一生の一度の高額な買い物「マイホーム」。ほとんどの方は、何らかの形で住宅ローンを利用されるでしょう。住宅ローンと一口に言っても、金利や特約、返済期間など、商品ごとに様々な特色があります。どう選び、どう組むのかをFPの筆者が、共働きでご主人が公務員の世帯のご夫婦のから相談実例に基づき、住宅ローンの組み方をアドバイスします。
【相談内容】
4,000万円の住宅を夫婦で購入する予定です。幸い住宅ローンの審査は通りそうですが、ローンの組み方で悩んでいます。返済リスクを最小限に抑えたいのですが、どんな方法がベストでしょうか。
【プロフィール】
•年齢:30代後半のご夫婦
•職業:夫は公務員、妻は会社員(正社員)
•家族構成:夫婦、子供2人(7歳と4歳)
•結婚10年目で世帯の貯蓄額は800万円
•親からの援助は計500万円ほど期待できる
(写真はイメージです)
安全な住宅ローンの組み方とは?
相談者のご夫婦は、とにかく「安全に住宅ローンを組みたい」という意向で、以下のように住宅ローンを組もうと考えていました。
- 頭金を多くして、借入額を減らす
- 手厚い団体信用生命保険(団信)に加入し、働けなくなった場合に備える
- 全期間固定金利(フラット35)を選択し、金利変動リスクをなくす
非常に慎重な考えをされていると思います。
上記の「団信」とは、債務者が死亡・高度障害状態になってしまった場合に、住宅ローンの残債がゼロになるという保険です。ですから例えば、夫は団信・妻は生命保険という方法でも良いのですが、今回の相談者は「絶対に夫婦で団信に」と考えていました。
フラット35の団信である「夫婦連生団信」は、夫婦のどちらかに何かあっても、住宅ローン全額が団信の対象になります。しかし2017年6月現在、この保険料は1人加入時の特約料の約1.56倍と割高な上に、ガンやその他の疾病をカバーする特約は付いていません。
こうした事情をご夫婦に話すと、「保険料がかかるのは構わないが、ガンやその他の疾病に備えられないのは困る」と、民間のガン保険・所得保障保険に新たに加入したいと言われます。しかしそれでは、せっかく頭金を多くしても、団信や民間保険の保険料で返済が圧迫されてしまいます。
聞けば、お子さん2人は中学からは私立を希望しており、学費や塾の費用も増えていくと予測できます。貯蓄を頭金に充てたとしても家計が立ち行くのか、十分検討する必要があるでしょう。
住宅ローンの組み方はさまざま
「堅実」を第一に考えているご夫婦ですが、共働きで収入も良いご夫婦が、そこまで頭金を多くし、さらに団信や保険にお金をかける必要はあるのでしょうか?そこで、他にも方法があることを提案しました。
提案1 頭金を減らす
今後の教育費に備えて貯蓄を温存することも必要です。借入額が多少増えても、夫婦共に住宅ローン控除を利用すれば節税メリットが得られます。
提案2 変動金利の選択
夫婦とも安定した収入があり、さらに貯蓄もあるならば、変動金利の金利変動にも対応できる可能性が高いです。そうすればフラット35以外にも選択肢が広がり、無料で団信に加入できる住宅ローンも検討できます。
なお、民間の保険では通常の団信は、ほぼ無料になります。民間の住宅ローンを利用し、夫婦のうち返済比率が高い方のみ特約を付けるなど、より高リスクの部分のみカバーするといった工夫も可能です。
さらに、諸経費は割高になりますが、夫婦で固定・変動別々のローンを組む方法もあります。そうすれば、もし将来金利が上がるようであれば、変動金利を繰り上げ返済することで金利変動のリスクに備えられます。
提案3 ガン保険に加入することの是非
借金を抱えるわけですから、保険でリスクヘッジすること自体は間違っていません。しかし、ガン保険はあくまで入院費や治療リスクに備えるもので、住宅ローンの支払いリスクに備えるという性質のものではありません。
住宅ローンに備えるためには、診断一時金や入院日額を高額にする必要があります。それならば、ガン特約のある団信に加入したほうが合理的です。
住宅ローンによる返済額の比較
夫婦は、今後に備えて預貯金を温存することには納得したものの、変動金利の選択には疑念が残るようでした。そこで、返済額がどの程度異なるのか、シミュレーションを作成しました。
※諸経費は考慮しません。また計算上、端数に若干の誤差があります。
【条件】
物件価格:4,000万円借入額:3,500万円(頭金500万円)
シミュレーション1 フラット35S の場合
適用住宅ローン:フラット35S金利プランB(当初5年金利0.3%引き下げ)
団信:夫婦連生団信(死亡・高度障害保障)
毎月返済額 |
当初5年:102,095円
6年目以降:106,480円 |
団信保険料 |
3,759,900 円 |
総返済額 |
48,218,430 円 |
すでに述べた通り、「夫婦連生団信」は死亡および高度障害しか担保していないため、別に「ガン保険」「所得補償保険」に加入する想定です。病気やケガで収入がなくなった場合に毎月一定額を受け取れる所得補償保険は、30代ですと保険料は4,000~5,000円程度のものが多いです。夫婦で加入すると、月10,000円程度、支出が増えてしまいます。
シミュレーション2 民間住宅ローンの場合
8大疾病をカバーする団信が無料の金融機関を選び、夫婦で別々の住宅ローンを組む想定です。
適用住宅ローン:楽天銀行住宅ローン(参照 住宅ローン借り換え/楽天銀行)
夫:変動金利 0.5%
妻:10年固定 1.1%
団信:ご夫婦ともに8大疾病保障付団信(保険料無料)
毎月返済額 |
夫:51,917円
妻:43,045 円 |
団信保険料 |
0 円 |
総返済額 |
39,883,845円 |
※金利変動は考慮していません
ご覧のように、金利変動を考慮しない場合、両者の総返済額に100万円以上の差が出ました。
「シミュレーション2」では、当初の諸経費がやや多くかかること、金利変動リスクがあることは事実です。しかし一方で、別の保険に加入する必要がありません。
少なくとも当初はトータルで20,000円程度、毎月の返済額が少なくなると考えられます。仮にそこから10,000円を繰り上げ返済費用としてプールしておけば、5年で60万円、10年で120万円が確保できます。金利が上昇局面となれば、その資金や温存していた預貯金を活用し、毎月返済額の上昇を抑えられるのです。
ダブルインカムの世帯であれば、返済リスクを過度に恐れることはありません。むしろ、リスク軽減のためのコストが教育費などを圧迫してしまうことの方が、世帯全体にとっては良くないでしょう。このご夫婦も、実際に数字を見ることで、保障を厚くすればそれだけコストがかかることを実感したようです。
繰り上げ返済の是非は
最終的に、夫婦は変動金利を選択されました。その理由として、妻の就業状況の変化にあります。
もともと、夫は公務員で収入が安定していました。一方、妻は正社員とはいえ時短勤務でした。しかし上の子供が小学校入学、下の子供も4歳になり、子育てのために仕事をセーブすることが今後は減っていくと推測されます。
世帯収入の見通しが立ち、世帯全体のシミュレーションを行ったところ、比較的余裕ある返済ができることが分かったのです。そして温存した貯蓄額800万円があれば、金利変動にも対応できます。
繰り上げ返済したほうがいい場合、しなくてもいい場合
最後に繰り上げ返済についてですが、ローン金利が上がる局面では、どんどん繰り上げ返済していくのも有効です。しかし金利水準が同程度であれば、慎重な判断をしたいところです。
公務員の夫と正社員の妻というこのご夫婦ならば、収入が安定していますので必要以上に繰り上げ返済をする必要はありません。大規模な繰り上げ返済は、教育費のピークが終わってからでも十分です。教育費がかかる間は、基本的に繰り上げ返済をしない、もしくは返済額が大きくならない程度の繰り上げ返済で良いでしょう。
ご夫婦には、繰り上げ返済を行うならば、教育費が一段落する15年後(第2子の大学入学)以降をおすすめしました。その時期ならば、期間短縮型でより効果の高い返済も有効でしょう。
まとめ
安定した職に就き、貯蓄の十分ある人は、頭金や繰り上げ返済を多くする余裕があります。それは悪いことではありませんが、収入が安定している世帯であっても、あえて預貯金を温存しておくメリットは大きいです。今の収支だけを見ず、家計全体にとって、将来にわたり望ましい住宅ローンの借り方・返済計画を考えてみましょう。
参照サイト
機構団信とは/フラット35
所得補償保険/損保ジャパン日本興亜
住宅ローンの特徴/住信SBIネット銀行
長期8疾病就業不能保障特約付団体信用生命保険/楽天銀行
横山晴美(ライフプラン応援事務所代表)
2013年にFPとして独立。企業に所属せず、中立・公平の立場で活動する。新規購入・リフォーム・二世帯住宅を問わず、家に関することなら購入額から返済計画まで幅広く対応。(AFP FP2級技能士 住宅ローンアドバイザー)