これまで「団信(団体信用生命保険)」というと、無料で保障を受けられたのは「死亡・高度障害のみ」でした。現在も基本的な流れは変わっていませんが、一部の金融機関では、より広い疾病を無料でカバーする団信も登場してきています。一方、有料の団信も、そのバリエーションや保障範囲は年々進化しています。
今回は、そういった新しい団信をご紹介しつつ、これからの住宅ローンについても考えてみましょう。

(写真はイメージです)
無料なのに手厚い団信?!
まずは、保険料が無料ながら保障内容が充実した団信をご紹介します。
■無料団信の保障内容
死亡高度障害に加え、「8大疾病」が追加されました。具体的には、3大疾病(ガン・急性心筋梗塞・脳卒中)および5つの重度慢性疾患(高血圧性疾患・糖尿病・慢性腎臓病・肝硬変・慢性膵炎)が対象です。
■団信発動要件・免責期間など
該当の疾患により就業不能状態が1年を超えて継続した場合に、保険金によって住宅ローンが完済となります。(就業不能状態になった後1年間は住宅ローンの負担が続きます)
■特約
付帯可能な特約は2つです。
【1:介護保障特約】
公的介護保険制度の「要介護2以上」に認定された場合、もしくは、団信保険会社所定の要介護状態が180日以上継続した場合に、保険金で住宅ローンは完済となります。任意の特約で、年0.2%の金利が上乗せされます。ただし、申し込み可能な年齢要件は「借入実行時、満20歳以上満50歳以下」とやや厳しいので注意しましょう。
【2:夫婦連生型】
これも任意の特約で、年0.2%の金利が上乗せされます。主債務者の配偶者が連帯債務者であれば申し込み可能です。また、上記1との併用も可能で、その場合は金利が年0.4%の上乗せとなります。
■無料団信の保障内容
通常の死亡・高度障害に加え、精神障害を除く全疾病が保障の対象です。この団信の特徴は、「疾病」というより「就業不能」に重きを置いた保障である、といえます。病気だけでなく、ケガにより就労不能状態に陥った場合も保障が受けられるからです。
ただし、疾病により団信の保障内容に差があります。大きくは8疾病(ガン、急性心筋梗塞、脳卒中、高血圧症、糖尿病、慢性腎不全、肝硬変、慢性膵炎)とそれ以外(8疾病以外の病気やケガ)という区別をしておきましょう。
■団信発動要件・免責期間など
特定の病気だけでなく、「就業不能」を包括的にカバーしてくれるのは心強いです。ただし、通常の団信と違い、保障が3段階で適用されるため、団信発動の条件そのものは厳しいかもしれません。
【段階1:待機期間】
まずは3カ月の「待機期間」があります。この段階では、たとえ就業不能になったとしても通常通り住宅ローンを払う必要があります。
【段階2:月々のローン返済額に対する保障】
待機期間の終了後も就業不能状態が続くと、月々のローンの返済が免除されます。
・8疾病の場合:12回分まで
・8疾病以外の場合:11回分まで(3カ月経過後も1カ月の免責期間がある)まで
この期間中に再び就業が開始されれば、住宅ローンの返済も再開します。この保障は、借入期間中にそれぞれ通算36回分まで受けることができます。
【段階3:ローンの残額に対する保障】
就業不能状態が12カ月以上続くと、初めてローン残額そのものに対する保障が発生します。待機期間を含めると、「3カ月+12カ月」経過して初めて、住宅ローンの残高に相当する保険金が支払われることになります。
■特約
待機期間終了後にガンと診断された場合は、別途30万円の「ガン診断給付金」を受け取ることができます。こちらもローン契約者による支払い保険料は発生しません。
■無料団信の保障内容
こちらは、先述の2つと比べるとシンプルな内容になります。通常の死亡・高度障害に加え、以下のような2つの保障が追加されています。
・余命6カ月と診断された場合は、住宅ローンの残高が「0」に
・ガンと診断された場合は、住宅ローンの残高が「半分」に
■団信発動要件・免責期間など
ガン保障に関しては、90日間の免責期間があります。なお、ガンと診断されて住宅ローンの半額が保険金として支払われた後、ガンが完治しても、住宅ローンの負債が復活することはありません。
■特約
ガンと診断されたとき、住宅ローンの残高全ての保険金が支払われる「がん100%保障団信」もあります。その場合は、金利が年0.2%上乗せされます。
無料の団信を選ぶならある程度の蓄えが必要
各行の無料団信をいくつかご紹介しましたが、団信が発動して住宅ローンの残高がゼロになるまでには、一定の時間を要することが分かります。じぶん銀行の団信については、残高がゼロになる確率そのものも低いかもしれません。保障範囲が広いのは確かですが、必ずしも「無料で、かつ手厚い」とはいえないので注意しましょう。
また、インターネット銀行は金利が低いこともあり、審査そのものが厳しい傾向にあります。無料の団信に魅力を感じたはよいが、肝心の審査に通らない……という可能性も忘れてはなりません。
内容充実の金利上乗せ型団信保険
続いて、金利は上乗せされますが保障内容が充実している団信をご紹介します。
夫婦それぞれが住宅ローンを借り入れる場合や、片方が主債務者でもう片方が連帯債務者といったケースにおいて、夫婦のどちらに万一のことがあっても住宅ローンの残高がゼロになるというものです(金利は0.18%上乗せ)。例えば、妻が夫の連帯債務者である場合、妻は通常団信に加入できません。しかしこの団信を利用すれば、妻に万が一のことがあった場合も保障されます。
地震・津波・豪雨といった自然災害に備えることができる団信です。これは住宅ローンの残高全てゼロになるわけではありませんが、自然災害の多い昨今、一定の安心を得ることができます。次の2つの保障があります。
■月々のローン返済額に対する保障
罹災状況に応じて「6回」「12回」「24回」の住宅ローン返済が免除されます(金利は0.1%上乗せ)。免除になる期間が限定されている分、対象となる災害は地震・台風・豪雨・洪水など幅広いです。
■住宅ローン残高に対する保障
地震・噴火・津波によって自宅が全壊となった場合に、住宅ローンの残高が半分になります(金利は0.5%上乗せ)。上記よりも保障金額が大きい分、対象となる災害は少なくなります。
どっちがいいの? 無料団信と有料団信
無料の団信は、保険金支払いまでの期間が比較的長いという傾向があります。病気や失業時に早く保障を受けたければ有料の団信のほうが実用的かもしれません。
しかし、「就業不能状態が1年超」といった条件があっても、1年程度の住宅ローン費を常にストックしておけば問題ありません。また、病気や倒産などで失業しても、一定期間は失業給付金が見込めるので構わない、という考えの人もいるでしょう。どちらが良いかは個人の考えにもよりますが、もしもの時に住宅ローンが払えなくなることのないようにしたいものです。
住宅ローンのこれから
近年、住宅ローンは超低金利化が進み、諸経費も減額化が進んでいます。しかし、この流れはもう限界にきているかもしれません。
住宅ローンの収益性は低くなりすぎた感があるからです。実際に三菱東京UFJ信託銀行の住宅ローン新規取り扱い中止、みずほ銀行の住宅ローン地方撤退など、住宅ローン事業縮小の動きも徐々に始まっています。住宅ローンでしっかり収益を上げるため、今後は団信有料化の動きが進む可能性もあります。
今後の無料団信は、発動条件の厳格化やカバー範囲を絞るという方向に向かうのかもしれません。無料か有料か、だけにこだわらず、内容をきっちり確認して後悔することのないように団信を選びましょう。
横山晴美(ライフプラン応援事務所代表)
2013年にFPとして独立。企業に所属せず、中立・公平の立場で活動する。新規購入・リフォーム・二世帯住宅を問わず、家に関することなら購入額から返済計画まで幅広く対応。(AFP FP2級技能士 住宅ローンアドバイザー)