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  • 最終更新日:2018年8月13日
  • 公開日:2017年5月28日

マンション管理費の滞納問題は解決できるのか?マンションの管理費滞納問題は解決できるのか?――弁護士に聞く弁護士に聞く(2)

日頃のマンション管理の問題でダントツに多いのが管理費の滞納だという。「マンション弁護士会計士.com」を運営し、マンションのトラブルを手がける神戸靖一郎弁護士に管理費滞納問題への取り組みについて聞いた。

 

これから増える!?―マンション管理費の滞納問題は解決できるのか?

 
Q.マンションの管理費や修繕積立金の支払遅延は、増えていく傾向にありますか?
 
神戸弁護士:マンションによります。マンションの管理費滞納は、解消されるメカニズムは、制度の中に組み込まれています。区分所有法の第7条、第8条で、次の区分所有者が前の区分所有者の滞納分の管理費を負担するというルールがあり、これが非常に強力な制度となっています。
 
例えば、マンション管理費を滞納して、にっちもさっちもいかなくなって誰かに売るとき、売主は本来、滞納している管理費を払わなくてはいけないので、1,000万円くらいの市場価値がある物件を、滞納している管理費分100万円を引いて900万円で売ります。管理組合は、区分所有法の第7条、第8条に従って買主に滞納管理費を請求すればいいので、区分所有者が変われば、基本的には払ってもらえます。買主側も、管理費を引いた金額で買っているので、文句が出ないというメカニズムです。
 
また、抵当権が設定されているケースがあります。管理費を滞納している人は、銀行の住宅ローンも滞納していることが多く、住宅ローンを放置していると、不動産の抵当権が実行されます。管理費には優先配当されるルールがあり、競落人は自分で管理費を背負わなくてはいけないルールもあるので、管理組合は、競売の配当でもらうこともあるし、配当でもらえなかったとしても競落人に請求すればいいわけです。
 
競落人が不動産業者や身元の確かな人であれば、そこで必ず回収できるという正のメカニズムが働いているので、市場価値が1,000万円以上あるマンションについて言えば、管理費滞納はそれほど深刻ではなく、いずれかの段階で解決される問題です。管理費の時効が5年なので、時効のことにだけ気をつけていれば、遅延損害金が18%や20%と高い分、結果的にマイナスとはならないマンションも多いですね。一般の人はその辺りのメカニズムに詳しくないので、弁護士が関与することが多いです。
 
このメカニズムが働かない場合に、どうやって動かすか、というのが弁護士の仕事になってきます。タワーマンションでは、まだ深刻な問題になってきません。ローンが払えなくて残債が残っていても、競売にかけられても、滞納管理費の処理はそのときに実行されるからです。またタワーマンションに限らず、山手線沿線のマンションだったら、そんなに深刻な問題は起こりません。
 
既に問題となっているのは、郊外の物件です。物件の価値が1,000万円を割ってくるようになると、買い手もつかず、滞納だけが残るという事態が起こります。将来的には、正のメカニズムが働かない事案、つまりキャッシュで買ったけれども放置するという事案は増えていくと思います。

 

相続人のいない所有者が亡くなった場合は・・・

 
神戸弁護士:キャッシュで買われたマンションが放置されて問題になるのは、相続人がいない所有者が亡くなってしまう事案で、文字通り放置されるケースです。独身でひとりっ子の人が亡くなったら、相続する人がいません。最終的には残された財産は国のものとなりますが、実務上、自動的に国に納められるようなメカニズムにはなっていません。相続財産管理人を選任して、その人が売ったり競売にかけたりして換価した上で、管理費等を払うという手順です。
 
相続人がいないまま放置されている物件でも、銀行が抵当権をつけていれば、回収のために処理がされますが、キャッシュで買われた物件は処理する人がいません。弁護士に依頼が来る案件は、誰も手が付けられないような事案です。管理費回収のためには、管理組合が相続財産管理人の選任をしなくてはなりませんが、その際、裁判所への予納金が、関東近辺だとおよそ100万円かかります。
 
実際にこうした相談は増えています。管理組合が相続人を探すことは難しいので、司法書士や弁護士に任せることになります。相続人が見つかればいいのですが、相続人がいなかったり、相続人がみんな放棄していたりすると、相続財産管理人を選任しなくてはなりませんが、選任したとしても、滞納管理費を取れるかどうかわかりません。隠れた借金がたくさんあったり、管理費より税金の方が優先されたりして、100万円の予納金をかけても、返ってくるという保証はなく、やってみないとわからないという状況です。
 
タワーマンションの管理組合であれば、おそらく100万円程度の費用は負担できるでしょうが、50戸程度の戸数で、一戸あたりの市場価格が1,000万円程度のマンションの場合、管理組合にとって100万円の負担がどれだけ大きいかということです。3戸、4戸の区分所有者が、年間に払う管理費に相当するのですから、規模の小さなマンションの管理組合にとっては大きな額です。
 

相続財産管理人に係る予納金の見直しが必要

 
そろそろ制度改革をしないと、管理費をめぐる正のメカニズムから外れた事案は増えていくばかりです。制度改革をするとすれば、まずは相続財産管理人の選任について、裁判所に納める予納金を下げるということでしょう。20万円くらいに下げれば、解決につながるのではないかと思います。
 
一人っ子で独身の方でも、マンションを買っている方は多いですね。お亡くなりになる頃には、ローンが終わっているか、あるいは、団体信用生命保険でローンがなくなります。そうなると、普通に暮らしていて、マンションを買って、孤独死する人にはマンションが残ります。そのマンションの後処理に困ることになります。
 
解決方法のひとつは、遺言を書いてもらうことです。しかし、遺言書で財産全部をあげる人がいればいいのですが、なかなかいないし、組合が区分所有者に対して「遺言を書いてください」というのは難しいですね。
 
Q.リバースモゲージは解決策になるのでしょうか?
 
神戸弁護士:確かにリバースモゲージはよい制度で、管理費を正のメカニズムに乗せる制度です。彼らが根抵当を設定して、必ず債務が残る状態にして、勝手に抵当権を実行してくれるのでいいのですが、実際に効果が上がるのは資産価値の高いマンションでしょう。市場価値で1,000万円以下のマンションが、リバースモゲージを受けられるのか? という話です。マンションはどんどん価値が下がっていきます。
 
特に郊外や地方で、ひと昔前に2,000~3,000万円したマンションが、今は数百万円に下がっても買い手がつかないところがたくさんあります。郊外の駅からバスで20分といった団地も、当時は1,500万円とか2,000万円したと思いますが、数百万になっています。全体として、リバースモゲージは増えていくかもしれませんが、一定以上の資産価値がないと付けられないところに制約があります。
 
タワーマンションであれば、弁護士を立てて、予納金を積んで、処理すればいいのですが、それができない、あるいは、できにくいところが増えていって、管理不能になるマンションが多くなると思います。そろそろ対策を講じることが必要になるでしょう。そのひとつとして、相続財産管理人の制度の改革ですね。先の予納金100万円というのはあり得ない金額だと思います。

(3)続く

 
神戸 靖一郎 弁護士 第二東京弁護士会所属
慶應義塾大学法学部政治学科卒業、千葉大学大学院専門法務研究科法務専攻卒業、平成19年弁護士登録。仕事の中心は、交通事故等の損害保険、労働災害、マンション管理
麹町パートナーズ法律事務所 
 
※本記事は2015年10月24日のstorieでの掲載記事を関係者の許可を得て再掲載したものです。
 

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