先日、NHKの「クローズアップ現代」で東京の中古マンション市場が活況であるという内容が放映され、業界内ではずいぶん話題になっていたようだ。残念ながら私は見なかった。ただ、番組の趣旨はおおよそ想像できた。またそれを解説した記事も読んだ。私なりの見解を述べてみたい。

 

2021sale

(写真はイメージです)

 

湾岸タワマンのテレワーク可能な共用施設に需要殺到

 

6月以降、湾岸エリアなどの中古マンションがよく売れた、というのは統計データでも明らかになっている。

 

なぜそうなったかというと、やはり新型コロナの影響である。緊急事態宣言が発令され、外出の自粛も求められたことから人々はステイホームしている時間が長くなった。すると、現状の住まいにさまざまな不満を感じるようになる。「もっと広い住まいがほしい」と考える人が出てくるのは必然だろう。

 

あと、テレワークをするのに快適な環境を求める「広さと部屋数」への需要も生まれた。多くのビジネスパーソンにとって自宅とは、新型コロナが広まるまでは「寝に帰る場所」だった。そこに突然、「仕事をする場所」という役割が加えられたのだ。そうなると「狭い」とか「落ち着かない」という不都合が生じることも多くなる。

 

湾岸のタワマンは都心のそれに比べると共用施設が充実している。そもそも、周辺に何もない埋め立て地に突然、数百戸規模のスケールで開発されたケースが多い。だから敷地や建物の中に盛りだくさんな共用施設を作ってある。「ここにいればたいていのことが可能ですよ」ということを謳い文句に販売されたのが湾岸タワマンなのだ。

 

当然、テレワークを行えるスペースもたくさんある。だから、「すぐにでも引っ越したい」と考えた人々が、湾岸の中古タワマンに殺到したのもうなずける。

 

コロナ後もタワマンのデメリットに我慢できるの?

 

しかし、その選択が中長期的に見て賢明であったかどうかは疑問である。

 

新型コロナは早ければ2021年中、遅くとも22年いっぱいまでに終息すると考えるべきだ。この時期に湾岸の中古タワマンへ急いで住み替えた人々は、コロナ騒ぎの後もそこを気に入って住民であり続けるだろうか?

 

コロナ騒ぎが始まる直前まで、マンション市場ではハッキリと「タワマン離れ」的な動きが広がっていた。眺望以外には際立ったメリットが見いだせず、管理費・修繕積立金などのランニングコストがやたらと高いタワマンの現実を見つめ直す流れが、新型コロナ騒ぎで変わったとは思えない。むしろ壁が薄くて隣室の生活音がうるさく、3密のエレベーターに乗るのも順番待ちになってストレスが溜まるタワマンを敬遠する動きも鮮明化している。

 

中古タワマンや新築戸建ての販売好調な今の市場の動きを、私は「バイヤーステージ」と捉えている。つまり、新型コロナによる外出自粛やテレワークの普及によって、自宅の住環境に不満を抱いた人々の中で、住み替えができる経済力を持った層が急いで動いたのである。テレワーク環境の改善は、彼らにとって喫緊の課題となっていたからだ。

 

この6月以降、それが中古マンション市場や新築戸建て市場で顕著に表れた。そこをテレビ局があわてて取材して、番組化したのだろう。市場の一面を捉えてはいるが、それは大きな流れの一部でしかなかった可能性がある。

 

2021年、明ければ売り物件が急増しそう

 

こういった動きは需要が一巡すれば終息する。次に来るのは「セラーステージ」である。どういうことか説明しよう。

 

新型コロナの蔓延によって収入を減らさなかった、あるいは増やした層、いわゆる「コロナ勝ち組」は全体から見ればかなりの少数派だと考えるべきだ。給与所得者の圧倒的多数は収入を減らしている。場合によっては職を失っている。

 

しかし、そういった多数派はまだ住宅市場で動いていない。政府の経済対策で支給した1人10万円の特別定額給付金や、貯金の取り崩しなどでやりくりしているからだ。あるいは、住宅ローンを抱えている人は、金融機関に返済を猶予してもらっているのだろう。現に住宅金融支援機構に寄せられている返済猶予の相談件数は新型コロナ以降、急増している。

 

実際に、やや無理目のペアローンを組んで湾岸のタワマンを新築時に購入した人々の苦境が、各種メディアなどで報じられ始めている。派遣社員である配偶者が雇い止めになる、というのはありがちなケースである。彼らも今は返済猶予を受けているのではなかろうか。

 

金融機関で返済猶予が認められた場合、その期間は通常6か月である。その間に返済再開の目途を見出されなければ、任意売却となってしまうのが通常の流れだ。ということは、この5月から6月にかけて猶予が始まったケースの任意売却物件が本格的に中古市場に出てくるのは年末以降となる。この流れで行けば2021年の年明けから中古マンション市場では売り物件が急増しそうである。

 

任意売却が通常の売却と異なるのは、期間内に必ず売らなければいけない、という縛りがあることである。任意売却は金融機関(債権者)と販売価格の合意のもとに行うものであり、販売期間の決定権は金融機関にあるためだ。金融機関が任意売却での売却が見込めないと判断をすると、容赦なく競売の手続きに移行する。つまり、最後は希望価格を下げてでも売り切らねばならないのだ。そういったケースが目立ってくるので、私はこれからが「セラーステージ」であると考えているのだ。

 

中堅所得者層の困窮が広がれば不動産市場は一変する

 

新型コロナによって、日本経済は確実に不況に突入する。それはすでにGDPの統計数字に表れている。しかし、不動産業界の周辺に不況感はない。

 

なぜか。実は、不動産業界が相手にしている消費者は、基本的にある程度以上のお金を持っている人々であるからだ。今回の不況で生活の困窮が始まっているのは、そもそもあまり所得が高くない人々たちだ。彼らが不動産業界の人々と交わる機会は少ない。

 

しかし、今後は中堅所得者の困窮が本格化する。たとえば、もうすぐ12月のボーナスシーズンだ。折しも、この原稿を書いている10月7日、全日本空輸(ANA)が初めて冬のボーナスをゼロにする方針を固めて労働組合に提案したことが報じられた。住宅ローンにボーナス払いを組み込んでいる方は、そこでコロナ不況を実感することになる。

 

だから日本がコロナ不況を本格的に実感するのは年末以降ということになる。

 

そして、菅政権には安倍政権のときのような景気対策の給付金バラマキは期待できない。まず、菅氏自身が自己責任を求めるタイプらしい。さらに経済産業省の役人が支配していた安倍時代の官邸は、所管外の赤字国債が増えることなどまったく気にしなかった。しかし、菅総理になってからは、財政収支の健全化を求める財務省カラーが強くなっている。したがって、今後は実際にお金のかかる景気対策は望み薄だ。

 

2021年の中古マンション市場は想像もつかない状況になるかも

 

困ったことに、バイヤー側よりもセラー側のボリュームがかなり厚い。2021年の中古マンション市場では、任意売却物件が激増することで、今からでは想像しにくい光景が見られるかもしれない。

 

そのときには、この夏から初秋に見られた「湾岸中古タワマン市場の活況」という風景は、はるかな昔のことと思えるようになっているかもしれない。

 

 

榊淳司(住宅ジャーナリスト)
1962年生まれ、京都府出身。同志社大法学部および慶応大文学部卒。不動産の広告・販売戦略立案の現場に20年以上、携わってきた。一般の人々に分かりにくい業界内の情報や、マンション分譲事業の仕組み、現場担当者の心理構造などをブログ上で解説。近著に『2025年東京不動産大暴落』(イースト新書)、『マンション格差』(講談社現代新書)など。最近は不動産を中心とした時事問題解説系YouTuberとしても活躍している。