不動産のリアルREALITY OF REAL ESTATE

  • 最終更新日:2018年8月14日
  • 公開日:2017年6月27日

空き家対策で仲介手数料の規制は緩和されるのか?

産経新聞は、2017年6月5日付の記事で、「国土交通省が、今後の空き家の有効活用に向けて、不動産事業者の仲介取引を活性化させる狙いで、比較的価格の低い空き家の取引において仲介手数料の上限規制を緩和する方向で検討に入った」と報道しました。

 
空き家取引活性化へ仲介手数料の上限緩和 国交省が告示改正を検討:産経ニュース
 
具体的には、不動産会社の仲介手数料の上限額を定める国土交通省の告示を、下記の条件を加えて改正する方向だとしています。
 
•空き家取引が対象
•取引価格400万円以下が対象
•調査費用などの必要経費を、従来の上限額に上乗せすることができる
•上乗せ金額と従来の上限の合計金額は18万円を超えないこと
 
これまで空き家の売却においては、次のような点が不利とされてきました。
 
•遠隔地にあることが多く、交通費などの調査費用がかさむ
•築年数が古いため売買価格が安く、仲介手数料も安い
•成約率が低いため、不動産会社のモチベーションが低い傾向にある
 
これを受けて、空き家対策として改正案が検討されてきました。
 
さて、こうした改正案は本当に空き家対策に功を奏するのでしょうか? 空き家問題の現状と対策を振り返ってみましょう

 
オペレーター
(写真はイメージです)
 

空き家の現状

 
総務省が2015年2月に公表した2013年住宅・土地統計調査では、空き家の総数は820万戸となり、5年前よりも63万戸も増加しています。これは総住宅数の13.5%に相当し、空き室数・空き家率ともに過去最高となっています。
(出典:総務省統計局ホームページ/空き家等の住宅に関する主な指標の集計結果について
 
また、同調査では5年間で増加した空き家のうち、49.6万戸(79%)が一戸建てです。さらにその99.6%が「その他の住宅」となっています。
 
「その他の住宅」とは、賃貸用・売却用・二次的住宅(別荘など)以外の住宅のことです。つまり、自家使用の住宅に住む人がいなくなり空き家となっている、もしくは、既に取り壊しを待つだけの空き家が増加しているということです。
 

表1-2 建て方別空き家数-全国
(平成20年、25年)

(万戸)

総数 一戸建 長屋建 共同住宅 その他
平成20年 756.8 250.4 41.6 462.3 2.6
平成25年 819.6 299.9 45.5 471.2 3.0
増加数 62.8 49.6
(79.0%)
3.9
(6.2%)
8.9
(14.2%)
0.4
(0.6%)

 

表1-3 建て方、空き家の種類別増減数-全国
(平成25年-20年)

(万戸)

総数 一戸建 長屋建 共同住宅 その他
空き家総数 62.8 49.6 3.9 8.9 0.4
二次的住宅 0.1 0.9 0.0 -0.9 0.1
賃貸用の住宅 16.5 -1.5 2.7 15.3 -0.0
売却用の住宅 -4.1 0.8 -0.2 -4.8 0.1
その他の住宅 50.3 49.4 1.4 -0.7 0.2

(出典:同上)
 

空き家増加による問題点と対策

 
空き家が増加している背景には、人口減、過疎化と郊外から都心部への人口集中、高齢化、単身世帯化など複数の社会構造上の問題があるといわれています。
 

空き家の増加による問題点として、以下が指摘されています。
 
•防災上の問題(倒壊など)
•防犯上の問題(廃棄物の不法投棄、無権利者の利用など)
•公衆衛生上の問題(悪臭、衛生管理の不徹底など)
•景観上の問題
•自治体の収益悪化(固定資産税・都市計画税の収入減、所有権者追跡費用の増加)
 
こうした問題点は2010年前後から地方自治体を中心に問題視されており、国土交通省は2013年11月に「空き家問題の現状と取組みについて」としてまとめ、対策を続けています。
 
参照:空き家問題の現状と取組みについて

 

これには、空き家の現状把握、除去や改修のための費用補助、流通活性化のための相談体制やビジネス育成普及について言及されています。
 
現実的な取り組みとしては、2015年5月に「空き家等対策の推進に関する特別措置法」が全面施行されました。近隣に悪影響を与えるとする空き家を「特定空き家等」に指定し、除去や修繕、立ち木の伐採など必要な措置を地方自治体が助言・勧告・命令できるとする法律です。
 
2016年の税制改正では、この法律を支援する目的で、特定空き家等の土地は、固定資産税の「住宅用地の特例」の対象から除外されました。これにより、固定資産税が最大で6倍近くになってしまうことから、所有者に空き家の除去や活用を促そうという改正です。
 
また、空き家の物件情報を登録した「空き家バンク」の運営に全国約6割の自治体が取り組んでおり、その全国版についてもシステム構築が検討されています。
 
今回の不動産仲介手数料の上限緩和も、こうした対策の一環と見なすことができます。
 

仲介手数料の仕組み

 
ところで、不動産売買における仲介手数料がどういうものかをまず知らなければ、この上限緩和の効果を知ることはできませんね。
 
不動産の売買を仲介する場合の報酬は、宅地建物取引業法で、国土交通大臣がその上限を定めると決められており、その上限を超えることは基本的にできません。また成功報酬であるため、売買が成立しなければ、それまでにかかった調査費用などを請求することも基本的にできません。
 
上限額はこのようになっています。

 

売買価格  報酬上限
 400万円を超える金額  対象金額の3%+消費税
 200万円を超えて400万円以下の金額  対象金額の4%+消費税
 200万円以下の金額  対象金額の5%+消費税

 
こうした仲介手数料の仕組みから、売買単価が安く、成約率が低い空き家の売買は、不動産会社のモチベーションが上りにくいと考えられ、その対策として今回の上限緩和が検討されていると思われます。
 

 

 

現場から見たら、がっかりです。

 
筆者も不動産仲介を生業としているプロの端くれです。「空き家対策として仲介手数料の上限緩和」と聞いて、期待して新聞記事を読みました。しかしその内容には正直、がっかりしました。その理由を以下にご説明します。
 

(1)特別の依頼業務の請求は認められている

 
もともと、遠隔地への出張費用や特別な依頼に基づく広告については、仲介手数料の上限規定の適用除外として費用の請求が認められています。
法律上明文化はされていませんが、国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」には明記されており、判例も支持されています。
 
参照:宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方
 
実費であること、事前に依頼者の承認を取ることなどの要件はありますが、空き家取引のための特別なコストであれば、従来のままでもコスト回収が可能なのです。
 

(2)400万円以下の空き家を少しでも高く売るモチベーションが下がる。

 
売買金額400万円の仲介手数料の上限額はこれまで通り18万円で、これに上限緩和は適用されません。一方で売買金額が300万円だと、これまで上限額は14万円でしたが、上限緩和が適用されれば18万円で同じになります。
 
400万円で売っても300万円で売っても手数料が変わらないのでは、高く売ろうとするモチベーションが不動産会社から失われてしまうでしょう。
 

(3)インセンティブが少ない

 
大手不動産会社29社の2016年実績のアンケート調査によると、成約1回当たりの仲介手数料は、平均225万円だったそうです。成約率や成約にかかる時間・コストを鑑みると、大手の不動産会社がこの程度のインセンティブで空き家対策に本気で取り組むとは思えません。
 

(4)上限緩和の負担が依頼者

 
仲介手数料を支払うのは依頼者です。依頼者側にも、積極的に空き家の売却を進めようとするだけのインセンティブが必要でしょう。
 

空き家対策にはドラスティックな対応策を!

 
空き家が増加していく原因は、少子化・人口減少など社会の構造変化だといわれています。また、空き家を地方自治体に寄付しようとしても、固定資産税などの税収減が見込まれ、それもままなりません。しかし手をこまねいていても、空き家の増加は止められません。
 
空き家の流通・活用の促進策として、不動産仲介会社にインセンティブを与えてモチベーションを上げさせる、という発想は評価すべきです。
 
財源の問題はありますが、空き家取引に限っては手数料の上限を撤廃し、その補填は国や地方自治体が行う、といったことも考えていく必要があるのではないでしょうか。
 
早坂龍太(宅地建物取引士)
龍翔プランニング 代表取締役。1987年北海道大学法学部卒業。石油元売り会社勤務を経て、2015年から北海道で不動産の賃貸管理、売買・賃貸仲介、プランニング・コンサルティングを行う。
 
 

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