深谷:私はこれまで住宅の新築分譲を取り扱ってきた経験から、インスペクションは必要な制度であると思います。つくばエクスプレスが開業したときに、沿線のビルダーやハウスメーカーと一緒に、アメリカ西海岸に視察に行き、土地開発や不動産売買の仕組みを勉強しました。するとアメリカと比べて、日本の不動産の制度は遅れていて、中古住宅の市場が活発でないということに気がつきました。
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インスペクション導入の背景
その後、平成11年に住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)ができ、建てた住宅を10年間保証しなくてはならないとなったとき、下請の工務店は「やれるわけない」とずいぶん廃業しました。
これらの経験から、品確法施行以降にできた住宅と品確法施行より前にできた住宅に分けて、インスペクションの導入を検討するべきだと考えています。
インスペクション導入に際しての課題
深谷:戸建住宅について言うと、品確法施行より前に住宅を建て、今もその住宅に住んでいる方の心情や経済状況を考慮すると、インスペクションの導入によって、いろいろな部分をほじくり返されるような思いをする可能性があります。インスペクションは絶対に必要なことだと思いますが、実際の運用面では厳しい政策です。マンションについては、管理会社の指導の下、管理組合の修繕計画があるので、「新耐震基準」適用以降のマンションであれば、インスペクションを導入しても全く問題ないと思います。これに対し、瑕疵(かし)が潜んでいる可能性のある戸建については、触れられたくないと思う方もいらっしゃるでしょうから、具体的に制度や対応方法を検討していく必要があります。
風戸氏:私もインスペクションは、戸建には絶対に必要だと考えています。また、さくら事務所の長嶋会長が提唱している「戸建に対しての減価償却の期間の評価の仕方」をしっかり改善していかないと、流通も滞ります。
また、インスペクションの結果の責任はインスペクターが負う必要があると考えています。これは仲介業者、宅建業者が調査義務不足で責任を背負わされてしまうことを回避するためです。
深谷:さくら事務所の料金表で、実際にどのくらいインスペクション費用がかかるのかを見たところ、かなり安いと感じました。
3〜5万円の対価で数千万円の住宅をチェックし、その結果について業者が責任を負うというのは疑問に感じます。インスペクションについての具体的な枠組みを作るべきでしょう。例えば、施工業者には必ず保険会社に加入させて、何か責任を取るべき事態が生じた時には履行できるようにすれば料金体制も変化してくると思います。
風戸氏:そうですね。日本の不動産取引のトランザクション・コストと不動産仲介業者の責任負担について見直さない限り、両手仲介や囲い込みなどがなくならないでしょう。
不動産仲介手数料の慣習とその問題点
深谷:日頃から、当社より安い仲介手数料の会社を探しては、いろいろ見ているのですが、問題だと感じるところは、仲介手数料が3%プラス6万円と決められていて頭打ちになっていることだと思います。
当社にお越しくださるとわかると思いますが、共益費や電気代、水道代込みの24万円の事務所で、スタッフは営業マンと私と経理担当だけ。ポータルサイトに広告も出していないので、広告費、テナント料、人件費など経営コストを極力抑えています。
それに比べて、大手不動産会社はブランドを守るために、莫大な広告費、人件費、テナント料など、いろいろなコストをかけています。
消費者の中には、大手ブランド以外は信用しない人がいます。例えば私の場合、家電製品は全部パナソニックで揃えていて、高くてもそれを選びます。これを不動産会社に置き換えると、大手ブランドである三井のリハウスやリバブルブランドなら、手数料5%でも任せたいという人がいます。こういうところをむしろ自由化しないと、両手仲介や囲い込みは永久に解決しません。
最大手の財閥系不動産会社も最近、利益が出なかった年があると聞いています。最大手でさえ利益が出ないのは、もはや手数料の上限規定に無理があるような気がします。
風戸:大手が手数料5%、ほぼ両手でやっていても利益が出ていない中で、手数料3%で片手仲介は成り立ちません。
不動産仲介サービスの変化と手数料の多様化
風戸氏:両手仲介は利益につながる本質的な改善ではありません。会社が儲からないから、両手仲介で営業マンのノルマを高くし、ノルマを達成するためにはどうすべきかなどと、自社のことしか考えない悪循環に陥っています。サービスの向上が利益につながると気づくべきだと私は思います。サービスのあり方は「willing to pay」――喜んでお金を払いたいという意味で、日本にはアメリカのようにチップを渡す文化はありませんが――、よいサービスを受けた場合に、もっと多く支払いたいとお客様自身が思うようなサービスの作り込みをする必要があります。
深谷:お客様がお金を払って喜んでくださると、働く側も誇りを持って仕事ができます。日本ではこのような正しい循環ができていません。
風戸氏:アメリカでは売主が支払うトランザクションコストがかかりますが、買主は手数料を払う必要がありません。これは料金体系と分業化、責任の所在をどこにするかをきちんと決めることで成り立つといえます。
深谷:インスペクションは、買主が自ら発注するべきであり、売主が「当社の仲介物件はインスペクション実施済みです」と営業するのはおかしなことですが、自分はこれだけ自分の物件を大切にしてきたということを伝えようとするのも正当性があるかなと思います。そうした意味からも、仲介業者がインスペクションを行うことについて、価値があるのか、と疑問に思っています。
利益が出ていない仲介業者は、何とかして会社を黒字にしようとします。その手段がインスペクションの導入や囲い込み、両手仲介の導入です。これらをなくすには、仲介手数料の自由化に尽きると私は感じます。
編集部:2015年5月26日、自民党の委員会において、囲い込みの解消に向けた抜本的改善が話し合われました。その中には、改善の見込みがなければ、今年の国会で罰則を強化するという内容がありました。それでも、最近の住宅新法のデータによれば、大手2社は、手数料の料率がほとんど同じです。これをどうご覧になりますか。
深谷:「たくましい」と感じています。およそ1年前に雑誌や報道番組で不動産の囲い込みの話が出ました。お客様もそういうことに気付いています。しかし、結果として、不動産仲介業者のやり方は巧妙化し、手数料をきっちり確保しています。
例えば、仲介営業マンが物件の図面を確認して案内をした際、以前は囲い込みをしていましたが、今は囲い込みをせず、土壇場になって断ります。ステイタス管理をしているといっても、土日には当然刻一刻と変わるので、いくらでも言い訳ができます。
編集部:手数料の自由化自体には賛成ですか。 両手仲介については、どのようにお考えでしょうか。
風戸氏:手数料の自由化には賛成です。両手仲介の禁止をしなくても、この負の状況を変えることはできると思っています。例えば、一番手に買い付けを入れたい方がいたときに、売主がいったんクローズして交渉するのか、買い付けをオープンにして、より高い条件提示があったら、そちらを優先して検討するかどうかの判断を仲介業者ではなくオーナー自身がしっかりできるようにするべきだと思います。
深谷:「おうちダイレクト」ではそのようなものを目指していたのではないですか?
風戸氏:はい。目指すところはそこでした。あくまでも、個人売り出しでオーナーさんが判断するスタイルです。
公正な不動産仲介に向けての課題
深谷:両手仲介自体は否定しませんが、「囲い込み」は問題だと思います。仲介の場合、例えば兄弟間で話はできていても問題が発生するかもしれないので、仲介に入ってくれないか、という依頼があります。こうしたケースでは実際に両手仲介が可能です。
また、売却の依頼を受けて、転載用でアットホームに物件情報が出て直接問い合わせが来た場合には、双方に事情を説明して、両手仲介になるケースがまれに発生します。しかし、私はこうした形の仲介が悪いのではなく、両手仲介を目指した囲い込み自体が問題だと考えています。
風戸氏:私は手数料を営業マンのインセンティブにしていることが原因であると思います。目標金額を仲介手数料収入で月200万円や300万円に設定していると、どうしても両手仲介にしたいと営業マンは考えます。自分の会社の中に見込み客がいるときに別の担当者が買う側を担当することや、囲い込みや業績の粉飾をしないということをルール化しなければ、本当にフェアな取引はできないと思います。
この点について、ソニー不動産では分かれて担当していましたので、フェアだと言えると思います。バイヤーズエージェントの担当者がお客様を連れてきたとき、エージェントは自分の物件で満足させる方向で営業をします。一方、他社から来た案内に買い付けが入る前にソニー不動産が入る場合は、金額の交渉のみで、後からよいプランが出てきたら当然後のプランを採用していました。
しかし、これは自分の成績に入らないというのがポイントです。自分の成績になるのであれば自分のお客様にしたいという気持ちになりますので、そうならないためには3%で成り立つようなオペレーションフォローをしなくてはなりません。
深谷:両手仲介については、宅建業法で明確にする必要があると思います。実際、囲い込みについて100人に聞けば、100人が悪いと認識しているのではないでしょうか。
両手仲介についてはいろいろな考え方があります。会社を経営していると、株主が求めるのは利益の最大化です。機会損失に注目した場合、この両手仲介の意味を宅建業法で明確にするべきだと思います。
編集部:ありがとうございました。