数年前からの建築コスト急騰を受け、新築マンションは高騰かつ供給が十分と言えない中、中古マンションを購入の選択肢に加える人が増えています。特に、リノベーションが行われたマンション(リノベーション物件)は、仕上がった部屋を見て納得して購入できる上、リフォーム費用も含め一本でローンを組めることなどから注目されています。
しかし、メリットばかりではありません。素敵な内装に目がくらんで購入したものの、後悔する人も少なくないようです。こうしたリノベーションのマンションを賢く購入するためには、リノベーション物件の特徴と注意点を理解する必要があります。今回は、失敗しないリノベーションマンションの選び方を探ります。

(写真はイメージです)
リフォームとリノベーションの比較
まずリフォームとリノベーションの違いについて考えてみたいと思います。
リフォームの基本的な考え方は、「原状回復」であり、中古マンションをできる限り新築時に近い状態まで復旧させることです。畳や壁紙の張り替え、バスタブやシステムキッチンの入れ替えなども含みますが、見えない配管部分などはそのままです。したがって、きれいなリフォームをしても配管などの経年劣化はあり、多くの場合、住宅としての性能は新築時よりも劣ります。
一方、リノベーションとは「再生」です。リフォームよりも工事規模が大きく、間取りの変更(2部屋を1部屋にするなど)や、必要に応じて排水管や空調・換気設備の変更なども行います。住宅としての性能は新築時以上に向上し、価値は高まります。加えて、優れたデザイン性もリノベーションの付加価値です。
新築マンションとリノベーション物件の比較
リノベーション物件の、新築マンションにない最大のメリットは「価格」です。立地や物件にもよりますが、リノベーションした中古マンションは、同様の条件・面積の新築マンションと比べると、トータルで2~3割安い費用で済むといわれています。
「選択肢の多さ」も魅力です。供給の少ない新築マンションを、特定エリアで希望通りの物件を探すのは苦労します。しかし、リノベーション物件は豊富な中古物件を土台としていることに加え、新築よりも安い予算を設定できるため、「都心近くの物件」「住みたい駅から徒歩5分以内」などの幅広い要望に見合う物件も期待できます。
一方、新築と比べてリノベーション物件のデメリットは「耐久性」です。室内(専有部分)の住宅性能は新築以上となっても、建物本体の基礎や構造(共用部分)は古いままですから、築年数と状態には注意を要します。耐久性によほどの確証がなければ、耐震基準の大幅な見直しが行われた1981年6月以前に建築確認を受けた物件は避けた方が無難でしょう。
また、リノベーションといっても、共用部分や建物全体の基本的な構造は変えられません。管理組合が行う大規模修繕だけが、共用部分や構造・外壁・配管などに手を加えられます。この意味でも、マンション全体の状況確認は必要です。
自分でリノベーションする場合と既存のリノベーション物件の比較
近年は中古マンションを購入し、その後に自分でリノベーションするというケースも増えています。これと比べて、既存のリノベーション物件の最大のメリットは「仕上がりの確認」と「即入居」です。
自分でリノベーションする場合、中古マンションの購入時からリノベーション後のイメージを考えておかねばなりません。対してリノベーション済みの物件は、どのような仕上がりで、どのくらい住宅性能が上がったのかを実物で判断できます。さらに引き渡し後は即入居できますから、工事の打合せから施工完了までの住宅費用も不要です。
また、自分でリノベーションする場合はマンションの住宅ローンと、リノベーション費用として自己資金もしくは住宅ローンよりも金利の高いリフォームローンを組む必要がありますが、リノベーション物件では1つの住宅ローンで済みます。
さらに「仲介手数料無料の可能性」も見逃せません。一般的に、中古マンション購入時には物件価格の3%+6万円(消費税別)の仲介手数料を支払います。3,000万円の物件ならば約100万円です。一方、リノベーション物件の売主はほとんどの場合個人でなく、リノベーションした不動産会社です。この場合、仲介手数料無料の不動産会社に仲介を頼めば手数料を節約できます。これは売主から直接購入しても同様です。
一方のデメリットは「リノベーションの自由度」。自分でリノベーションする場合は内容やデザインなどを自分の希望で決められますが、リノベーション物件はそうはいきません(ただし工事前であれば、壁紙・床の色や簡易な間取り変更などの希望を出せる場合があります)。
またリノベーション物件は、中古マンション価格に設計費・工事費などのリノベーション費用と利益が上乗せされています。リノベーションのノウハウを持っている、あるいは信頼して任せられる低価格な施工会社がある方は、自分でリノベーションした方が安い可能性があります。
損をしないリノベーションマンションの選び方
ここまでの比較から浮かび上がる、失敗しないリノベーションマンションを選ぶポイントとは、2つの「価値」です。
まずは、リノベーション抜きの「中古マンションとしての価値」を検証します。
生涯の住まいとして購入しても、その後の家族や仕事の変化によって住み替えをする可能性はゼロではありません。そして売却時にローン残債が売却価格を上回ると、次の住居や生活への大きな足かせとなります。「資産価値の落ちにくいマンション」が失敗しない選び方の基本です。
マンションの資産価値には、各住戸と併せて、共用部を含めた建物全体の持つ要素が大きく影響します。「立地」と「規模の大きさ」は新築と同様に大切ですが、加えて中古マンションは、「建物」と「管理の状態」が鍵です。
中古マンションにおいて建物全体の劣化は、大規模修繕の費用がかさむだけでなく、建物の寿命に直結します。また建物管理の状態は、建物そのものの状態や立地以上に、資産価値に影響すると言えるかもしれません。
この「建物」と「管理の状態」を把握するためには、現地での建物調査が重要です。建物の外観や廊下などの共有部分は、劣化状況に加え、清掃と利用状況に目を光らせます。総会や理事会の開催状況、管理規約の内容はもちろん、長期修繕計画の内容や積立金の状況の確認も忘れてはなりません。もし自分の目に自信がなければ、信頼できる建築家やマンション管理士及び宅地建物取引士などの専門家に助言を求めたいものです。なお、地盤に不確定要素がある地域では、マンション管理組合が保有する竣工図書で、地質や地盤改良について確認することをおすすめします。
立地と規模、そして「建物」と「管理の状態」が及第点ならば、同エリアの新築・中古マンションの価格を調べます。どんなに良い物件でも、相場よりも高く買ってしまえば、売却時に損を出してしまうのです。
もう1つは、「リノベーションの価値」の検証です。詳細な言及は省きますが、配管など見えない部分の工事も含め、何をどのようにリノベーションしたのか、工事内容を提示してもらい、疑問点はしっかりと説明してもらうことが肝要です。工事費用も教えてもらえれば、先に調べた中古マンションの相場価格にプラスすることで、物件価格が適正かを判断する目安になります。また、工事の保証内容と保証期間もリノベーションの価値の大きな要素です。
素敵なリノベーション抜きの素顔の中古マンションが「資産価値の落ちにくいマンション」と言え、納得できるリノベーション価値と適正な物件価格を併せ持つ物件が、「失敗しないリノベーションマンション」選びの条件といえるでしょう。
吉久 凛(よしひさ・りん)
ライター 兼 大家。IT関連会社でワーキングマザーのかたわら夫を巻き込み不動産投資歴10年。現在RCマンション2棟24部屋と貸家4軒所有。宅地建物取引士。上智大学卒。