年度の変わる3月末は、引っ越しなどで人が動くピークで、最も不動産が売れやすい時期だと言われます。
一方、前年度から物件を売り出しているのに、3月末になっても売却できず、落ち込む方があるかもしれません。しかし、焦りや落胆は一切無用です。住まい探しをしている人は常にあり、売買物件は常に流通しています。1年を通して、住宅需要は安定しているのです。
ただ、売却活動の内容を見直し「テコ入れ」を行うことで、新年度の売却をより有利に、早期に成功させることも可能です。以下に、4月以降の中古マンション売却で成功するための、具体的な方法をご説明します。
(写真はイメージです)
これまでの売却状況を振り返る
まずは、これまでの物件への問い合わせ、いわゆる引き合いの状況を整理してみましょう。
・内見(内覧・購入希望者の室内見学)の有無
・申し込みや価格交渉の有無
こうした引き合いの有無によって、今後の対処方法が異なってきます。
【引き合い有り】これまでに内見や申し込みがあった物件の場合
1.相場を確認する
近隣の類似物件の有無とその価格帯を確認し、売出価格が相場に合っているかを確認します。
安定して引き合いがある場合は、相場からそれほど逸脱していないと考えられますので、むやみに価格を下げず、申し込みが入ってから価格交渉に持ち込む方が良いかもしれません。
不動産価格は、近隣類似物件の需給バランスに大きく左右されます。引き合いが減ってくる(きた)様子であれば、再度相場を確認し、価格の見直しを含め、早めの対策を打ちましょう。
2.物件のアピールポイントを洗い出す
物件のアピールポイントとして、追加できる要素がないかどうかを検討してください。住んでこそ分かる物件のお気に入りポイントを書き出して整理しておき、広告に追加したり、内見の際に伝えたりするのです。
例えば、「お正月にはバルコニーから初日の出が見える」「天気の良い日には富士山が見える」「春には部屋から桜が楽しめる」といった眺望が魅力であれば、写真資料を用意しておきます。他にも、「公園が近い」「治安が良い」などの周辺環境、「学校や病院が近い」「営業時間の長いスーパーがある」など生活施設の充実度、交通利便性……実際に住んでいた人の生の声ほど、物件の良さが印象的に伝わり、見学者の心を動かします。
大規模物件であれば、共用施設や管理体制なども見学者へのアピールポイントとなります。
また、自分にとってウィークポイントやデメリットに思える部分でも、人によってはメリットに転じる場合があるものです。
例えば、北向きの部屋は日当たりが悪いと思われがちですが、直射日光の当たらない部屋を希望する人や、夏も涼しく過ごしたい人にとっては魅力となります。「自分の物件の特徴を、メリットとして捉えるとすれば、どう言い換えができるか」を考えながら書き出してみましょう。
さらに近隣の類似物件=競合物件を分析し、競合になく、自分の物件にあるアピールポイントが無いか、探してみましょう。もし見つかれば大きな強みとなります。
3.内見に備える
「内見はあるのに、その後がつながらない」という方は、気付かないところで成約の機会を逃しているのかもしれません。
内見のその日までに、最低限これらのことに気を付けられているか、確認してみてください。
室内の整理整頓
表に出ている物はできるだけ減らすか、収納して部屋の中をすっきりさせましょう。
水回りの掃除
生活感が特に出やすいのが水回りです。念入りに掃除し、ニオイもよく消しておきましょう。
掃除の際は、金属部分をマイクロファイバークロスで磨くと、新品同様にピカピカになるので効果的です。
しっかり換気する
内見の1~2時間前には全ての窓を全開にし、換気を徹底しましょう。カーテンやカーペット、クッションカバーなどの布製品は一通り洗濯しておくと、室内の匂いも違ってきます。また、室内の温度・湿度も快適に保っておきます。
全ての照明をつける
晴れた日でも、照明は全室点灯させておきます。
トイレや洗面・バスルームといった個室の照明もあらかじめ点灯しておきましょう。
時間帯は一番日当たりの良い時間を
内見の時間帯に融通が利くならば、日光が最も入る、部屋が明るく見える時間を指定しましょう。東向きの物件なら午前、西向きの物件なら午後といった具合です。
4.プロのクリーニング・ハウスステージングを活用
業者に依頼して、ハウスクリーニングやハウスステージング(荷物の預かりやインテリアコーディネートを行うサービス)を利用する方法もあります。費用は数万円~数十万円かかりますが、結果的に少ない出費で早期売却に成功した実例もあり、利用者が増えています。
また、ハウスステージング後の室内写真を広告に掲載すれば、問い合わせ増加も期待できます。
【引き合い無し】内見や申し込みが無かった物件の場合
1.価格を確認する
販売期間中に全く引き合いがなかった場合、あるいは売り出し当初から引き合いが減ってきたような場合は、当初の売出価格が相場とかけ離れていることが原因かもしれません。近隣の類似物件の価格を調べ、売出価格との差を確認しましょう。必要に応じて価格の見直しを行います。
2.価格見直し、値下げ
「売り出し開始直後」と「価格変更直後」、この2つが、物件への引き合いが増える一番ホットなタイミングです。
買主サイドの不動産会社の担当者は、依頼者に物件を紹介するために、毎日、物件情報を見ています。価格が大幅に変更されると、物件の見え方も変わってくるため、問い合わせの増加が期待できるでしょう。
なお、一度市場に出た物件は、あまり小刻みな値下げをしたところで効果はなく、それどころか結果的に売却期間が長引き、大きな額の値下げとなることもあります。ある程度大幅な値下げをしないと、問い合わせにつながりません。価格見直しの際の値下げは、少なくとも50~100万円単位になることを覚悟しておいてください。
早期売却を目指すならば、相場を分析した上で、思い切った値下げを行うのも1つの手段です。しかし中古物件の場合は、値下げで引き合いが増えても、そこからさらに価格交渉が入ることもあるため、その余裕を残して値付けするよう注意してください。
値引き交渉は、それを断って売却期間が長引いた結果、交渉価格以上の値下げを余儀なくされるリスクと比較した上で、交渉に応じるかどうかを検討しましょう。
3.広告内容と媒体の見直し
問い合わせが少ないのは、単純に売出情報が人目に触れる機会が少ないということも考えられます。
インターネット上の情報登録は媒介依頼した不動産会社が行います。複数のサイトに自分の物件が登録されているかどうかを確認しましょう。
また「登録内容が間違い」「写真が見づらい」「スマートフォンやタブレットから閲覧できない」などの問題は問い合わせ数に影響するため、必ず確認してください。
4.不動産会社の販売活動の見直し
引き合いの有無によっては、広告を増やすとか、投げ込みチラシを出すなど、販売活動の内容を見直してもらうよう不動産会社と相談しましょう。
5.媒介を依頼する不動産会社の変更
不動産会社の販売活動の効果を感じられず、その内容に不満や不安がある場合は、契約を更新せず、媒介依頼の不動産会社を変えることも1つの手です。
また、媒介契約の種類を変える方法もあります。媒介契約には3種類あり、1社に媒介を依頼する「専属専任媒介」「専任媒介」と、複数の会社と契約できる「一般媒介」があります。
一概には言えませんが、前者は1社のみに依頼するため、依頼を受けた不動産会社は他社との競争がなく、腰を据えて戦略的に販売活動ができます。また成約時に必ず報酬を受けられるため、販売活動により積極的になりやすいといわれています。引き合いが少ない場合は、吟味して信頼できると判断した1社と専任媒介契約を行うのが良いでしょう。
後者の一般媒介では、不動産会社としては、販売活動に力を入れても、同時に依頼を受けている他社に成約されてしまったら報酬は一銭も入らないため、販売活動に消極的になりやすいという側面もあります。
ただし、売却物件が不動産会社から見て「必ず売れる」ような物件ならば、他社に先んじて自社で成約させるために積極的に販売活動をすることもあります。売却したい物件が人気物件であれば、一般媒介で複数社に媒介を依頼し、より高く売ってくれるよう不動産会社同士を競わせてみるという方法もあります。
ご自分の状況と物件の特性に合わせて、媒介契約を見直してみるのも良いでしょう。
4月以降の売買には、3月末のような時間的なゆとりのなさや、競合物件が集中し価格競争で売却価格が安くなるというデメリットもなく、むしろ売主のペースで、希望に近い価格での売却を進められるという面があります。
4月以降の中古マンション売却を成功させるには、価格変更の他にも、今回ご紹介したような様々な工夫があります。年度が変わる時期の慌ただしさが落ち着く時期こそ、納得のいく売却を成功させていただければと思います。
関根祥遙(宅地建物取引士)
都内北西部を中心エリアとする不動産会社で売買営業として勤務。消費者に寄り添った視点で、これからの宅建業者に何が求められるかを真摯に伝えたいという思いから執筆活動に従事。東京都出身・在住。