2021年10月20日午前2時からNHKの『国際報道2021』で、「減速する中国経済 動揺する不動産市場の実態」と題して、経営危機が取り沙汰されている中国の不動産大手「恒大グループ(恒大集団)」の問題を取り上げました。かねてより中国の大都市ではマンション価格が平均年収の数十倍になるという不動産バブルに沸いていました。かつての日本でも行われたように、バブルが過熱すると国が規制を強化して冷やしにかかるものです。
この問題もその弊害だという見方が強いのですが、この問題に日本の不動産価格が左右されるようなことはあるのでしょうか。番組内容を振り返るとともに、「不動産のリアル」編集部でも考えてみました。
(不動産のリアル編集部)

(写真はイメージです)
中国経済の成長が鈍った3つの要因
番組ではまず、中国のGDP(国内総生産)を紹介します。2021年7~9月までのGDP伸び率は、前年同期比プラス4.9%。2021年1~3月期はコロナ禍からの落ち込みから大きくV字回復して18.3%の伸び率だっただけに、伸びの鈍化が鮮明になっています(中国の国家統計局による発表ということで、数字の信憑性に疑問を持つ人もいるかもしれませんが、それはさておき)。
その上で、中国経済の成長に陰りが見えていることの背景に3つの要因を指摘しました。
1つが世界的な半導体不足や中国国内での電力供給の制限などで、企業の生産が伸び悩んだことです。
2つめはこの夏、中国国内で新型コロナウイルスの感染が再拡大し、「ゼロコロナ」をめざす政府の強烈な対策によって観光需要などが落ち込むなどして、個人消費が振るわなかったことです。
3つめが、過熱する不動産バブルを潰すため、政府が仕掛けた不動産業界への規制強化です。このあおりを受けて、恒大グループが巨額の負債を抱えて経営難に陥ったことから、不動産市場が動揺していることです。番組で大きく取り上げられ、「不動産のリアル」でも注目したいのがこの3つめです。
東京ドーム100個分の巨大マンション群計画が廃墟に
経営難に陥っている不動産大手の恒大グループは2021年6月末までに中国国内で1200以上の物件を販売していたとされます。しかし、資金繰りが悪化し、各地で建設中の物件の工事が止まっています。
番組では、テーマパークや商業施設とともに3万戸のタワーマンション群を建築するとしていた恒大グループのプロジェクトが紹介されました。開発面積は500万平方メートルと、東京ドームに100個分にも及びます。
ところが、映像に映された建物群はひっそりとしており、人の気配はうかがえません。恒大グループから建設会社への支払いが滞り、工事がストップしたということです。放置された建築資材が無造作に積まれ、工事が中断している建物の内部にカメラが入っていきます。
すると、2,000万円を支払い、未完成状態でマンションを購入したという高齢男性がいました。このままではマンションが引き渡されないのではないかと心配する男性は、切羽詰まった表情で「必死に資金をためて買ったのにどうしたらいいのだ。政府がしっかり対応して社会を安定させることを望む」と訴えていました。
現場からはほとんどの作業員がいなくなっていて、まるで廃墟のようです。テーマパークなどの開発が進められていた場所には清掃員が残っていました。この清掃員にも給料の未払いが起きていて、清掃員として働いていた男性は「給料がずっと支払われていない」「恒大グループを恨まずにはいられない。彼らが私たちの会社に金を支払えば私たちも給料を手にすることができるはずだ」と話していました。
中国政府のバブル潰しは止まらない
こうした問題はなぜ起きているのでしょうか。番組の説明では、長年にわたる不動産バブルを潰すため、中国政府は新たな規制強化として2020年、不動産業者に対して負債を一定規模に抑えるなどのルールを示し、それらを守れない企業に対しては借り入れの制限を導入。結果、多くの不動産会社で資金繰りが悪化し、債務の支払いが不能になる企業が相次いだということです。
2021年に入って約10万の不動産業者のうち、規模が小さい業者など300社以上が経営破綻。不動産業界は裾野が広いため、建設資材や鉄鋼製品が生産されず、建設機械も動かないなど、関連産業にも影響が広がっています。
ダメージが大きい大手は恒大グループだけではありません。2021年10月に入って、香港市場に上場する「花様年グループ」と「新力グループ」が相次いで債務の支払いができないと発表しました。
番組では、中国の不動産業界に詳しい上海易居不動産研究院の厳躍進氏の話として「中国では多くの家庭の資金のほとんどが不動産に投入される不健全な状態になっている。政府はバブルのような状態を是正し、不動産が経済を縛ることを防ぐ必要がある。引き締め政策は一過性のものとはならないはずだ」との指摘を紹介していました。
つまり、中国政府のバブル潰しは続くということです。
最後に現地記者が「コロナ下では景気が過熱しても、景気の刺激策として政府も(不動産バブルを)容認してきた。しかし、景気回復が進んだ結果、不動産バブルを抑えるため、構造改革に舵を切った。このために市場に動揺が広がっている。コロナ後を見すえた政策が今は裏目に出ている」と解説しました。
われわれが強く興味があるのは、この問題が日本経済に及ぼす影響、そして不動産市場への影響があるのかということです。しかし、記者解説は世界経済への影響について「影響が大きいと思います」で終わり、あまり深い分析がありませんでした。
恒大グループ問題は対岸の火事なのか
現在のところ、国内メディアでは「リーマンショックの再来か?」のような煽り見出しで伝える記事は散見されるものの、連日大きく報道されるまでには至っていません。日本企業は警戒を強めてはいるもの、直接の影響は限定的との見方が強いようです。
2021年9月27日の時事通信の記事によると、恒大の主な借入先は中国の金融機関が多く、日本の主要な銀行や保険会社、証券会社による大規模な投資や融資の例はないということです。業界でも恒大と直接取引があるケースは見当たらず、日本建設業連合会の宮本洋一会長(清水建設会長)は「現実に問題があるという話は聞いていない」と言います。
2020年3月ごろにはコロナ禍による不動産業界への影響として、トイレなどの住宅設備が中国から入ってこなくなったことで住宅完成が遅れるなどの実害が出ていましたが、そういう話もないようです。
中国不動産バブル崩壊で日本国内不動産は手放されるのか
2021年10月20日の日経新聞の記事では、中国の主要70都市の新築マンション価格は6年5カ月ぶりに前月を下回ったと伝えました。
記事では先述の不動産シンクタンク、厳躍進氏の「住宅価格は過熱から過度な冷え込みへ変わるリスクを警戒すべきだ」とのコメントも引いています。今後、資金繰りのため、大幅に値下げして物件を早期売却しようとする企業が増えるとの見通しです。
現在、中国人富裕層は日本国内にたくさんの不動産を保有しています。中国人富裕層にとって、東京の不動産は「安い」水準に見えているだけでなく、中国と比べて所有権が安定していることから人気なのだそうです。しかも、テレワークの浸透で不要になって売りに出されたオフィスビルや、業績不振で手放された飲食系のビルが多く供給されています。
コロナ禍で国境を越える人流は止まりましたが、こうした物件をターゲットにリモートで購入する中国人は多いようです。
ただ、日本の不動産市場は上昇傾向にあります。先日の「都道府県地価調査」によると、東京圏では住宅地の平均がプラス0.1%で2年ぶりにプラスに転じました。不動産経済研究所が2021年10月18日に発表した2021年度上半期(4~9月)の首都圏新築マンションの1戸当たり平均価格は前年同期比10.1%増の6,702万円でした。1973年の調査開始以来、上半期として最高です。
また、店舗やオフィス向けなどの商業地の平均も同じくプラス0.1%でした。商業地の上昇率はアベノミクスで上昇し始めた2013年以降で最も低い上昇率となりましたが、それでも上昇していることには変わりありません。
こうした状況で、彼らは安くて所有権が安定した東京の不動産を手じまい売りするでしょうか。その動向は不動産市場に大きな影響を与えるでしょうか。今のところ、そこまでとは考えにくいのですが、不動産のリアル編集部では引き続き注視していこうと思います。