不動産のリアルREALITY OF REAL ESTATE

  • 最終更新日:2018年8月12日
  • 公開日:2017年10月13日

なぜ東京23区の生産緑地は1㎡ 220円なのか

「生産緑地の2022年問題」というものをご存知でしょうか?
生産緑地とは、一言でいうと「市街化区域内にあって、農地として評価されている土地」のことです。生産緑地では、税制面で優遇される代わりに、30年間の営農義務が課せられます。

 
現在、生産緑地に指定されている土地の大半(およそ8割)は、1991年3月に「生産緑地法」が改正された時に指定されたものです。これが、来る2022年に30年の期限を迎えます。指定が一斉に解除されて大量の住宅用地が生まれると、都市部周辺の地価が暴落するのではないか、というのが「生産緑地の2022年問題」です。
 
生産緑地の評価額は、東京23区内では一律1㎡当たり220円。一方23区内の宅地の平均評価額は1㎡当たり364,479円(平成27年)ですので、実に約1,600倍もの評価の違いがあるのです(東京都主税局固定資産税課ヒアリング及び東京都税務統計年報・平成27年度より)。
 
生産緑地
(写真はイメージです)
 

生産緑地は23区内にどれだけあるか

 

全国には13,442万㎡の生産緑地がありますが、東京都には全体の25%があり、埼玉県・千葉県・神奈川県を合わせた一都三県では全体の57%にのぼります(国土交通省・都市計画現況調査・平成27年)。
 
では23区では、どうなっているでしょうか。
23区内には約428万㎡、東京ドーム(約4.7万㎡)91個分の土地が生産緑地として指定されています。ちなみに、八王子市など26市の市部では23区の6.5倍、約2,796万㎡です。
 
区別で見ると、生産緑地のある区は23区中11区。面積の多い順は下表のとおりです(東京の土地2015・東京都都市整備局編)。直近の平成28年では、練馬区が185.3万㎡(662地区)、世田谷区が89.7万㎡(517地区)です。
 
(単位:万㎡)

平成5年
(1993)
平成27年
(2015)
割合
(2015)
減少面積 減少率
練馬区 249.9 187.1 43.7% 62.8 25.1%
世田谷区 147.8 91.1 21.3% 56.7 38.4%
江戸川区 44.9 36.9 8.6% 8.0 17.8%
杉並区 48.6 34.7 8.1% 13.9 28.6%
足立区 41.2 33.2 7 8.1% 8.0 19.4%
葛飾区 32.0 26.9 6.3% 5.1 15.9%
板橋区 14.8 10.8 2.5% 4.0 27.0%
中野区 5.5 2.4 0.6% 3.1 56.4%
目黒区 4.5 2.6 0.6% 1.9 42.2%
大田区 3.0 2.3 0.5% 0.7 23.3%
北区 0.6 0.3 0.1% 0.3 50.0%
区部合計 592.8 428.2 100% 164.5 27.8%

※表中の「減少面積」と「減少率」は、平成5年と平成27年との比較
 
練馬区と世田谷区で全体の3分の2を占め、江戸川区・杉並区・足立区・葛飾区の4区で全体の3分の1弱を占めています。ある意味、区部に限れば「生産緑地の問題は、練馬区と世田谷区の問題」と言って差し支えないでしょう。
 
指定制度が始まった平成4年(1992年)には約593万㎡あった23区の生産緑地は、毎年少しずつ指定から解除され、平成27年(2015年)には約428万㎡と、約4分の1が解除されています。中でも、世田谷区や中野区、目黒区など地価の高い区での減少が目立ちます。なお練馬区、世田谷区では毎年追加指定があるとのことですので、実際は、上表の減少面積以上の面積が解除されていることになります。
 
これまでも農業従事者の死亡などによる土地の買い取り制度はありました。しかし、ここ2~3年では、土地の買い取り制度を使って区などが取得した例は、練馬区で1件、世田谷区ではゼロでした(いずれも都市計画課ヒアリング)。したがって、過去に指定解除された土地の多くは、所有者による有効利用か、分譲地などの形でマーケットに放出されてきたと推測されます。
 

不動産に係る主な法改正

 

平成29年の生産緑地法改正の背景には、すでに平成27年4月から都市農業振興基本法が制定施行されていることがあります。都市農業とは、市街地およびその周辺の地域において行われる農業をいい、国や各自治体は都市農業振興基本計画を定めるものとされています。
 
また、この法律が制定されたのには、次のような背景があります。
 
•都市農業が、新鮮な農産物の供給、防災空間の確保、良好な景観の形成、国土・環境の保全、農業体験の場の提供などの多様な機能を発揮してきたこと
 
•人口の減少や高齢化が進む中、これまで宅地化予定地として見られてきた都市農地に対する開発圧力も低下していること
 
•都市農業に対する住民の評価の高まり
 
•とりわけ、東日本大震災を契機として、防災の観点から都市農地を保全すべきとの声が広がってきたこと
 
今回、生産緑地法以外にも、都市緑地法や都市計画法など多くの法律が改正されていますが、これらは上述の、都市農業振興基本計画の具体化の現れです。基本計画で都市政策と農業政策を融合し、宅地化による都市化から健康と持続可能性のある都市化への流れと思われます。
 

(1)生産緑地法の改正点

 
特定生産緑地:所有者の意向を基に、市町村が改めて「特定生産緑地」を指定するものです。指定を受けると、市町村への買い取り申出が30年経過後から10年延期され、所有者の同意があれば、繰り返し10年の延長ができます。従来の「30年」と異なり「10年」にすることで、将来予測をしやすくする配慮のようです。
 
面積要件の緩和:指定要件の一つである面積の下限が、従来の「500㎡以上」から「300㎡以上」に引き下げられ、各区が条例で定めることになります。現在はまだ条例を制定した区はありませんが、どの区も面積要件の引き下げに積極的とのことです。(東京都都市整備局都市計画課ヒアリング)
 
行為制限の緩和:従来、生産緑地に設置可能な施設は、農林漁業を営むためのものに限定されていました。しかし、営農継続の観点から、農業者の収益性を高める、製造・加工施設やそれを販売する施設、レストランの設置が可能となります。あくまで「主に生産緑地内で生産された農産物」を用いることが条件で、単なるスーパーやファミレスなどの立地を防ぐために、省令で一定の基準が設けられています。
 

(2)都市計画法・建築基準法の改正点

 
田園住居地域の創設:都市計画法の用途地域に「田園住居地域」が追加されました(平成29年6月15日施行)。田園住居地域とは、農業の利便の増進を図りつつ、これと調和した低層住宅に係る良好な住居の環境を保護するため定める地域で、東京都でなく各区が定めることになります。
 
開発規制:土地の造成、建築物の建築、物件の堆積は区長の許可制となり、一定規模以上(政令で300㎡)の開発は原則不許可です。
 
建築規制:用途規制としては、低層住居専用地域(第一種及び第二種)に建築可能なもの。従来の住宅や老人ホームのほか、農業用施設として、農業の利便増進に必要な店舗や飲食店(500㎡以内)や農産物の生産、集荷、処理または貯蔵に供する施設の建築が可能です。
形態規制としては、低層住居専用地域と同様に、容積率は50%~200%、建ぺい率は30%~60%の範囲内になります。低層住居専用地域と同じくすることで、日影などの影響を受けずに営農継続が可能となります。
 

現在の生産緑地はどうなるか

 
今回の改正によって、現在生産緑地の指定を受けている農家は、以下の3つの選択肢から選ぶことになります。
 
①「特定生産緑地」の指定を受けて10年間営農を継続する(農地評価と相続税の猶予制度利用)。
 
②市町村長への買い取り申出を行い、生産緑地の指定を解除して土地の有効利用を行う。
 
③市町村長への買い取り申出をせず、また特定生産緑地の指定も受けず、いつでも買い取り申出ができる状態で生産緑地を農地として維持する。
 
区部において、平成34年(2022年)に指定後30年を迎える生産緑地はおよそ340万㎡(区部全体の8割以上)。このうち、どれだけの農家が特定生産緑地として指定を受けるでしょうか。
 
生産緑地を所有している農家の、最大の関心事は税制です。すなわち、行為制限が緩和された中での農業経営基盤の確立と、それに伴う税負担との比較になります。
 
冒頭で示したとおり、生産緑地の評価額は23区一律1㎡当たり220円です。これは農地としての評価で、平成6年から変わっていません。それに対して、特定市街化区域農地として宅地並み評価がされると、基本は宅地並みの価格の3分の1(特例率)の評価になります。宅地並み評価とは、農地を宅地と同じ評価はできませんので、宅地の価格から宅地化するために想定される造成費を控除する評価方法を言います。宅地の価格から造成費を控除するので「宅地並み」という表現になっています。
 
仮に農地を「宅地並み評価」とした場合、23区の平均評価額は1㎡当たり167,000円(平成27年)、759倍も違います。ちなみに、区部で最も高い農地の評価額は1㎡当たり469,000円もしています。(東京都主税局ヒアリング)
 
特定生産緑地として指定されると、上記のとおり農地としての評価に加え、相続税猶予の適用があります。しかし、特定生産緑地の指定を受けない土地の評価がこれからどうなるか、特に農業法人などへ賃貸した場合に相続税の納税猶予がどうなるか。まだ、方向性は見えていません。東京都主税局によると、通常、税制改正の3年前くらいから総務省とのプログラミングが始まるとのことですので、もう少し先の話になりそうです。
 

結び

 
東京都や練馬区、世田谷区の都市計画課へのヒアリングを通して、行政も生産緑地の2022年問題には関心を持っていることは分かりました。しかし、現実的には各区とも、財政上の問題から買い取り申出に応えることは困難です。練馬区のように、どうしても必要な土地でなければ、議会の同意は得られにくいでしょう。
 
そして、23区に限って言えば、2022年問題はある特定の区に限定された問題であり、区部の地価バランスから考えて、特定エリアでの地価下落はあるとしても、区部全体の地価への影響は小さいと考えます。
 
これからの大きな課題は、空き家と所有者不明の土地の問題、ゴミ屋敷・ゴミマンションの増加、そして建て替え困難によるマンションのスラム化の問題と感じます。一方で各自治体には、全住民に対する公平さが求められるため、特定の地区への支援や助成は困難でしょう。これからは、地区の動向すなわち町内会レベルで環境を維持していくコミュニティの質が、資産価値へ影響を及ぼす要因になると思われます。
 
三浦雅文(米国国際資産評価士・不動産鑑定士)
土地家屋調査士・行政書士・宅地建物取引主任士の資格も保有。1954年北海道生まれ。大学卒業後、測量、登記、鑑定、総合不動産会社を経て独立。多分野での経験を活かした不動産のアドバイスとオールラウンドの鑑定評価の業務を中心に活動中。

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