先日、東京都目黒区のタワーマンションに強盗が押し入って600万円を奪い去るという事件が起こった。このマンションは業界人ならすぐにわかる有名物件だ。被害に遭ったのがセクシー女優だったので、ネット上はしばらくこの話題で持ちきりだった。

 

そこでにわかに議論されだしたのが「タワマンともあろうマンションで、なぜセキュリティシステムが機能しなかったのか?」ということだ。

 

マンションのエントランス

(写真はイメージです)

 

マンションセキュリティは一昔前から進化していない

 

事件のあったタワマンは2009年の10月に竣工している。不動産用語的には「築11年」となる。「11年も前だったら新しくない」と思う方がいるかもしれない。しかし、11年前も今もセキュリティ機能はさほど変わらないのが実情だ。ある意味、これ以上に進化しようのないところまで来ていると言える。後で述べるが、これ以上の進化をさせ過ぎるとデメリットが大きくなるのだ。

 

マンションのセキュリティというのは、まずエントランスに入るドアの開閉がオートロックになっている。来訪者はインターホンで訪問先を呼び出してロックを解除してもらう。この際、住戸内からはカメラの映像で訪問者をチェックできる。次に、来訪者はエレベーターに乗るのだが、訪問先の階にしか停止しない仕組みになっている。これが2番目のセキュリティ。最後は住戸の玄関前だ。インターホンで来訪を告げると、住戸内からは再びカメラの映像で訪問者をチェックできる。

 

エントランス、エレベーター、そして玄関ドアの3重セキュリティというのが、築11年のタワマンでは一般的なはずだ。強盗被害に遭った物件もそうであったと想像できる。さらに、建物の内外には防犯カメラが設置されており、出入りする人間はほぼ映像が記録される。この事件も、犯行後ほどなくして犯人が逮捕されているのは、防犯カメラに残された映像が犯人追跡捜査に大きく寄与したのだと想像する。

 

機械やシステムは人が動かす以上、完璧ではない

 

しかし、強盗犯人が3重のセキュリティを一度は突破して、被害者宅の住戸内まで入り込んだのも、厳然たる事実である。そこで被害者を脅迫して600万円を奪ったわけである。被害者の女性はさぞかし怖い思いをなさったのではないか。

 

今回はたまたま被害者がけがをしたりするようなことはなかったようだ。ただ、そういうことが起こっていても不思議ではなかったはずだ。場合によっては命の危険にさらされることもあり得た。

 

先進のセキュリティを備えていたはずのタワマンで、なぜこんな事件が起こったのだろう。ひとつ言えることは、機械やシステムは決して完全ではない、ということだ。なぜなら、それを動かしているのは人であるからだ。人は間違うこともあれば、誤解もしやすい生き物だ。だからセキュリティシステムの内側にいるからといって、完全や絶対の安全などあり得ない。

 

今回の事件では、犯人たちは宅配便の配達を装い、被害者はそれに騙されてセキュリティを解除し、さらに玄関ドアまでも開けてしまった。

 

管理員や警備員はめったなことでは声をかけない

 

犯人が宅配便の配達員に見える格好をしていれば、それをニセモノだと見破るのは困難だ。ひとつ考えられるのは、エントランスロビーに入ってエレベーターに乗った宅配便配達員風の男の後ろに、影のように寄り添っていたであろう共犯者の存在に、誰かが何らかのいぶかしさを感じ取るべきであったということだろうか。

 

この犯人2人の行動を、被害者は映像で確認できなかったのか。あるいはエントランスロビーにいたかもしれない管理側の誰かが見抜けなかったのか。さらに言えば、防犯カメラが捉えた映像は、管理室や防災センターなどで誰かが見ていたはずであるが、なぜスルーしてしまったのか。

 

ただ、管理員や警備員はよほどのことがない限り、エントランスロビーに入ってくる人を呼びただすようなまねはしない。怪しまれた人が区分所有者や賃借人であったら、疑われた行為自体にクレームをつけられて厄介なトラブルに発展するかもしれないからだ。

 

セキュリティを強化しすぎては生活が不便になる

 

タワマンのセキュリティシステムや人間の注意力による防犯的な監視というものは、基本が「何事も起こらないはずだ」という前提で行われている。今回のように、宅配便の配達を装うなどといった、ちょっとした作為によってやすやすと突破されるのが現実だ。

 

こういったことを防ぐためには、すべての配達物は宅配ロッカーで受け取るシステムにする、といった仕組みにせざるを得ない。しかし、そうすればそうしたでウーバーイーツで運ばれてくる温かい料理を玄関で受け取ることができなくなる。つまり、セキュリティ機能を高めることは、それだけ日常生活の不自由さを増幅させることにもつながるのだ。

 

あわてて買うときセキュリティは後回しにしがち

 

新型コロナによって、多くの人は自宅で過ごす時間が長くなったと言われている。そのことによって住宅市場には新たな需要が発生している。より広く、部屋数の多い住宅を求める人々が多くなったのだ。また、残業や賞与の減額によって年収が下がることを見越して、前年の年収で住宅ローンの審査が行われるうちに自宅を購入しよう、という動きも顕著になってきた。

 

しかし、そういったやや慌て気味の住宅購入において見落とされがちなのが、日常生活のセキュリティ面ではないか。

 

戸建て住宅は、基本的にマンションよりもセキュリティが弱い。玄関ドアの他に窓やベランダなど、侵入される可能性のある箇所が増えるのだ。また、古いマンションはたとえオートロックになっていても、自転車置き場などから簡単に建物内に入れたりする動線が設定されているケースも多い。

 

周辺エリアの環境にも配慮した方がいい。エリアの犯罪発生率などは警視庁が情報発信している。近くに交番があり、人目の多い場所だと空き巣などが発生しにくい。最近では監視カメラの存在が犯罪の抑制に大きな効果を発揮していると言われる。

 

油断は禁物。被害に遭っては元も子もない

 

今回のタワマンの事件のように監視カメラが作動している建物では、セキュリティを突破して侵入し、金品を奪うことには成功しても短時間で逮捕されてしまう可能性が高い。そういったことが周知されれば、タワマンなどへの侵入は割に合わない犯罪になる。

 

しかし、それだけでは安心できない。今回の被害者は、自宅に大金を所持していることを多くの人に知られていたようだ。それが犯人側の犯行へのモチベーションを高めた一因ではないかと推測できる。

 

犯罪に遭わないための最大の防御力は、自分自身の警戒感や注意力である。いくらセキュリティ機能が高いタワマンで暮らしていても、今回のようにやすやすとそれを破られて犯罪の被害者になってしまうことがあり得る。いくら犯人が摘発されて刑事処分を受けたとしても、ある日突然、被害者になり金品を失ったり身体に傷をつけられたりしたとしたら、回復するまでには時間もお金もかかる。

 

したがって、タワマンに住んでも油断は禁物と考えなければならない。

 

 

榊淳司(住宅ジャーナリスト)
1962年生まれ、京都府出身。同志社大法学部および慶応大文学部卒。不動産の広告・販売戦略立案の現場に20年以上、携わってきた。一般の人々に分かりにくい業界内の情報や、マンション分譲事業の仕組み、現場担当者の心理構造などをブログ上で解説。近著に『2025年東京不動産大暴落』(イースト新書)、『マンション格差』(講談社現代新書)など。最近は不動産を中心とした時事問題解説系YouTuberとしても活躍している。