新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、世界経済が未曾有の打撃を受けています。国内の不動産マーケットも影響を受けて、価格下落は避けられないでしょう。一方、感染を避けるため、時差出勤を認めたり、自宅で情報通信技術を駆使して仕事をするテレワークが普及したりなど、サラリーマンの働き方が大きく変わりつつあります。景気の後退と働き方の変化はコロナウイルスの有無にかかわらず避けられなかったトレンドとはいえ、コロナウイルスが引き金になって流れが一気に加速しています。

 

そんな時代に、住まいを探す人はどんな観点で選べばいいのか、不動産会社もお客様にどう提案していけばいいのか。不動産事業プロデューサーの牧野知弘氏にうかがいました。

 

(取材・構成 不動産のリアル編集部)

 

牧野氏

牧野知弘氏

 

ミソがついた五輪とメッキがはがれたアベノミクス

 

――コロナの影響で東京五輪が1年間の延期となりました。中止ではなく延期ですが、どんな影響が考えられますか?

 

牧野 東京オリンピックにはミソがついてしまいましたね。なんとなく「オリンピックさえ開けば日本の景気がよくなる」と2013年以来、アベノミクスといわれる経済成長が進んできました。でも、なんとなくメッキがはがれたというか、日本のここ数年の景気が「つくられたもの」とバレてしまったように思います。

 

アベノミクスで金融緩和をしてカネをばらまきましたが、結局、株や不動産がもうけただけで、世の中の人が全般的に幸せになったかというと、そうではないでしょう。そればかりか、消費が下がり、一般の勤労者の所得も20年前と比べると下がっています。世界からは完全に取り残されました。コロナの対策も遅きに失しており、日本の将来に対する期待と希望がなくなってしまいました。

 

――そういう状況だと、住まい選びの常識も変わりそうですね。

 

牧野 「大きな住宅ローンを背負ってマンションを買う」とか「マンションを買うならやっぱり新築」という、住まいについてこれまで常識だったことに疑問が生まれます。「待てよ、住宅に使う金は5,000万円用意していたけれども、4,000万円でいいんじゃないの」となるでしょう。空き家や相続などで中古物件が増えてくるのは既存のシミュレーションどおりで、供給が増えると価格も下がってきますから、中古のコスパのよさに気づく人が増えるはずです。

 

さらに、収入面の不安を感じて「住宅は中古で十分じゃないの」っていうふうに、どこか身をかがめるようなトレンドになるのではないでしょうか。これまでは将来に対して「なんとなく大丈夫なはず」という「不確かな確信」というべきものに基づいて高額の新築マンションやタワーマンションを買うパワーカップルがいましたが、もう真逆の動きが加速します。

 

HARUMI FLAGはどうなる?

 

――東京五輪といえば選手村跡地物件をリノベーションする『HARUMI FLAG』の話題が尽きませんが。

 

牧野 そうですね。たぶん売れなくなると思います。デベロッパー各社は今まで薄氷を踏む思いで販売してきたと思いますけれども、なんとなくミソがついたオリンピックの「レガシー」ですから、もはや高揚感は薄れています。

 

――厳しい状況ですね。

 

牧野 開催が1年延期になったので引き渡しが遅れますし、来年、五輪を本当にやるのかどうかもわからない。販売第2期以降、買う人は激減するでしょう。販売会社の人が「大丈夫ですから…」といっても、説得力がないですよ。僕が販売会社にいたら「約束できない」といいます。もう建物ができあがっていますので2025年の引き渡しになると、築5年の中古マンションに入るのと変わらないのです。

 

――確かに築5年になりますね。

 

牧野 いくら「リノベーションをして新築並みにキレイにしました」といっても、エレベーターとかの構造体や給水棟なんかは築5年です。引き渡しが伸びることによって、人生設計に狂いが生じるというのと、今から契約をさせられて、「5年も待って、築5年の古びたマンションに入らなければならないの?」というそしりは、ものすごく出ると思います。

 

――ある種、縁起物のようだったのに……。

 

牧野 不動産業界にとっては、頼りにしていたものがいきなりなくなったわけです。購入者を含めたマインドチェンジがマーケットにとってはダメージなのではと思います。

 

項目ごとにつけた評点で街を独自ランキング化

 

――不安定な時代、不動産会社はお客様にどのように提案していくのがいいでしょうか。

 

牧野 まず物件の提案ですが、不安感を少しでも和らげるような立地と内容であることに加え「長く住めて機能も充実した中古物件をご提案します」と訴えていくといいでしょう。

 

次にエリアの提案です。先ほど紹介したコワーキング施設が近くにあることをはじめ、街に住んでいて生活のすべてを完結できるような地域を提案していくと、勝機があります。

 

これまで住まい探しは通勤を前提としてベットタウンとしての選択しかできていませんでした。しかし、通勤という概念がなくなるこれからは、マイホームがある街の雰囲気がアピールポイントとなります。ワーキング、エリアの特長、住みたい街ランキング、どんな人が住んでいる、保育園や学校が優れている…などと、さまざま項目を立てて不動産会社が査定をし、評点をつけ、独自のランキングをつくる。

 

買う人の属性に応じたニーズがあるはずなので、相手に応じて「この物件があるこのエリアはこういうポイントが高いです」と説明すればいいでしょう。

 

不安定な時代、「資産性」の意味が変わる

 

――マイホームはとにかく「資産性」や「資産価値」があるものをいかに選ぶかが語られてきました。しかし、その実態は「高く転売できるか」ということだったと思うんです。

 

牧野 転売というのは経済が上がっていくのが前提です。でも今、マインドが下がっていますから、やっぱり安く、お手頃であることが求められます。

 

――「資産性」や「資産価値」という言葉は、セールスのためのキラーワードとして有効でした。今後もキラーワードとして「資産性」を使うにしても、その言葉の真の意味合いは「満足度」ということになりそうな気がします。「幸せ」といってもいいかもしれません。

 

牧野 「幸せ」とはいい表現ですね。マネーで膨らんできた経済はやがて壊れますから、資産性にマネーの意味合いを持たせることから脱却するべきでしょう。不動産会社は住まいを提案する際にはお客様にとっての「幸福」とは何かを一緒に追求することこそ、大事な仕事になってくるはずです。

 

家探しをする人も、そういう視点を持っていると、きっと最高のマイホームを手に入れられるでしょう。

 

(おわり)

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オラガ総研株式会社 代表取締役 牧野知弘氏
東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現:みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て1989年三井不動産入社。数多くの不動産買収、開発、証券化業務を手がけたのち、三井不動産ホテルマネジメントに出向し、ホテルリノベーション、経営企画、収益分析、コスト削減、新規開発業務に従事する。2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT(不動産投資信託)市場に上場。2009年株式会社オフィス・牧野設立およびオラガHSC株式会社を設立、代表取締役に就任。2015年オラガ総研株式会社設立、代表取締役に就任する。2018年11月、全国渡り鳥生活倶楽部株式会社を設立、使い手のいなくなった古民家や歴史ある町の町家、大自然の中にある西洋風別荘などを会員に貸し出して「自分らしい暮らしの再発見」を提供している。

 

著書に『空き家問題』『民泊ビジネス』(祥伝社新書)、『老いる東京、甦る地方』(PHPビジネス新書)、『こんな街に「家」を買ってはいけない』(角川新書)、『2020年マンション大崩壊』『2040年全ビジネスモデル消滅』(文春新書)、『街間格差 オリンピック後に輝く街、くすむ街』(中公新書ラクレ)などがある。テレビ、新聞などメディア出演多数。