「若い頃、郊外に庭付き一戸建てを購入したけれど、老後はより便利な都心で過ごしたい」「子供が独立して広さを持て余すようになった」などの理由でマンションへの住み替えを検討している人も多いかと思います。マンションを購入すると修繕費や管理費が必要になることは知っていても、その金額がどう決まるのかは意外と知らない人が多いです。それらの費用と密接に関連する管理組合や区分所有の考え方について確認しておきましょう。
(写真はイメージです)
分譲マンションとは
マンションと一戸建てとの大きな違いとして、所有権に関する考え方が独特であることと、管理費・修繕積立金が必要になることが挙げられます。まずは所有権の考え方から説明します。
分譲マンションの所有権とは
賃貸物件と違い、分譲マンションを購入すれば所有権が発生します。所有権は強い権利であり、俗にいう「区分所有法(建物の区分所有等に関する法律)」に規定や事項が定められています。区分所有法によると、マンションを購入したとき所有権が及ぶ範囲は3つです。
●専有部分 購入した人が過ごす「部屋」にあたります。マンションを購入するという場合に通常、思い浮かべるのはこの部分です。
●共用部分 建物の玄関や廊下、エレベーターなど住民全員が共有する部分です。
●敷地利用権 専有部分を所有するための、建物の敷地に関する権利です。部屋の占有面積に応じてその敷地面積の利用権利を与えられる、と考えてください。
分譲マンションというと、部屋を買うというイメージがあると思いますが、法律上その部屋だけを切り取って所有することはできません。共有部分や敷地面積も含めて購入することになります。それは、マンションを購入すると区分所有者として、建物全体に対する責任が生じるということを意味します。
実際に責任を履行するのは「管理組合」です。建物の維持管理、使用方法に対して、規約や取り決めを行うのですが、後で詳しく説明します。
マンション購入時に忘れてはいけない費用
次に、マンション特有の諸経費である「修繕費(修繕積立金)」と「管理費」について見ていきましょう。
修繕費
長期修繕計画にそって修繕を実施するために積み立てておく費用のことです。
管理費
エレベーターの保守点検やエントランスの清掃など、共用部分を維持管理するための費用です。
一戸建てでも維持管理費は発生しますし、将来的に修繕やリフォームが必要になることも多いです。一戸建てであればリフォームをする時期や金額を自分の都合で調整できますし、場合によってはローン返済の途中でリフォームローンを組みなおすことも可能です。しかし、マンション修繕費は自分の都合で減らしたり時期を遅らせたりといったことはできません。決まった額を毎月きっちり支払っていかなければならないのです。
管理費・修繕積立金は将来上がる?!
重要なのはこれらの金額は変わることがあることです。売り出し当初は販売会社が管理費・修繕積立金の額を決めますが、それほど高い額ではありません。まだ新しいうちは修繕の必要性が薄く、価格が高くなることで見込み客に敬遠されないようにする目的もあるかもしれません。
しかし、不測の事態や物価の上昇などがあれば管理組合の議決を経て値上がりすることになります。現在の管理費・修繕積立金費用を見て安心してはならない、ということがいえるでしょう。
修繕積立費が不足すると
火事や災害が起きて修繕が待ったなしとなった場合に修繕積立金が不足しているとどうなるのでしょうか? ひとつは一時金として入所者から資金を徴収する、という方法があります。しかし、入居者の負担が大きくなるため賛同を得にくいでしょう。もうひとつの方法として、マンションでリフォームローンの融資を受けることです。頭金のような負担がないので賛同を得やすいですが、金利が付されますので結局、負担は重くなります。返済のために修繕積立金が値上げされるのも避けられないでしょう。
修繕積立金や管理費は家計に大きな影響を及ぼす恐れがあります。動向を知るためにも、購入後は管理組合の集会に参加して、自分のマンション管理や修繕計画をしっかり知っておきたいですね。
管理組合の議決とは
管理組合の集会についても区分所有法で定められています。議決権やその効力について、基本的な部分をご紹介します。
集会
少なくとも年に1回は集会を招集しなければなりません。集会の参加権者は区分所有者となります。
議決権とは
管理組合の決定は投票によってなされます。一戸で一票のケースもあれば、保有面積の割合で一戸の持つ票数が変わることもあります。小規模な部屋と広い部屋が混在しているマンションに関しては、どちらの議決方法なのかは重要になるかもしれません。また、この場合は修繕積立費などの負担割合も大きくなる可能性もありますので、事前に確認しておくとよいでしょう。
規約の変更
通常の議決は過半数で決をとります。しかし、規約の設定・変更・廃止については区分所有者及び議決権の各4分の3以上となります。ただし、それらの設定・変更・廃止により特定の所有者の権利が特別に影響を受けるようなときは、その所有者の承諾が必要です。
復旧や建て替えの議決
建物の価格の2分の1以上が焼失したときは、4分の3以上の議決があれば焼失した部分の共用部分を復旧する議決が可能です。建て替えの場合はさらに条件が厳しくなり、5分の4以上の議決が必要となります。
規約の効力
規約の効力は、所有者ではない賃貸人や、その後その部屋を購入した承継人等にも及びます。購入直前の議決により修繕費積立金や管理費が値上がりしたとしても、異議を申し出ることはできないのです。
購入時の注意点
マンション購入時には管理費と修繕積立金に注意しなければならないことはお分かりいただけたでしょうか。では購入前にはどのような点に気を付けてマンション選択するべきなのでしょう。
可能であれば、「修繕計画書」や「管理組合の議事録」を閲覧したいものです。
修繕計画書からわかること
修繕計画書に長期的に手厚い修繕計画が書かれているならば、今後も値上がりの可能性は少ないでしょう。逆に修繕計画が10年程度の短期的なものだったり、長期であっても最低限の項目しか盛り込まれていなかったりするならば、値上がりが濃厚といえそうです。
議事録からわかること
今までに集会で修繕費の値上げが議題として取り上げられているか確認したいです。取り上げられているにもかかわらず、議決が退けられているならば、積立金が少ししかないと予想され、本当に必要なときに一時金として徴収されたり、その後に大幅に値上げされたりする可能性もあります。
これらの書類は、自分で請求しなくとも契約時に用意されているかもしれません。しかし、契約時ではなく事前に確認することが大切ではないでしょうか。修繕計画書や議事録の事前閲覧には手数料を求められるかもしれませんが、大事な経費の確認なのでそれは払ってでも閲覧することをおすすめします。早期に確認すれば、問題を見つけたときに購入自体を回避できるからです。
ライフプランからはどう考えるべきか
管理費と修繕積立金をライフプランの点から考えると、値上がりを想定して購入価格を調整しておくのがおすすめです。仮に両費用が2倍程度に値上がりしても支払えるだけの資金があるか計算してみましょう。資金が枯渇するようならば、購入価格を見直すか、その費用をねん出できる家計の見直しが求められます。
ここで「購入は可能なのに諸経費のために価格を落とすのは嫌だ」などと思うのは間違いです。諸経費も含めた価格こそ、あなたが購入できる価格だからです。せっかく試算をするならば、固定資産税も含めてシミュレーションしたいですね。
まとめ
管理費や修繕費は購入額や借入額と比較すると小さい金額かもしれません。しかし一生支払い続ける費用のため、侮ることはできません。返済計画、もしくは老後資金の準備のために、しっかり把握しておきましょう。
横山晴美(ライフプラン応援事務所代表) 2013年にFPとして独立。企業に所属せず、中立・公平の立場で活動する。新規購入・リフォーム・二世帯住宅を問わず、家に関することなら購入額から返済計画まで幅広く対応。(AFP FP2級技能士 住宅ローンアドバイザー)