どうやら、われわれはとてつもない局面に立たされているようだ。世界経済が同時に不況へと導かれている。そもそも、世界経済の極であるアメリカが経済活動の多くを停止していると言っていい状態。これでは、世界のどの国だって景気が悪くなって当たり前である。

 

2020年

(写真はイメージです)

 

東京でのみ起こった局地バブルの異常

 

日本経済、とりわけ東京とその周辺の不動産市場はここ7年分の「長すぎた春」のツケを払わされることになりそうだ。つまり、実力以上に上がり過ぎた価格を修正するときがやってきたということだ。

 

おさらいをしておきたい。とりあえず、起点を2008年9月のリーマンショックとする。その前の数年間、日本の主要都市の不動産価格はバブル的な高騰を続けてきた。原油先物取引市場に大量に流れ込んだ投機を主な原因とする、2004~2008年に起こったいわゆる「資源バブル」によって膨らんだマネーが、低金利でありながら、わりあい収益率の高い日本の不動産に流れ込んでいたのである。

 

それがリーマンブラザーズの倒産によって、一気に流出した。2009年はそのあおりを食って独立系専業のマンションデベロッパーが相次いで倒産した。ゼファーや日本綜合地所、アゼル、ニチモなどの社名を覚えている方も多いことだろう。

 

その後、民主党政権が誕生して経済無策となった。2011年には3・11の東日本大震災。不動産価格はますます低迷した。

 

ところが、2012年に政権が交代して第2次安倍内閣が誕生して状況は一転する。2013年3月には日本銀行総裁が今の黒田東彦氏になり、異次元金融緩和が発動された。金利をゼロにして、お金をじゃんじゃん市場に流し込んだ。そこから始まったのが、不動産の局地バブルだ。東京の都心とその周縁のほか城南地区、湾岸エリア、そして神奈川県川崎市の武蔵小杉駅周辺。そういった限られた地域でのマンション価格が不自然な水準まで高騰した。

 

しかし、多くの人々はそれが自然な値上がりだと勘違いして購入してしまった。それにつられて、周辺エリアの中古マンションの価格まで上がった。アベノミクスになったからと言って、個人所得(主にみなさんの給料)まで上がったわけではない。ただ、特定エリアのマンション価格だけが上がったのだ。

 

東京とその周辺の市場は、その価格上昇を受け入れた。その他にも値上がり狙いや外国人富裕層の需要が発生したのだ。しかし、大阪では受け入れなかった。だから、大阪では建築費の高騰分程度にしか価格が上らなかった。東京とその周辺での値上がりは、本来の需給関係ではないところで発生し、許容された。

 

局地バブルエリアの下落は一気に進む

 

私はかねがね、そういった空気感だけで値上がりした価格はいずれ是正されると主張してきた。空気が変わる東京五輪の閉幕後がタイミングになりそうと考えた。五輪の騒ぎが終われば「祭の後」の虚脱感が市場を覆う。そこから値下がりが始まるのではないかと考えたのだ。

 

しかし、この新型コロナウイルス騒ぎによって、それが早まりそうだ。何よりも世界的な不況がやってくる。経済活動がまひしているわけだから、GDPの成長は世界的にマイナスになりそうである。こういうことは地球にとって初めての経験ではなかろうか。

 

つまり、われわれは経験したことのない規模での不況に見舞われそうなのである。そういうときに、不健全なまでに高騰してきた局地バブルエリアの不動産は値下がりが避けられないだろう。問題は、どれくらいの速さで、その程度に値下がりするかである。

 

私の予測を述べてみよう。世界的な不況がどの程度で日本に浸透してくるかにもよるが、最初の1、2年は急激な価格変化は起こらないと思う。その理由は、多くの日本人がことの深刻さを理解できないからだ。

 

これからやってくるのは、世界史的な経済不振である。巨視的に見ればそのことは多くの人が理解できるが、それが自分の身に波及しない限りは人ごとである。リストラや減給、ボーナスの減額などで多くの日本人がことの重大性を理解するのは、早くて夏ごろである。

 

さらに、街に失業者が目立ち始めるのは秋以降。大学生の就職活動が氷河期並みに厳しくなるのが話題になるのも秋以降だろう。だから、不動産の価格が可視的に下落するのは秋以降。もっとも、それまでは取引さえ成立しにくくなりそうだ。

 

2020年はそんな具合で暮れていきそうだ。仮にこの騒ぎが終息して、来年には東京五輪の延期大会がめでたく開催できれば、不動産価格の下落も一息つきそうだ。しかし、不況からの脱却は難しいだろう。

 

その後、世界経済が回復軌道に乗れば下落スピードは鈍る。逆に世界が不況から脱しきれなければ2021年中に1割から2割は価格が下落しそうだ。その間、たとえばコロナを押さえ込んだと称している中国で、第2次の感染爆発などが生じたら、状況は変わる。

 

当然、2021年の延期開催は難しくなるだろうし、世界経済はさらに打撃を受ける。延期開催が不可能になれば2021年の終わりには、都心の不動産価格が2020年1月時点に比べて4割安になっていた、なんてこともあり得る。

 

ひとつ言えるのは、都心やその周辺の不動産価格は2013年の異次元金融緩和以降、不自然な水準まで値上がりを続けてきたので、そのバブル分はわりあい短期で吹き飛ばされる可能性がある、ということ。港区の人気エリアなら2倍程度にまで値上がりした。城南エリアでも3割から5割程度。その分は値下がりするが、その以降は分からない。不況が進めばさらなる値下がりもある。

 

自分が住むマンションは「人生の満足度」を優先しよう

 

ただ、自分が住むマンションを購入するのを何年も待つというのも考えものだ。住むためのマンションを買うのは、不動産投資とは少し性質が異なる。好きなマンションを買って住めば、それだけ生活の満足度は高まる。

 

たとえば40歳の方が80歳まで生きるとすれば、人生はあと40年。その内の最初の5年を、値下がりを待つために満足度の高くない賃貸住宅で過ごすのと、残りの人生の最も若い間の5年を、値下がりはある程度見越しても気に入ったマンションで暮らすことの差を考えなければいけない。

 

今、経済はうねっている。また、不動産市場は波乱が予想される。マイホームをどこでどう買うかは人生の勝負所である。そこには単純な「値上がり」や「値下がり」だけでなく、「人生の満足度」や「残された年月」というものもあわせて考えなければならない。

 

 

榊淳司(住宅ジャーナリスト)
1962年生まれ、京都府出身。同志社大法学部および慶応大文学部卒。不動産の広告・販売戦略立案の現場に20年以上、携わってきた。一般の人々に分かりにくい業界内の情報や、マンション分譲事業の仕組み、現場担当者の心理構造などをブログ上で解説。近著に『2025年東京不動産大暴落』(イースト新書)、『マンション格差』(講談社現代新書)など。最近は不動産を中心とした時事問題解説系YouTuberとしても活躍している。