マンションの売却を検討している皆さんに、ぜひお伝えしておきたいことが2つあります。
(1)用意すべき書類をきちんと準備しておくこと
(2)諸費用や税金について把握しておくこと
この2点を抜かりなく準備しておけば、マンションの売却もスムーズに進みます。また、「手元に残ったお金が思ったよりも少なくなってしまって、売却の目的が果たせない」といった不幸な事態を避けることもできるでしょう。
不動産会社にとっても、この2点の整理ができている依頼者とは、売却に必要な情報が時間の無駄なく共有できるため、より正確な査定や、具体的な売り出し価格や方法の相談が可能となります。こうした依頼者は不動産会社にとってありがたいお客様で、結果、両者の信頼関係もより早く築けるでしょう。
(写真はイメージです)
マンション売却に必要な書類
マンション売却に必要な書類を、時系列でまとめてみました。関連する書類はファイルにまとめておくと便利です。不動産会社との連絡、相談時には常に参照できるようにしておきましょう。
(1)不動産会社に依頼をする前にそろえておきたい資料
•権利証(登記済証)または登記識別情報通知、登記完了証
•固定資産税都市計画税納税通知書
•平面図、仕様書(設備・配管など)
•管理規約など
•購入時の売買契約書・重要事項説明書など
売却を依頼する時、依頼者は不動産会社にマンションの所在地、階数、間取り、面積、築年などの概要を説明しなければなりません。正確な情報を報告することは、正確な査定にもつながります。購入時の売買契約書などがあれば購買時の正確な情報が分かりますので準備しておきましょう。
また依頼時には、物件の名義や売却理由も確認されます。売却理由については、金額や売却期限にも深くかかわることですので、メモにまとめておくことをお勧めします。
(2)売買契約締結時に必要な書類
•本人確認書類(氏名・住居・生年月日の確認できるもの)
•実印
•印鑑証明書(本人確認書類と併用可能)
•領収書(手付金がある場合)
マンション売買契約の本人(契約当事者)確認は、犯罪収益移転防止法によって、不動産会社に課せられた義務です。不動産会社は、確認記録・取引記録の作成および7年間の保存、疑わしい取引の届出の義務が定められています。
売買契約締結時に、売主は、重要事項説明書、設備表などに署名・捺印をして購入者に交付し、売買契約書に署名・捺印をして購入者と1通ずつ交付されることになります。重要事項説明書、売買契約書は、不動産会社が書面にして交付する義務がありますから、売主が用意する必要はありません。
署名・捺印の際は、直前に読み合わせをしてもらい、内容を必ず確認してから実施しましよう。
捺印は、必ずしも実印である必要はありませんが、重要な契約ですし、本人確認の書類にもなりますので、実印と印鑑証明書を利用するのが望ましいでしょう。
手付金を受領する契約となっていれば、領収書が必要となります。ただし、銀行振り込みの場合は、振込証を領収書代わりとすることが税法上認められていますので、事前に不動産会社に、要否の確認をしておいてもらいましょう。
(3)代金受領・引渡し時に必要な書類
マンション売買は金額が高額であり、購入者が金融機関のローンを利用する場合も多いので、売買契約締結後、別途契約で定めた期日に決済・引渡しをするのが一般的です。
代金受領後引渡しの際には、所有権移転登記が必要になります。移転登記の申請者は売主と買主の連名となりますので、売主は必要書類を用意して、手続きを司法書士にしてもらわなければいけません。
また売主自身に住宅ローンの残債がある場合は、一般的に抵当権の登記がマンションにされていますので、抵当権の抹消登記が必要です。受領した代金から残債を支払い、抵当権を設定している金融機関から抹消登記に必要な書類をもらい、手続きを司法書士にしてもらうことになります。
代金決済・引渡し時に必要な書類は、移転登記に必要で司法書士に渡す書類と、引渡しとして買主に鍵と一緒に渡す書類の2通りになるのです。
【司法書士に渡す書類】
•登記済証(権利証)または登記識別情報
•実印および印鑑証明書(3か月以内に発行されたもの)
•固定資産税評価証明書
•委任状(司法書士への登記申請手続き委任、売主は実印の捺印が必要)
•登記原因証明情報(司法書士が事前に作成したもの)
•金融機関からの抵当権抹消登記必要書類(住宅ローンの残債がある場合)
弁済証明書、解除証書、抹消登記委任状、印環証明書
•本人確認書類(運転免許証・パスポートなど顔写真が貼付されたもの)
•住民票(登記された住所と現住所が異なる場合)
【買主に渡す書類】
•代金の領収書
•公租公課その他の費用の清算代金の領収書
•付帯設備の確認書
•パンフレット
•管理規約
•管理会社による「重要事項にかかる調査報告書」
など、売買マンションおよび付帯設備にかかる書類一式
これらの書類をすべて引き渡して、売買は終了となります。
マンション売却にかかる諸費用・税金について
マンション売却にかかる諸費用は、大きく分けて「不動産会社への仲介手数料」「司法書士への手数料」「税金」の3つとなります。基本的にはどれも売買価格に応じてその金額が決まり、一般の住居用マンションの売却では、不動産会社への仲介手数料が最も高額になるでしょう。
なお支払い時期は全て売買契約締結以降です。売り出し中に経費がかかることは基本的にありません。
(1)仲介手数料
不動産会社の仲介手数料は法律でその上限額が決まっており、売却額が400万円以上の場合「売買金額×3%+6万円」が上限額となります。ほどんどの不動産会社は上限額を要求してきますが、割引のある会社や無料の会社もありますので、売却を依頼する際には、事前に仲介手数料を確認しておきましょう。
仲介手数料は成功報酬です。したがって売買契約が成立した場合に初めて支払い義務が発生するのが基本です。
売買契約締結と、代金受領・引渡し日(決済日)が異なる場合は、契約に従って支払うことになります。不動産会社には、売買契約締結日に手数料の50%、残額を決済日に受領することは認められており、決済日に一括で支払うとする会社も多くみられます。
(2)司法書士報酬
司法書士の報酬は、所有権移転登記や抵当権抹消登記の手続きを委任した場合に必要となります。このうち所有権移転登記は買主と連名の申請ですが、契約で買主の費用負担となるのが一般的です。
抵当権抹消登記は売主負担となります。費用は一般的には1万円~3万円程度と考えて良いですが、依頼する司法書士に確認しておきましょう。通常は抵当権を登記していた金融機関の指定する司法書士に依頼をした方がスムーズに処理されます。
(3)税金
税金には、不動産の売買契約にかかる税金と、売買による所得にかかる税金とがあります。税金にかかる個別のアドバイスは本来税理士の専任事項となっていますので、ここでは一般論としてご説明します。
•印紙税
売買契約書には、売買金額に応じて税法上定められた金額の収入印紙を添付しなければなりません。例えば、売買金額が500万円超~1,000万円以下の場合5,000円、1,000万円超~5,000万円以下の場合1万円、5,000万円超~1億円以下の場合3万円となっています。
なお領収書についても、金額によって印紙税を支払わなければなりませんが、個人の不動産を売却した場合は非課税扱いとなります。
•登録免許税
登記をする場合には、登録免許税を支払わなければなりません。抵当権抹消登記の登録免許税は不動産1件につき1,000円です。マンションは土地と建物につき抹消登記が必要となるため、最低2件分の税金が必要となります。
•譲渡所得税と市民税
マンションを売却すると、必ず売却から2~3か月後に、所轄の税務署から確定申告のお知らせがあります。売却に伴う所有権移転登記の手続きをする法務局から、税務署に連絡が行くためです。確定申告は、売却をした翌年の2月16日~3月15日に申告するよう決められています。
譲渡所得税と市民税は、売買価格から、取得費(そのマンションの購入にかかった代金から減価償却分を差し引いた金額や、購入時の諸費用)と、譲渡費用(そのマンションの売却かかった諸費用)、それに税法で定められた特別控除を差し引いた課税標準額に税率を掛けて算出されます。
税率は、マンションの所有期間が5年を超えるか超えないかで長期譲渡と短期譲渡に区分されます。
長期譲渡の税率:所得税15%、住民税5%
短期譲渡の税率:所得税30%、住民税9%
また復興特別所得税として、所得税額の2.1%が別途徴収されます。
ただし、居住用財産の譲渡所得の特別控除という制度があり、一定の条件を満たす居住用住居は売却益から3,000万円を差し引くことができます。つまり、自分が住んでいたマンションを「3,000万円+取得費用+譲渡費用」以下で売却した場合は無税となります。この特別控除は、確定申告をしなければ受けられません。必ず覚えておきましょう。
その他、買換えの場合には、課税の特例や買換えの特例といった制度の使用も可能です。
準備すべき書類と費用を知って賢い売却をしよう
マンションを売却するために必要な書類と費用について、基礎的なご説明をしてまいりました。ご紹介した内容を正しく理解していれば、不動産会社との打ち合わせもスムーズに進み、信頼関係を育むことでしょう。きっとマンションの売却に役立つに違いありません。
早坂龍太(宅地建物取引士)
龍翔プランニング 代表取締役。1964年生まれ。1987年北海道大学法学部卒業。石油元売り会社勤務を経て、2015年から北海道で不動産の賃貸管理、売買・賃貸仲介、プランニング・コンサルティングを行う。