日本テレビ系水曜夜10時のドラマ「家売るオンナ」。北川景子演じるテーコー不動産の営業チーフ三軒屋万智が、顧客の無理難題や家としての悪条件をものともせずに、家を売りまくる物語です。様々な手法を駆使し家を売ること「だけ」を目指し達成する、なのに、いつのまにか顧客や同僚の悩みまでも吹き飛ばしてしまう。そんな彼女の行動力と信念に、爽快感と感動を覚える視聴者も多いのではないでしょうか。
そんな人気ドラマも7話目になりました。今回もドラマで描写される不動産営業について、本職の不動産業者からみたトピックスやエピソードをご紹介しましょう。
屋代課長(仲村トオル)が営業で不在のため、代理で万智が朝礼を仕切っています。週末の顧客とのアポを確認すると、5件のアポを持つ足立(千葉雄大)以外は、皆3件以下しかアポがありません。万智は
「不動産屋の正念場は土日です。この土日に成果をあげられない者は、不動産屋ではありません。」
と、1件もアポを取れていないダメ社員の白州美加(イモトアヤコ)には3000枚のポスティングを、3件以下の者には顧客名簿を用いて電話をかけるように命じます。
土日のかき入れ時前の「気合い入れ」、不動産会社の朝礼ではよく見かける光景です。万智の指示も、極めて明快かつ具体的で、上司の指示はかくあるべきですね。でも土日もお仕事なんて、不動産会社も大変です。家族を顧みず仕事に邁進したあげくに家族に捨てられてしまった屋代課長の身の上もなんだか納得できるような気もしてきます。いったい、いつお休みを取っているのでしょう?
不動産会社の定休日は水曜日が多いです。今では、企業向けの土地や収益物件を主に扱う会社は、土日を定休日としているところも増えてきましたが、以前は水曜日を定休日としているところがほとんどでした。
では、なぜ水曜日が定休日の会社が多くなったのでしょう?
理由は、3つあるといわれています。1番目の理由は、業務サイクルの効率性です。サラリーマンの方など個人向けの物件のお客様は、土日がお休みの方が多いです。そのため、ご家族そろっての内覧や現地販売会、住宅展示場への来店や打ち合わせは、土日に集中することがどうしても多くなります。
また、万智の指示にもあるように、木曜日や金曜日は、その貴重な土日を無駄にしないためのアポ取りや宣伝活動といった準備に時間が割かれます。月曜日や火曜日、土日の営業をフォローし、成果が上がるように、社内報告や承認作業、お客様へのフォローや契約、決済などが行われることになります。このように1週間の業務サイクルを考えると、水曜日を定休日とすることが、効率がよいといえます。
2番目の理由は、不動産仲介の仕事は、同業他社からの情報が極めて重要だからです。折角、お客様から引き合いがあっても、他社からの紹介物件の場合、問い合わせや内覧の手配をしようとしても、その物件を紹介してくれた会社がお休みで連絡がとれないのでは、どうすることもできません。そのため、同業他社の定休日に自社の定休日を合わせることが多くなり、水曜日に集約されたのです。
3番目の理由は、不動産業界が縁起を重んじる業界だからです。不動産の取引は、俗に「千三つ」、千の案件があっても3つ決まれば運が良いというほどで、なかなか成約に至ることは難しいものです。そのため、縁起やジンクスを気にする業界となったといわれています。「千三つ」には、別の意味もあって、千のうち三っつしか本当のことを言わない、ようするに大ぼら吹き転じて「不動産屋」という意味も有ります。
昔の不動産営業は、本当にいい加減だったということですね(笑)。今はそんなことをしていたら、仕事になりませんので、全くそんなことはありませんのでご安心ください。
また「家を買う」「家を売る」といったことは、普通の人にとっては一生に一度あるかないかの大きな買い物です。少しでも幸福な取引となるように、契約や決済、引き渡しなどの日取りは、日の吉凶を定めた六曜(先勝・友引・先負・仏滅・大安・関口)の中でも最もお日柄のよい「大安」を選ぶように配慮するのが常となっています。では、なぜ縁起を担ぐ業界が、水曜日を定休日とするのでしょう?
水曜日は、「水」という字が入っています。「水に流す」というのは、なかったことにする、という意味ですよね? 水曜日は、契約や取引を「水に流す」ことが多くなる、つまり商売がうまくいかなくなる、という理由で、水曜日を定休日としたということです。駄洒落のような話ですが、通説となっています。万智なら、「縁起は関係ない、私なら売れます!」とでもいうところでしょうか。
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美加の母親の貴美子(原日出子)が、父親の保(モロ師岡)と離婚して家を売りたい、とテーコー不動産を訪ねてきます。美加は家族の思い出の詰まった家は絶対に売りたくないと反対しますが、貴美子は聞き入れません。万智が対応することとなり、下見に行きます。
家は、貴美子が結婚する時に自分の名義で買った古い家です。万智は貴美子に「住宅の価値はほぼありません。解体して土地のみ5000万円でいかがでしょう」と提案します。貴美子は保と暮らした家などに未練はない、と言わんばかりに「いくらでもいいから早く売ってください」と同意します。
でも、自分の家を売ることを想像してみてください。高いお金を出して買った家、今現在もちゃんと住み続けている家、たくさんの思い出があって愛着もある家…。その価値が0円と言われたら、なんだか納得がいかない気がしませんか?</>
一般に「築後20年を超えるような住宅の価値は評価されない」といわれています。これは住宅の査定方法が原価法という手法で行われるためです。
原価法での建物価額は
で表されます。
再調達価額とは、建物を改めて新築した時の推定価額です。減価額とは
(再調達価額)×(経過年数)÷(耐用年数)
で計算されます。今、仮に新築したとして想定される価格から、年数によって価値が減った分を差し引いたものが建物価額になる、という意味です。耐用年数と経過年数が同じになると建物価額は0になります。
実は、耐用年数は実際にその建物がどのくらい使用に耐えうるか、ということを厳密に計算したものではありません。木造住宅の場合、税法上の償却年数が22年であることを根拠に、20年か25年を便宜的に使用することが一般的です。ほとんどの金融機関の融資担保査定も、20年を耐用年数として採用しています。したがって、実質的に20年以上経過した中古住宅には建物価値がない、という評価になってしまいます。
国土交通省は、中古住宅の流通を促進するために、業界に対して原価法の査定価格に加え、痛みが多いか少ないか、修繕やリフォームをしているか、耐震性があるかどうかを価格査定に加算するように要請しています。しかし、そういったポイントが評価されて価額が上がることはないのが現実です。
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ドラマでは、美加が自宅の売却を万智に志願し、認められます。美加は「家が売られるのは仕方ないにしても、せめて解体だけは避けて思い出の残る家を残したい」と、初めて真剣になっているようです。しかし、興味を持って現地販売に来てくれた見込み客も、「家がなければいいんだけどな」と誰も買ってくれませんでした。
これは現実世界でも同様です。家を買う人にとっては、他人の思い入れがこもった特殊な仕様や間取りに価値などなく、決して魅力を感じることはありません。
また、高度成長期に建てられた家は、狭い家が多く、キッチンやお風呂、トイレなどの仕様も現代のライフスタイルに合わないことが多く、解体が選ばれる大きな理由となっています。
私のようになるな
解体の当日、美加は家に立てこもり、体を張って阻止しようするという驚きの行動に出ました。ここで万智はひとり、金づちで入り口を壊して乗り込み、美加と対峙します。床に正座し、背筋を伸ばした万智は「私は昔、ホームレスだった」と切り出し、高校生のときに家を失った悲壮きわまる過去を打ち明けます。「過去にとらわれ、家を売ることで心の穴を埋めようとしているが埋まらない。私のようになるな。自分を解放しろ」と、訴えます。
美加を説得するために自分の秘密も暴露した万智ですが、次回の展開がますます気になるところです。
(監修:不動産流通システム)