2016年夏、北川景子さん主演で始まった日テレの新ドラマ「家売るオンナ」。
不動産会社ってほんとにこんなことするの? というくらい、不動産売買仲介の日常を、いくつかのエピソードを織り交ぜてコミカルかつ時にオーバーに描いていますが、実際のところあながち全部が嘘とも言えず、登場人物のセリフや、お客様の要望、購入意思を固めるまでの心理戦など、ところどころにリアリティを感じさせます。
昭和の時代にはよく見かけたサンドイッチマン
新宿営業所にチーフとしてやってきた三軒家万智(北川景子)。赴任早々、既に営業全員の名前と共に個人成績をそらんじています。
そしてさっそく、入社以来ずっと売上ゼロの新人営業ウーマン、白洲美加(イモトアヤコ)を売り物件のセールスパネルで挟んで、新宿駅前でのサンドイッチマンに命じます。
作中でも言われている通り、昭和の香りがするサンドイッチマン。最近はかなり減りましたが、看板の形態を変えての不動産業界のサンドイッチマンは今も健在です。
現代のサンドイッチマンは、形を変えて…
よく春先などに、プラカードを持ってパイプ椅子に座っている営業マンを見かけることはないでしょうか。
この真夏でも、新入社員らしきスーツを着た若い人が、炎天下で売り物件の看板を持って駅前や曲がり角に待機しているのを見かけます。暑くて本当に大変そうですね。
なぜ従来型のサンドイッチマンがいなくなったのか。その理由は時代の変化にあります。
バブル期には、その場でふらっと立ち寄って即金でポンと購入してしまうような羽振りのいいお客様がいらっしゃいましたので、はた目にも目立つサンドッチマンは効果的でした。
しかし現在はそのようなことが見られなくなったので、駅前のサンドイッチマンにそこまで人手を割かなくなったということなのでしょう。
ガムテープでぐるぐるも実際にありました
屋代課長(仲村トオル)の指示で白洲美加は途中で帰ってくることができましたが、一日サンドイッチマンをしてもアポが取れなかった美加を、三軒家万智は今度はガムテープでぐるぐる巻きにして椅子に縛りつけます。
家の鍵を取り上げ、顧客リストに片っ端から電話をかけて、アポが取れるまで家に帰るなと指示。
今の時代にそこまでやるか? という万智の過剰なしごきに「さすがにこれはドラマだろう…」と思われたのではないでしょうか。
ブラックと言われてしまうようなことも…
実は10?20年程前であれば、お客様のアポが取れるまで、粘着テープで手に受話器を固定して、朝から電話をかけ続けるなんてことはよくある話でした。
中には、反響の電話をすべて自分が取りたいために、上司の指示ではなく、自主的に会社に泊まり込み、契約を取るまでは意地でも家に帰らない営業マンもいたようです。
現代では、ここまでやる営業マンもやらせる会社もほとんどないと思いますが、会社によってルールが全く違うため、あながちフィクションともいえないところが恐ろしいところです。
不動産会社がしばしば「ブラック」といわれてしまうゆえんではないでしょうか。
(写真はイメージです。本文の内容とは関係がありません。)
売買仲介の営業マンには、車の運転免許は必須です。新入社員の中には、就職に合わせて春休みに運転免許を取得したばかりの若葉マークの者も多く、車と運転に慣れるのにひと苦労です。
住宅街ほど、いわゆる「みなし道路」と呼ばれる幅員が4メートルに満たない細い道が多く、運転に自信のない新人にとっては、車をこすったりぶつけたりすることもある、恐ろしいエリアです。
庭野と万智のやりとりはとてもリアル!
できれば細い道を避けて、幹線道路で現場まで行きたいのですが、先輩が同行する場合は、万智のように「曲がれ」「行け」と無茶に思える指示が飛んできます。
庭野(工藤阿須加)が冷や汗をかきながらギリギリで曲がる様は、新人の運転そのもののようなリアリティがありました。
ですが、そのうち汗ひとつかかずに、狭い路地でもスッと曲がれるようになるのです!
不動産屋は地図を見ない。幹線道路ではなく、誰も知らない裏道を使う。
お客は、こんな裏道まで知っている人は、物件のある町に詳しいと思う。
そして不動産屋を信頼する。
その人の言うことなら信じてみようと思う。
万智が住宅街の細い路地を飛ばしながら語っていたこのセリフは事実です。
軽快で確実な運転技術、営業には必須!
幹線道路は交通量も多く、渋滞や事故の可能性もあります。
もし物件からの移動中に渋滞に巻き込まれてしまうと、せっかく盛り上がっていたお客様の気持ちが下がってしまうことも大いにあり得ます。
お客様のテンションが下がってしまうことは、営業においては死活問題ですね。
逆に、裏道に詳しければ、そのことに関心と好感を持ち、担当の営業に対する信頼感と安心感がぐっと増します。
急発進・急加速・急ブレーキのない運転を心掛け、周辺環境や物件についての説明をしながら、かつお客様のテンションを維持したまま、目的地まで最短距離で快適かつスムーズに送り届けること。これも、契約につなげる大切な手段のひとつなのです。
お客様から提案された「リビングイン階段」
「リビングイン階段があれば、子供は必ずリビングを通ってから2階の自分の部屋に行く。
言葉を交わさなくても親子のコミュニケーションが取れるもの。譲れない」
医者夫婦の土方様の奥様の譲れない条件、「リビングイン階段」。子育て世代の奥様から実際にご要望の多い人気条件のひとつです。
ところが、土方様のこの「譲れない」要望を軽やかに無視して、ピントのはずれた物件を紹介してしまう庭野…。
感じのいい青年風ですが、やや独りよがりで「売れない営業マン」として描かれる庭野と、「天才営業ウーマン」万智を比較しながらストーリーを追うのも面白い見方です。
そしてこのお客様はリビングイン階段以外にも、以下のような様々なご要望がありました。
- 思春期までは自室は与えず勉強はリビング学習
- 子どもを囲んで父・母・テレビがトライアングルを描くよう家具を配置する対面キッチンのリビング
家族構成やお子様の年齢から、いずれも「子どもの知育や情操教育のために良いといわれている」内容ばかりですが、万智はそれを額面通りに受け取りません。
「その家庭に何が必要か」を見出し、自分ならではの提案をしていく様子も見どころです。
※ちなみに、リビングイン階段は冷暖房効率の悪さなどのデメリットもあり、逆に嫌という方もいらっしゃいます。
(写真はイメージです。本文の内容とは関係がありません。)
万智の熱意と必死さが築く客との信頼関係
さて、ある日当直になってしまった土方夫妻。その代わりに、万智はなんと泊りがけで息子さんの面倒を申し出ます。
万智のこの「私の仕事は家を売ること」という割り切りと、家を売るためであればどんなことでもするという姿勢は見ものです。
万智は土方先生(奥様)に、当直明けの朝7時に物件を見学するように提案します。普通ならありえないことです。だって、当直明けの早朝なんて正直なところハードすぎます。普通のお客様なら「なんて無茶苦茶な不動産屋だ!」と追い返すでしょう。
しかし土方先生は万智に対して「そこまでして家を売りたいの?」と少し呆れ気味にクールな言葉を投げかけつつも、「朝7時なら」と応じます。ここで奥様の本気のほどがうかがえます。
ここまでお客様の真剣な気持ちにどこまでも付き合える営業マンが一体どれだけいるでしょうか?
お客様はもちろん熱心なのですが、三軒家万智チーフは、お客様よりも熱いのです。
子どもとのやりとりからも万智の人柄が…
土方宅で、ご夫妻が当直中に息子さんと留守番をする庭野と三軒家万智。
息子のそら君に「ウソつくの?」と尋ねられた万智。
「つきます」と即座に答えています。
万智は、このやりとりにおいては、ある意味ウソをついていません。
ドラマ中での三軒家万智は、言っていることが本当なのか、またはウソなのか、ポーカーフェイスでいまいち掴みきれません。
ただ、過剰なほどの必死さ、熱意だけはお客様に伝わり、その熱さに、お客様は抑えていた本音、真剣で必死な気持ちを包み隠さずぶつけることができ、信頼関係につながっていくのかもしれません。
しかし、そうはいっても、お客様の家のびわの木の枝を切って挿し木にしたのは、現実ではぎりぎりアウトと言って良いでしょう。
話がまとまったから良いものの、他人宅の竹木の枝を無断で伐採することは、実際にやったら訴訟になってもおかしくありません。ここばかりはドラマ上のフィクションの演出を感じました。
満を持して始まった「家売るオンナ」。不動産業界でお仕事される方も多くが興味深くご覧になっていると思いますが、この第1話は営業経験のある人なら、共感できる部分のひとつやふたつは少なからずあったのではないでしょうか。
万智とテーコー不動産のそれぞれの活躍が、今後どのように描かれていくのか楽しみです。
(監修:不動産流通システム)