2020年11月3日に行われた米大統領選。原稿を執筆している11月11日現在、開票から1週間が経過したが開票作業が完了していない。民主党のジョー・バイデン氏の選挙人獲得数が現時点で290と過半数を突破しているが、トランプ大統領は不正選挙だとして法廷闘争に持ち込む構えだ。

 

このため、当選者はバイデン氏だと百パーセント確定したというわけではないが、流れ上、アメリカの新大統領はジョー・バイデン氏になりそうという想定で論考を進める。アメリカ国内も世界も、すでにバイデン新大統領の時代を睨んで動き出している。もちろん、日本も例外ではないはずだ。

 

では、アメリカの大統領がトランプ氏からバイデン氏に変わることによって、日本の不動産市場には何らかの影響があるのだろうか。現在のところ、バイデン氏の経済政策には不透明なところが多いが、限られた情報の中で考察してみたい。

 

アメリカと不動産

(写真はイメージです)

 

アメリカの経済成長は減速し、日本もマイナスの影響

 

まず、アメリカ経済への影響である。

 

バイデン氏がよって立つ民主党は、そもそもが「大きな政府」志向である。政府が国民の福利を向上させるために積極的に関与していくべき、という考え方だ。

 

たとえば、かつてアメリカには日本の健康保険のような仕組みがなかった。ほとんどのアメリカ人は風邪程度では医者にかからず、市販の薬を飲んで自宅で休養するというスタイルが一般的。医者にかかるのは、よほど症状が悪化した場合だけだという。そのことがアメリカにおける新型コロナウイルスの感染拡大に拍車をかけている、という説もあるほどだ。

 

こういう状況を改善するためにオバマ前大統領が打ち出したのが、大多数の国民をカヴァーできるといわれる「オバマケア」という健康保険システム。しかし、トランプ氏が大統領に就任した途端に「オバマケアは廃止する」という方針を打ち出した。オバマ嫌いで知られたトランプ氏らしい政策だった。バイデン氏はこのオバマケアを復活させる方針だと伝えられる。何といってもバイデン氏はオバマ前大統領時代、副大統領だったお方だ。

 

さらに、バイデン氏は法人税の増税やGAFAの解体的な規制をめざしているという。また二酸化炭素(CO2)の排出を規制するパリ協定への復帰も視野に入れているとか。アメリカの基幹産業のひとつであるエネルギー業界には衝撃が走っているのではないか。

 

このように、大まかに見るとバイデンの「大きな政府」政策はアメリカの経済成長にちょっとしたブレーキをかける可能性がある。ご存じのとおりアメリカは世界一の経済大国だ。第2位と3位の中国と日本にとって、最大の貿易相手国である。そのアメリカの経済成長が減速気味になるということは、日本経済がマイナスの影響を受けないはずはない。

 

コロナ不況は確実に進行中。不動産価格は下落する

 

日本の不動産は一見、独特の市場環境の下で動いているように思えるが、実はそうではない。密接に日本経済の動きと連動している。つまり景気が良いときには不動産の取引が活発化して価格が上がる。不況に入ると取引数が減って価格が下落する。

 

今、日本経済は不況の入り口にあると私は考えている。現にGDPはしっかりとマイナス成長を刻んでいる。しかし、少なくとも不動産業界には不況感がない。むしろ中古住宅などは戸建て・マンションともに取引数が増大して活況の呈をなしている。これはリモートワークの普及による「プラスひと部屋」や年収減を見越した「駆け込み住宅ローン利用」といった特殊な需要を反映していると思われる。

 

しかし、不況は確実に到来している。住宅金融支援機構への住宅ローン返済に関する相談は激増している。返済の延期や猶予をされている人も多いはずだ。さらにいえば、駆け込み需要に見られるように年収を減らした人はかなりの数に上ると予測できる。

 

コロナによる不況は、確実に国民の財布を直撃しているのだ。ただ、前回のリーマンショック後のような「派遣村」や「炊き出し」といった、人が集まるような動きにまでは至っておらず、可視化できていないだけである。

 

国内富裕層の動きも年内には終息か

 

トランプ氏が大統領だった4年間、彼は日本の日銀に当たるFRB(連邦準備理事会)に金融緩和へのプレッシャーをかけ続けた。力づくで株価を無理にでも上昇させようとしていたのだ。現に、新型コロナウイルスがアメリカ国内に蔓延するまでは、トランプ氏の経済政策はある程度成功していたと見なせる。

 

しかし、バイデン氏は株価の動向にはさほど配慮しないはずだ。大企業やウォール街がもうけ過ぎることにも反対するだろう。トランプ政権の減税を撤廃するとも発言しているように、景気が多少悪くなっても、法人税や富裕層への所得税引き上げを目指すはずだ。そして、労働者の賃金が上がる方向へ政策を導くだろう。

 

ということは、日本経済もトランプ時代のように「アメリカの景気がいいから」という前提には立てなくなる。「これから経済は厳しくなりそうだ」と、身構える企業や富裕層が多くなりそうだ。現に、私がウォッチしている東京都心部のマンション市場では、高額物件の動きがかなり鈍ってきている。動いているのは、私から見れば不自然に楽観的過ぎる実需層だ。しかし、彼らの動きは一巡してしまえば終わるだろう。すでに、その終わりは年内にやってくると私は見込んでいる。

 

ワクチンで米国経済が回復するのは2021年後半。そのとき金利は

 

アメリカの製薬メーカー「ファイザー」がワクチンの開発に成功しつつあるという。仮に、それがうまくいってアメリカが新型コロナのくびきから逃れることができるとすれば、その時期は2021年の後半だ。そうなれば、アメリカ経済はいよいよ本格的な回復期に入る。それはそれで歓迎すべきことだ。きっと日本経済にも好ましい影響をもたらす。

 

しかし、回復バブル的な経済の加熱も心配される。FRBはその頃にきっと金融引き締めを行うはずだ。私が見る限り、FRBは黒田日銀に比べると政策的にずっとストイックだ。金利を上げるべきときにはキッチリと上げる。ただここ数年はトランプ大統領の異様なプレッシャーで、それが抑制されていた。バイデン氏はトランプ氏のように金融引き締めには反対しないはずだ。

 

金利が上がると、不動産価格は下落する、というのが経済のセオリーである。日本もいずれ、ゼロ金利から脱しなければならない。景気が回復しても金利が上がれば、不動産価格へは下落圧力となる。

 

2022年以降も逆風の不動産市場。ただ、庶民は絶好の買い時

 

以上、さまざまな面を考えると日本の不動産市場は2021年いっぱいは景気悪化によるアゲンストの風が吹きそうだ。その後は、日銀の金融政策しだい。金融緩和が継続するのなら、景気回復とともに不動産市場にも日が差してくる。しかし黒田東彦氏が総裁を退任して、金融緩和が終了するようなら先行きはかなり不透明になる。

 

2021年の不動産市場において最も強い向かい風を受けるのは、すでに空室率の上昇が鮮明になってきたオフィスであろう。その次に逆風下に立たされるのが住宅市場ではないか。特に価格が下落しやすいのは、住宅ローンが返せなくなり任意売却物件が急増しそうな中古マンションだと予測する。新築マンション市場への影響は、そのあとだ。

 

新大統領のバイデン氏は、株価維持よりもコロナ対策に傾注する。日本の菅政権も、グローバル経済を提唱する経済学者の竹中平蔵氏や英国出身の在日経営者、デービッド・アトキンソン氏をブレーンにしている。多少の不景気を甘受してでも、ぜい肉をそぎ落とした筋肉質の経済体制をめざす可能性がある。

 

仮にそうだとすれば、日本の不動産市場は2022年以降も猛烈なアゲンストの風を受けることになる。しかし、中古マンションの価格が下落すればエンドユーザーにとっては絶好の買い時となるのも、もうひとつの現実的側面である。

 

 

榊淳司(住宅ジャーナリスト)
1962年生まれ、京都府出身。同志社大法学部および慶応大文学部卒。不動産の広告・販売戦略立案の現場に20年以上、携わってきた。一般の人々に分かりにくい業界内の情報や、マンション分譲事業の仕組み、現場担当者の心理構造などをブログ上で解説。近著に『2025年東京不動産大暴落』(イースト新書)、『マンション格差』(講談社現代新書)など。最近は不動産を中心とした時事問題解説系YouTuberとしても活躍している。