さまざまなテーマを掘り下げて特集するテレビ東京の『ガイアの夜明け』ですが、先日の放送(2018年3月6日)は、「『中古』に価値がある!~“新築信仰”に挑む~」と題して、古い住宅の再活用に挑む事業者たちを紹介するもの。
不動産のプロとして、非常に興味をそそられるテーマでした。
現在、首都圏では新築分譲ラッシュが続き、近郊3県では建売業者の用地買収競争が熾烈(しれつ)を極めています。そんな市場にあえて中古で勝負をかけるなんて、いったい、どのような企業戦略があるのでしょうか。

(写真はイメージです)
リノベーション事業の対象物件は戸建にも広がる
最初に紹介されたのは、戸建住宅のリノベーション事業を展開する「株式会社カチタス」さんでした。
番組によると、使われていない空き家は全国に約800万戸あるそうです。それらは売るに売れず、ただ朽ち果てていくものも多いとのこと。今回の取材で取り上げられたのも、そうした戸建のひとつでした。相続はしたものの自分や親族には住む家が他にあるため、売るしかないという持ち主の家がカチタスさんのリノベーションの対象となったのです。
その物件は茨城県のつくばみらい市にあり、駅から遠く、築年数も古いため買い手がつかなかったとのことでした。そのため、買い取り依頼をネット経由で1,200軒の不動産会社に出したにもかかわらず、返答は1社のみという惨状。その1社がカチタスさんで、番組では買い取り査定の様子から細かく紹介していました。
リノベーション目的の買い取りですから、査定は通常の売却査定とは違い、再生が可能かどうかに力点が置かれていました。このように購入理由をはっきりさせた上での査定には、大きな意味があります。結果として安い金額になるかもしれませんが、ただ買いたたくのではなく、「再生して売却するためにはこの金額となる」と自社の査定根拠をキチンと述べる姿勢こそが、中古住宅市場の活性化につながると思われるからです。
というのも、業界にはリノベーションして再販することを目的とした、古いマンションの「買いたたき」が横行しているという現実があります。なので、番組を見ていて「前提をはっきりさせるとこうも違うのか」と感心させられました。売主としてはこれといってすることもなく、ありのままの状態での売却だったようですが、とてもありがたかったのではないかと思います。
ただ、ビジネスとして重要なのは、リノベーション後の売却が成功裏に終わるかどうかです。果たしてどの程度のリフォームを行い、どれくらいの価格で市場に出すのか、成り行きに興味津々で見ていました。
リフォームは絞り、価格で勝負
1200社の不動産会社が無視する中でカチタスさんが購入に至ったのは、この物件に地域性に見合った好材料があったからでした。建物は築38年と古く、雨漏りするほど傷んではいましたが、それは補修可能ですので、他に何かメリットがあれば十分に市場性は見込めるとの判断だったのです。
それは、複数台の駐車場を確保できる敷地でした。駅前の駐車場に車を止めて電車で通勤や移動をする人が多いという地域柄から、家族それぞれが別に車を利用できれば、駅から徒歩圏内の物件でないというデメリットを埋めることができる、というわけです。
さらに、物件総額がメリットを後押しします。売却想定価格は1,000万円台前半。手慣れたリフォームで経費を削り、ローン利用で月々3万円台というとても手頃な価格での購入を実現しました。
こうして全国1200社が見放した物件が、カチタスさんの看板商品として生まれ変わり、販売会には続々とお客さんが訪れていました。成約のシーンこそ見られなかったものの、そのときも近いだろうと想像できました。
中古住宅の価値が見直される時代へ
業者の奪い合いになっているマンションはともかく、今後は戸建て市場でも、リノベーション済みの中古物件の需要は確実に増加すると思われます。今回のカチタスさんもそうですが、全国展開するリノベーション業者が増え、これまでだったら改築するしかなかった住宅が、商品として再生されるケースが増えていくためです。
それにともない、自身でリフォームをする個人や、資産価値を守るために日々の手入れを入念に行う人も増えていくことでしょう。
「家を買ったけどローンの支払いに追われ毎月大変です」。不動産の現場にいると、そういう声をよく聞きます。そうした声はほとんどが、価格が高い新築住宅のユーザーです。しかし、新築ほど価格が高くなく、新築に近い内装や設備が整った中古住宅ならば、家計負担を減らし、快適さの質も落とさずに済みます。
住宅選びの本質は、家という「ハコ」を買うのではなく、「生活」を買うものです。これまで、家を買う人にいくらそう説明しても理解していただけませんでした。それがいよいよ変わりつつあると、今回の『ガイアの夜明け』は実感させてくれるものでした。
古い住宅からよみがえる廃材
続いて紹介されたのは、長野県の廃材活用業者「リビルディングセンターJAPAN」さんでした。リビルディングセンターJAPANさんでは、解体予定の古民家や築年数の古い中古住宅を訪ね、再利用可能な廃材を回収して販売していました。
廃材はその名の通り、これまでは捨てるか一部では燃料にするしか用途のないものでした。それが商売として成り立つということに大きな衝撃を受けました。今後、こうした業態が成熟していけば、ごみ収集や建材の乱伐採という問題も、解決に近づくかもしれません。
とはいえ、事業はまだスタートしたばかり。すべてが順調とはいえないようですが、最近では首都圏から購入者が現れるなど、古い部材に価値を見いだす人も増えているようです。
番組では、推定樹齢200~300年の一枚板のケヤキや、同じく250年以上のクロマツが紹介されていました。これらの部材は「古の趣」を売りにする商業施設などに利用が限られていましたが、そのテイストを個人住宅にも取り入れていこうとする人が増えているそうなのです。
廃材のリサイクルといった観点からも、とてもいい傾向にあるといえます。その傾向を潮流にしようと、リビルディングセンターJAPANさんでは、古材を使っての中古住宅の再生にも取り組んでいました。リフォーム需要を促進することによって、古材の流通性を高めていこうというわけです。
番組ではリビルディングセンターJAPANさんの隣町に住む男性の住宅で、古材リフォームの様子が紹介されました。古い物件ですから断熱設備など備えておらず、大幅な改修が必要のようでしたが、断熱技術の専門家を交えて「古くて、かっこよくて、快適な家」を実現していました。
こうした取り組みは広がっていくのでしょうか。実は、首都圏でもレトロで趣ある住宅に人気が集まりつつあるそうなのです。東京の世田谷では、築85年・木造平屋建の賃貸物件に古材リフォームを施したところ、それまで月額15万円だった家賃が20万円にまで跳ね上がったとのことでした。
古いものには、新しいものとは別の魅力がある。こうした価値観はカフェや美術館、居酒屋などでは以前から認識されていましたが、個人住宅にもその波が押し寄せてきているのであれば、時代は確実に変わってきているといえるでしょう。
中古住宅をぜひ購入の選択肢に
新築住宅全盛の今こそ、中古住宅で市場に挑む不動産会社の動きには大きな価値がある。はっきりと、そう実感させてくれる今回の『ガイアの夜明け』でした。
極端な廃屋でなければ、中古住宅であっても長く住むことは十分に可能です。住宅ローンの負担も少なく、住みながら自分好みのマイホームに仕立て上げていくことができる中古住宅。いま一度その価値を見直し、購入時の選択肢に加えてみてはいかがでしょうか。
伊東博史(宅地建物取引士)
大手不動産仲介会社で売買仲介に約10年間の勤務。のべ30年間以上にわたり、大手と中小、賃貸と売買と、多角的に不動産業務に携わる。現職では売買と賃貸仲介と管理、不動産投資や相続のアドバイスを行う。