登記原因証明情報の事前捺印や司法書士による本人確認など、手続きに参加する必要があります。
しかし現実には、売却したいのにそもそも相続人全員の合意が取れなかったり、売却が決定しても、契約時に相続人がそろわなかったり、手続き面で煩雑になるなど、さまざまな障害がありますので、注意しましょう。
このほかの注意点として、法定相続で相続した場合、売却代金も必ず法定相続分に則って分けなければなりません。法定相続分以上に売買代金を多くもらった場合、その人が他の相続人より贈与を受けたとみなされてしまいます。
遺産分割によって相続した場合、やり方によっては上記のような煩雑さを回避することができます。
遺産分割には(1)現物分割、(2)代償分割、(3)換価分割-という3つの手法があります。簡単に説明しますと(1)は遺産そのものを現物で分ける方法、(2)は遺産の現物を1人(または数人)が取り、その取得者が、残りの相続人に対価を現金で取得の対価を相続しなかった相続人対し、現金で支払うという方法、(3)は遺産全部を売却して現金に代えて、その現金を分割するという方法です。
筆者がお勧めするのは(3)の換価分割です。相続人がA、B、C、Dの4名いたとして、その売却代金を4分の1ずつ分けるのですが、たとえばAを便宜上の所有者にすれば、A単独で売却手続きを行うことができるという大きなメリットがあるからです。上記のように、相続人がそろわなかったり、手続きが煩雑になったりするといった欠点をカバーできます。しかし、ここで忘れてはいけないのは、必ず遺産分割協議書のなかに、「換価分割である旨」と「売却代金を分配する旨」の2点を明記することです。
この、2点を記載せずに売却代金を分けてしまうと、売買代金を受領した相続人は贈与とみなされ贈与税を納付しなければならなくなります。また、売却した際に売却益が出た場合には、不動産の譲渡に伴う所得税を相続人それぞれが確定申告時に申告する必要があります。
終わりに
相続によって取得した不動産を売却するならば、換価分割の方が相続人の負担は少なくなります。ただ、換価分割を行う際には必ず、遺産分割協議書状に「換価分割である旨」と「売却代金を分配する旨」を明記しましょう。
それ以前に、相続した不動産にどのくらいの価値があるかを知らなければなりません。不動産会社の無料査定などを利用して市場価値を知ることをお勧めします。そうすることで、売却に反対していた相続人も売却することに賛成してくれる可能性も出てくるでしょう。
坂井田敬介 (宅地建物取引士、行政書士)
司法書士事務所に勤務後、行政書士として独立開業。数多くの不動産取引を担当。その後、外資系生命保険会社に勤務。不動産を含むトータルの資産形成のコンサルティングを行う。