2019年も不動産まわりではたくさんのニュースが報じられました。10月に導入された消費増税に伴い需要動向の変化が見られたこと、同じく10月の台風襲来に伴い災害に強いとされていたタワーマンションの思わぬ脆弱性が露呈したこと、スルガ銀行の不正融資事件に伴い金融庁が引き締めにかかり、同銀も物件を返却した人のローンを棒引きにする方向に追い込まれたこと……。

 

さまざまなニュースの中から時代を象徴し、将来にわたって大きな意味を持つ10本をピックアップし、不動産事業プロデューサーの牧野知弘氏とともに振り返るとともに、2020年の不動産市場の動向について予測してもらいました。

 

(取材・構成 不動産のリアル編集部)

 

牧野氏1

牧野知弘氏

 

【不動産のリアル編集部が選ぶ 2019年不動産10大ニュース】

1位 消費増税による新築マンション駆け込み需要が不発、代わりに中古に脚光
2位 スルガ銀行不正融資に伴い金融庁が不動産投資ローンの融資を引き締め
3位 不動産を使った節税に冷や水 路線価の使用を認めない国税方針を司法が支持
4位 台風で武蔵小杉のタワーマンションが機能不全、タワマンの安全神話が崩壊
5位 東京五輪前のホテル建設ラッシュで関西はすでに暗雲も
6位 宮古島で平成バブル超えの建設ラッシュ
7位 空き家が846万戸、5年前より増加
8位 東京五輪選手村跡地の「ハルミフラッグ」分譲受付に応募者殺到
9位 渋谷リボーン 大規模再開発で新ビルが続々
10位 レオパレスで違法建築発覚、入居率ガタ落ち

 

1位 消費増税による新築マンション駆け込み需要が不発、代わりに中古に脚光

 

編集部 10月に消費増税が導入されました。政府は新築マンション市場を冷やさないようにするため、「住まい給付金」や「住宅ローン控除」などの激変緩和措置をとりました。また、消費税率引き上げ後は両親や祖父母からの無税の贈与枠を700万円から2,500万円に、省エネ住宅では最大で3,000万円まで広げる「大盤振る舞い」を実施しました。しかし、駆け込み需要も増税後の買い控えも起こらなかったようです。

 

牧野 ズバリ新築マンションに需要がなくなったということでしょう。税率を5%から8%に上げた2014年には、事前に新築タワーマンションがすごく売れたんです。ところが今回、経過措置が過ぎた2019年4月以降も新築マンション販売状況は惨憺たるもので、19年4月の供給戸数は1421戸と対前年同月比で4割近くも減りました。契約率も64.3%、タワーマンション供給はわずかに130戸という寂しい内容です。

 

これはもう、構造的な問題です。マンションを新築で買うニーズが極端に低下しているのです。2019年の新生児の出生数が87万人を下回って90万人割れし、統計開始以来の最低記録になりそうと報じられました。これから子供を産む世帯はどんどん減るということは、新しく住まいを求める人がどんどん減っていくということです。昔のようにみんながマンションを買いたくて、消費税が上がるからと言ってその前に急いで買う時代ではなくなったということです。

 

編集部 一方で、中古住宅が伸びているようです。

 

牧野 駆け込み需要がなかった一方で、今年の増税直前(7~9月)の中古マンションは東日本流通機構が設立されて以来の取引件数になりました。同機構によると、7~9月の中古マンションの成約件数は前年同期比8.3%増で4期連続で前年同期を上回り、過去最高となりました。成約価格も同4.0%の増加です。消費増税の駆け込みがなかった分、中古にみんな流れたんです。

 

編集部 その理由は何でしょうか?

 

牧野 個人間売買には消費税がかからないことが最も大きいですね。新築マンションを買うと、価格の80%以上を占める建物代に消費税10%がかかってきます。たとえば7,000万円の新築マンションだったら建物部分の5,600万円に消費税がかかりますので509万円が消費税分です。中古だったら消費税はかかりません。仲介手数料はかかりますが、「3%プラス6万円(上限)」ですから、216万円。どんなに新築が好きな消費者でもこの差は大きいですよね。「これだったら中古でいいんじゃないか」と消費者の行動が変わるきっかけをつくった気がします。消費者は賢いですから。

 

編集部 消費税の10%を取るか、仲介手数料の3%を取るかですね。

 

牧野 中古は業者が間に入るので仲介手数料が発生します。でも新築で高すぎる消費税を払うよりはぐっと安くなるということを、仲介会社はもっと宣伝したほうがいいと思います。消費税が上がったらこの差額は注目されるはずなんですよ。

 

2位 スルガ銀行不正融資に伴い金融庁が不動産投資ローンの融資を引き締め

 

編集部 スルガ銀行がシェアハウス「かぼちゃの馬車」をはじめとする不動産投資ローンを不正に融資していた問題は2019年にも尾を引きました。金融庁は半年間の新規融資を停止させる行政処分を行ったほか、3月には「投資用不動産向け融資に関するアンケート調査結果」と称する事実上の融資引き締め通達を発表し、金融機関がこぞって慎重姿勢に転じ、個人の不動産投資家にシャッターを閉めるような動きが出ました。

 

牧野 隠蔽や改ざん行為だらけだったスルガ銀行の不祥事は消費者に大いに不安を抱かせました。これがきっかけで金融庁の締め付けも厳しくなり、2020年以降、個人を中心とした不動産投資への熱をだいぶ冷ますことになると思います。ただ、不動産投資は悪ではありません。不動産や金融リテラシーを持ち、しっかりとした資金計画さえあれば、安全で確実な資産形成ができます。そこは忘れないでいただきたいと思います。

 

3位 不動産を使った節税に冷や水 路線価の使用を認めない国税方針を司法が支持

 

編集部 「路線価に基づく相続財産の評価は不適切」とした東京地裁判決が波紋を広げています。首都圏で父親から相続した2棟のマンションの評価額を路線価から算出して申告した相続人らに対し、国税当局が行った不動産鑑定ではじき出した評価額が大きくかけ離れていたことから、「路線価による評価は適当ではない。相続税の申告漏れだ」として追徴課税処分を行いました。この処分を不服として相続人らが取り消しを求めて提訴したのですが、8月の一審判決は国税当局の主張を支持しました。

 

土地や家などの相続財産は「時価」で評価することが決められています。ただ、国税庁は「納税者が時価を把握することは容易ではない」として「路線価」を相続税や贈与税の算定基準として認めてきました。路線価は公示地価の8割ですので、現金を不動産に変えて節税に利用する人が多かったのですが、今後はどうなるのでしょうか。

 

牧野 時価と路線価による評価額の差額を使った不動産を使った節税対策に「NO」を突きつけた国税当局を裁判所が支持したことは相当なインパクトがあります。海外不動産投資で加速度償却を使えば木造住宅を4年で償却できるところもあるので、海外不動産投資をする富裕層がいますが、こういう節税を日本は認めないということで、海外不動産投資熱に冷や水を浴びせているなと思います。

 

こういう流れを見ていると、どうやら税務当局側が、不動産の節税に相当注目してきたなという印象です。「税金を取れるところからは取らないと」という論理が見え隠れしています。彼らに言わせたら「しびれを切らした」のかもしれませんが。

 

今後の不動産ビジネスの展開にやや暗雲が立ちこめています。私もお客様から相談を受けたら「路線価でこうなるでしょ」と説明していますが、「でも違うかもしれません」と言わなくてはならなくなるかもしれません。今回の判決はそれくらいビックリでした。

 

地裁が支持した国税側の言い分は、「時価として評価をするのが基本だけど、路線価を使ってもいい。でも路線価があまりにおかしかったら違う評価を使うべし」というもので、まさに2本の物差しを出してきたわけです。でもそれはおかしいですよ。だったら「そもそも路線価とは何ですか? 国が出しているんでしょう? 国が出している物差しを変えてくるのはずるくない?」となりますよね。整合性をつけたいなら路線価を上げるべきではないでしょうか。これでは納税者を不安にさせますよ。ダブルスタンダードはやめていただきたいですね。

 

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牧野知弘氏(オラガ総研株式会社代表取締役 不動産事業プロデューサー)
東京大学経済学部卒業。第1勧業銀行(現:みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て1989年、三井不動産入社。数多くの不動産買収、開発、証券化業務を手がけたのち、三井不動産ホテルマネジメントに出向し、ホテルリノベーション、経営企画、収益分析、コスト削減、新規開発業務に従事する。2006年、日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT(不動産投資信託)市場に上場。

 

2009年、株式会社オフィス・牧野およびオラガHSC株式会社を設立、代表取締役に就任。2015年にオラガ総研株式会社を設立、代表取締役に就任する。2018年11月、全国渡り鳥生活倶楽部株式会社を設立、使い手のいなくなった古民家や歴史ある町の町家、大自然の中にある西洋風別荘などを会員に貸し出して「自分らしい暮らしの再発見」を提供している。

 

主な著書
『なぜ、町の不動産屋はつぶれないのか』『空き家問題』『民泊ビジネス』(祥伝社新書)
『老いる東京、甦る地方』(PHPビジネス新書)
『こんな街に「家」を買ってはいけない』(角川新書)
『2020年マンション大崩壊』『2040年全ビジネスモデル消滅』(文春新書)
『街間格差 オリンピック後に輝く街、くすむ街』(中公新書ラクレ)