もはや悪夢ではなく、現実となりつつある。

 

この原稿を書いている時点(2020年3月19日)で、新型コロナウイルス感染症の流行は日本国内に限っては収束に向かいつつあるように思える。できることなら、そうあってほしい。

 

一方でここ最近、欧米を中心に東京五輪の中止論が浮上している。アメリカのトランプ大統領も「1年間延期したほうがよいかもしれない」と発言した。これが現実になったとき、東京の不動産市況はどうなるのだろうか。

 

住宅価格

(写真はイメージです)

 

東京五輪、「予定どおり」は無理ではないか

 

発生地の中国は、公式には「収束に向かっている」と言明しているようだが、実際のところは分からない。習近平政権は経済崩壊への恐怖から、工場などの稼働を促しているそうだ。しかし、中途半端な経済活動の再開は第2の感染大爆発につながりかねない。

 

東京五輪はどうなるのか? 日本国内だけの問題ではなく、世界全体の問題である。今の状況で、仮に「5月24日開幕式」というスケジュールなら、それは無謀すぎる。5月の20日頃までにはだれもが「もう大丈夫」と思える状態にまで、世界が落ち着いていなければならないからだ。

 

最近、欧米のメディアを中心に「東京五輪は中止か?」という報道が急増している。IOC(世界オリンピック委員会)の重鎮ディック・パウンド委員は「五輪を開催するか否かは5月末までに判断する」と発言。続いてIOCのバッハ会長も「中止や延期はWHO(世界保健機関)の勧告に従う」と発言したことが伝えられた。日本は安倍晋三総理が「予定どおり、完全な形での開催」を主張しているが、ちょっと無理そうではないか。

 

今や我々のように不動産関係をビジネスフィールドとする人間も「東京五輪は中止or延期」という前提で今後を考えなければいけない、ということだ。

 

黒田バズーカで異様な姿の不動産市場

 

都心の不動産市場が現状どうなっているのかについて、カンタンにおさらいしておこう。

 

起点は2013年4月。ここから黒田東彦日銀総裁が主導する「異次元金融緩和」が始まった。それ以後、東京やその近辺の不動産は住宅やオフィスといったカテゴリの別なく価格が上昇してきた。

 

特に2014年10月に打ち出された「第2弾」の威力が凄まじかった。結果的に、これが市場を不健全なカタチで刺激して、都心の不動産市場は「バブル」と呼んで差し支えない状況となった。たとえば、都心の一等地では年間の収益率が3%台となる価格で、マンションやビルが取引されるようになった。

 

なぜそうなったかというと、銀行からの融資がコンマ未満の前半水準で借りられるようになったからだ。0.2%で資金を借りられれば収益率が3%台後半の物件を購入したとしても、債権を購入するよりもはるかに高利回りとなる。リートのように投資家から集める資金と組み合わせれば、収益率3%台の物件が瞬く間に「投資利回り5%」程度に跳ね上がる。

 

一般人なら、0.5%の住宅ローンを借りて購入したマンションを利回り換算4%の賃料で貸し出せば、キャッシュフローはたいそうな黒字となる。ただ、これは違法性が高いので最近は使えなくなった手法だ。

 

こういう、ある意味で異様な需要を生み出したのは、限りなくゼロに張り付かせた金利と、国債を半ば強制的に日銀が買い上げることによって銀行に積み上がった潤沢な資金であった。この異様な構造は、不動産価格が限界まで高騰した2018年半ばごろに行き詰まりを見せ、2019年にはほころびが目立ち始めた。スルガ銀行やアルヒの問題である。

 

そして、2020年は年初から新型コロナが日本経済に襲いかかった。すでに2019年10~12月期の実質GDP成長率は速報値でマイナス7.1%の大幅マイナス成長となっている。10月の消費増税によって景気後退が確実視されていた中での「コロナショック」である。

 

さらに間の悪いことに、東京では五輪が開催される予定だ。それが中止か延期になることの経済へのマイナスは計り知れない。当然、不動産市場では異様に膨らんだバブルが短期間に調整(暴落)する可能性さえ、ささやかれている。

 

タワマン中心に10%前後の値下がりへ

 

2020年、東京の不動産価格は暴落するのか? 結論から言えば、暴落とまではいかないが年間10%程度は確実に下がりそうだ。

 

その理由はまず、現在の市場を見ると「投げ売り」するような企業や投資家は見当たらないからだ。リーマンショック後の不況時には、マンションデベロッパーや中堅のゼネコンが次々と倒産した。強気で買いまくった不動産が売れなくなったり、予定通りの収益を上げられなくなったりしたからだ。

 

今回のバブルでは、リーマンショック以前のように無茶な仕入れをしているマンションデベロッパーは見られない。仮にしていたとしても、今やプレーヤーは大手財閥系や他業種大手企業の子会社がほとんどなので、投げ売りも倒産もない。投げ売りがあるとすれば、無理な借り入れで資産を増やした個人投資家さんたちの所有物件だ。ただ、彼らも賃料収入があればとりあえず融資の返済は続けられるので、無理に売却するケースは多くない。

 

かなり強気の買いを続けてきたリートは、現時点で急激に評価を落としている。賃料収入が減ることを見越した投資家の売りが始まっているのだろう。ただ、リートの市場評価が下がっても、現物の不動産評価が急に何割も下がるようなことは想定しにくい。

 

一方、日本経済の心理は急激に冷え込んできた。今後、企業は大きな設備投資を控えるだろう。個人投資家も、これまでほど強気で資産を増やせなくなる。そうなると、株式にしろ不動産にしろ市場心理は非常に弱気になる。だれもが「この先は下がるだろう」と、考えるのだ。その場合は、確実に価格は下落する。

 

住宅については、2015年以降に湾岸や都心で新築分譲されたタワーマンションの値下がり幅が大きくなるはずだ。そういう物件の一定割合は、転売目的で購入された。今でも、転売が果たせずに市場に滞留している住戸もある。そういう住戸のオーナーは焦り始めている。「購入価格程度で売れるのなら」あるいは「多少は損を出しても」売りたいと考えるかもしれない。だから短期間のうちに新築分譲時の価格あたりまでは下がりやすい。

 

しかし、いったんはそのあたりで下落が止まるはずだ。全体的に見れば10%前後だろうか。もちろん、物件によっては20%超まで下がる物件もあるだろう。こうした現象は多分、今年いっぱいで見られるだろう。

 

2021年、暴落レベルも。売却はお早めに

 

不動産市況が来年以降どうなるのかは、五輪が延期なのか中止なのか、あるいは新型コロナ肺炎への恐怖感がどの程度薄まるかによって決まってくるだろう。

 

五輪が延期でコロナが収まれば、気分はたちまち明るくなる。インバウンドや流通関連の産業には「回復バブル」的な需要が発生することすら考えられる。停滞していた中古マンション市場にも、動きが出てくるはずだ。

 

しかし、五輪が中止でなおかつコロナの騒ぎが現状程度で今年の後半までダラダラ続くようなら、この国は閉塞感に覆われる。2011年の東日本大震災直後、当時の民主党政権のあまりの不甲斐なさで日本中を暗い気分が覆っていたころを思い出せばいい。場合によっては、当時よりもさらによろしくない状態になる。

 

そうなれば2021年には暴落と呼んでいいレベルの価格下落が起こるはずだ。その場合は、都心エリアで現時点から3~4割安あたりが目途となるはずだ。つまり、2013年頃の価格がひとつの目安となる。

 

ひとつ確実に言えることがある。それは新型コロナ肺炎が流行しなくとも、五輪が予定どおり開催されていても、2020年は不動産市場が下落に転じる折り返しの年になったはず、ということだ。

 

都心の不動産価格が限界点にまで上昇していたところへ、消費増税によって景気が冷え込むことが確実視された。実際にその通りの流れになっていた。新型コロナ肺炎と五輪の中止or延期は、その下落への流れを強力にプッシュする。

 

あとは「どの程度の速さで」下落していくか、という問題。短期で起これば「暴落」となり、ダラダラと続けば「低迷」である。だから、売るのであればいずれにしても早めに動くべきである。買うのであれば、急がずに物件とタイミングをよく検討するべきだろう。

 

 

榊淳司(住宅ジャーナリスト)
1962年生まれ、京都府出身。同志社大法学部および慶応大文学部卒。不動産の広告・販売戦略立案の現場に20年以上、携わってきた。一般の人々に分かりにくい業界内の情報や、マンション分譲事業の仕組み、現場担当者の心理構造などをブログ上で解説。近著に『2025年東京不動産大暴落』(イースト新書)、『マンション格差』(講談社現代新書)など。