当サイト「不動産のリアル」をはじめ、さまざまなメディアでマンション市場予測やマンションの資産価値に関する解説記事で健筆をふるう住宅ジャーナリストの榊淳司氏が2020年12月10日、新著『ようこそ、2050年の東京へ­-­生き残る不動産 廃墟になる不動産』(イースト新書)を上梓されました。

 

榊氏が今回、世に問うたのは「都市論」と言います。1603年の江戸幕府創立後、400年以上にわたって日本の中心地として形成されてきたこの街は今どういう状況にあり、これからどうなるのか。1960~1990年、1990年~2020年を振り返りつつ、2020~2050年の未来予測をサイエンスや建築家の視点ではなく、不動産の専門家としての視点で論じています。

 

ジャーナリストを名乗る人たちが日本の未来を語るとき、人口減少や少子高齢化、経済の収縮など悲観的で暗い未来しか描かれないことがほとんどです。榊氏の著書もタイトルが「2025年東京不動産大暴落」「限界のタワーマンション」など明るい未来が見えないものが多かったのですが、今回の著書で語られた2050年の東京は意外にも、キラキラと輝く楽しい街でした。

 

榊氏へのインタビューを2回にわたってお届けします。

 

(不動産のリアル編集部)

 

榊氏

榊淳司氏

 

12冊目の今作は「煽りナシ」。東京の未来は明るい!

 

――今回は12冊目のご著書になります。これまでは東京の不動産市場を分析して、仕組みを解説したり将来予測をしてリスクを説明したりする内容がほとんどだったようですが、今回はかなり毛色が違っている印象です。東京の未来が明るいことが書かれていて、どこか安心するような気持ちになりました。これまで書かれてきたこととは一線を画する内容だったことを新鮮に感じました。

 

 不動産に関するノウハウを解説した本やマンション売買成功の秘訣を解説する本は世の中に数多あり、私も少しは書いてきました。ただ、それは他の人でもできることです。不動産屋の視点で見た東京という街は将来、どうなっているのかを書いてみたくなったことがそもそもの動機でした。目指したのは「都市論」です。サイエンスではなく、人文学っぽく説きました。

 

――それでも、サブタイトルに「不動産」という言葉が残っています。

 

 本のタイトルは出版社が決めることですが、今回は異論がありました。書きたかったのは「不動産屋の視点で見た都市論」であり、当初の企画書では『2050年東京の旅』というタイトルでした。『2001年宇宙の旅』というアメリカ映画を見て感動した世代です。私の本を買ってくれる50代以上に、このタイトルなら響く人も多いだろうと。ただ、出版社が「不動産を入れたら売れる」と言う。確かに煽るようなタイトルの方がキャッチーなので、渋々OKしました。

 

――都市論というと難しそうなイメージですが、実に平易な筆致でした。

 

 都市論というカテゴリーでは、建築系の学者や有識者によって、いわゆる「街のつくり方」が書かれることが多い。ただ、神様になったかのような視点で書かれていて、ある意味で傲慢だと感じてきました。確かにそういった視点でもまちづくりはできますが、それで成功した試しはあまりありません。

 

一人ひとりの人間というのは街にとっては細胞みたいなもので、一つの部分でしかないのですが、その細胞が集まっていろんな方向に動いていって、街はできていく。それが自然形成的なまちづくりではないかなと思います。ここが、建築家が唱える都市論との違いですね。「だれにでもわかるような言葉で東京の未来を語ろうよ、そんなに暗い未来ではないよ」という気持ちでした。

 

――5年、10年先の話ではなく、世代が交代する30年先の話なのですね。ちまたの未来予測は少子高齢社会の一色です。

 

 お年寄りが人口比の4割になって、街全体が高齢者仕様になっていくことは間違いありません。でも、子供がいなくなるわけではないし、30年後に社会の主役として活躍している30代から40代は、今現在は黄色い帽子をかぶってランドセル背負っている小学生ですよ。彼らは少なくとも私たちの世代よりはITに詳しいし、生活を便利にする技術も知っている。そう考えると、東京の未来は明るいでしょう。明るいところを考えてみようよ、という本です。

 

すでに成熟した東京はこれから爛熟期へ

 

――不動産屋的な視点とは。

 

 このエリアは、30年前はこういう感じだったが、今はビルがたくさん建ってこうなっている。これから30年はどこがどう変化して、どうなっていくのかなどと考えていくとなんとなく見えてくるものがあるわけです。たとえば、30年前の東京と今の東京っていうのは、同じ街角を写真に撮って見てみると、だれでも「これは絶対これ同じところ、同じ街だ」と分かります。

 

一方、1960年と1990年の同じ街角写真では、すっかり変わっています。1990年と2020年の街がなぜ変わっていないかというと、もう1990年時点で東京という街がある程度の完成形になったからなのですね。

 

――つまり、1990年代には街の姿が整えられたと。

 

 その時点で完成形になったと考えています。その後の30年間は成熟。2020年からの東京はその完成形になった街がさらに成熟していくと思われます。それは、江戸時代に元禄時代という華やかな時代があって、その後に化政時代という熟した時代になっていくのと似ています。醸造酒ではなく、蒸留酒のような、そしてそこにものすごい味があるような。そういう味わいを出していくのがこの30年ではないかと思います。

 

だから2020年からの30年は成熟から一歩進んで爛熟(らんじゅく)。人間でいうと、酸いも甘いも知っていて、老いているけれども、面白い。そんな東京になると思います。昨日今日できた中国・深センみたいなきらびやかな近未来都市とは全然違うわけです。

 

コロナは東京からオフィスを3割は奪う

 

――2020年に「コロナ」という変数も加わりました。

 

 コロナ前から企画はありましたが、コロナが降って湧いてきたので、コロナも加味することになりました。ただ、コロナの影響でテレワークが始まりましたけれども、これはコロナがなくてもあるべき方向だったと思います。要するに、コロナ以前に遅々としていたことが一気に進んでしまった。起こって当然だった進化が早く起こったと見ています。

 

――アフター・コロナには「3割くらいのオフィスが元には戻らない」と書かれています。

 

 たとえば100人の会社員がいて、テレワークをそつなくこなせるのは上位10人ぐらいですね。企業の半分ぐらいがホワイトカラーですから、50人のホワイトカラーの中で10人というと、2割でしょう。これに加えて、無理してでも賢い組に入っていたいという会社も1割くらいあるから、結局3割ぐらいがアフター・コロナでオフィスに戻ってこないと考えます。

 

たとえばI商事はオフィスに全員が戻りました。B社は常に半分がいて、M商事が基本テレワーク。学生が就職でどちらを選ぶのかというと、いうまでもなくテレワークのM商事でしょう。そうなると、優秀な人材を取ろうとする会社はテレワークを残そうとするのではないですかね。

 

東京は世界中の人が「ハレの日」を楽しむ娯楽都市に

 

――人間関係も変わりそうですね。特に男女の出会いが減りそうです。

 

 出会いも少なくなりますが、ネットでなんとかなりますね。東京という街は「ハレの日」を楽しむ街になり、合コンのために東京に行くみたいなノリで集まってくる。確かに恋愛のスタイルが少し変わってくるかもしれませんが、恋愛自体がなくなることはなく、それを促すビジネスが出てくるでしょう。

 

――非日常を楽しめる街に見合った娯楽が確かに東京にはありますね。

 

 アミューズメント、飲食、エンターテイメントのレベルが非常に高い。オペラはないのですが、毎日どこかでクラシックのコンサートをやっていて、美術展も世界レベルのものがあり、踊るところも食べるところもあり、しかもだいたい価格が安い。これから日本の経済力はかつてのバブルと違って盛り返すことはなく、円高にはならないでしょう。ということは「安くて楽しめる街」として東京に世界中から人が集まりやすくなる。

 

――日本の経済力はプレゼンスを失っても、そのぶん娯楽で盛り上がると。

 

 10年先に劇的に衰えているということもなさそうですが、今は世界で3位だったら30年後は7位ぐらいになっているかもしれません。しかし、アミューズメントだったらたぶん30年後は世界一ではないかな。今でも濃いところがあるけれども、さらに発展していくでしょう。なにしろとにかく治安がよくて、安いですから、いろんな人が楽しめる、居心地のいい街になっているでしょうね。

 

――航空便の発達も世界を狭くしていますね。

 

 2年前にオランダに行きましたが、運賃が往復で1人10万円かからないくらいでした。北極の上を飛んで8時間くらいで着きました。昔はヨーロッパに行くのに22時間かかっていましたからね。今は北半球ならどこから来ても、東京は10時間以内です。インバウンド復活したらすぐに年間3000万人くらいが東京に来る時代になる。いかに経済力が落ちようと、インバウンドにとっての魅力ランキングはどんどん上がっていくでしょう。

 

――そう考えると不動産価格も暴落しているということはないですね。

 

 世界一のアミューズメント街となると、不動産価値も悪くないわけです。特に山手線の内側であれば歩くだけでも楽しいところはたくさんあり、不動産の価値はそんなに下がらないと思います。

 

では、価格はいくらになっているのかというと、1人当たりのGDPで考えてみればいい。2019年が430万円くらいでしたが、それはちょうど今の港区にある中古マンションの坪単価ですよ。30年後も港区の中古マンションの坪単価は1人当たりのGDPぐらいではないかと思います。

 

(下)に続く

 

 

榊淳司(住宅ジャーナリスト)
1962年生まれ、京都府出身。同志社大法学部および慶応大文学部卒。不動産の広告・販売戦略立案の現場に20年以上、携わってきた。一般の人々に分かりにくい業界内の情報や、マンション分譲事業の仕組み、現場担当者の心理構造などをブログ上で解説。近著に『2025年東京不動産大暴落』(イースト新書)、『マンション格差』(講談社現代新書)など。最近は不動産を中心とした時事問題解説系YouTuberとしても活躍している。