先日、マンション売買の相談にお見えになった方が「購入を検討している」といって持ってこられた物件は、2年ほど前に海外の個人投資家が購入し、新築未入居のままずっと売り出しているというものだった。

 

そういえば2019年の夏、東京都中央区に誕生する大規模マンション「晴海フラッグ」が販売された。最高70倍という高倍率がついたと報道されたが、その購入申し込みはほとんどが転売目的ではないかと推測する。
ここ5年ほど、新築マンション市場ではこうした転売目的でのマンション購入が目立っていた。

 

2020東京オリンピック・パラリンピック選手村

(写真はイメージです)

 

10月に襲来した台風19号で内水氾濫の被害が話題になった武蔵小杉でも、昨年建物が完成したタワーマンションの多くが、流通市場で売り出されている。もちろん「新築未入居」という触れ込みで。転売目的で買われた物件だろう。

 

武蔵小杉エリアは、水害の記憶が生々しく、当分は物件が動かないと思われる。転売目的で購入された住戸にも、そう簡単には買い手が現れないはずだ。「高く売り抜けよう」と購入された方は、思わぬ展開に戸惑っているのではないか。

 

私の見るところ、中古マンションの市場は2018年にピークアウトした。2019年は弱含みを露呈しつつ、なだらかな下落を始めた。間もなく、それが統計数字となって現れ始めるのだろう。
2020年は、一般の方々にも価格の下落が見えてくるものと予測している。

 

仮にそのような展開になると、多くの転売目的物件が市場に取り残される可能性がある。そうでなくても、冒頭に述べた海外投資家の住戸のように、何年も売り出しているにもかかわらず売り切れない物件が流通市場では目立ち始めているのだ。

 

特に湾岸エリアや東京都心、武蔵小杉などでここ3年以内に建物が完成したタワーマンションで、転売目的と思われる「新築未入居」住戸は、2020年の後半に入ると「新築時の購入価格より少しでも高く売却できればOK」という水準まで追い込まれそうな気がする。

 

不動産の市場価格というものは、おおむね景気に左右されて変動する。
2013年に始まったアベノミクス以降、日本の景気は何とか好調を保ってきたと言える。しかし、好況感を抱くほどでもない。
現に統計数字上の個人所得は増えておらず、むしろ微妙に減っている。消費税が上がり、社会保険料の負担が増えたことで、可処分所得は確実に低下している。

 

にもかかわらず、2013年以降、東京や神奈川の一部エリアでマンション価格が値上がりを続けたのは、異次元金融緩和によって極端にお金が借りやすい状況が作り出され、それがずっと維持されてきたからだ。
しかし、どうやらそれも終わりつつある。2020年3月期の企業決算は、減収減益ラッシュとなりそうだ。消費増税の影響で個人消費の減退も避けられない。中国の経済成長鈍化や韓国のデフォルト不安など、景気のマイナス要因には事欠かない。

 

前述の晴海フラッグは第1期2次が11月に売り出されたが、高倍率住戸は出なかった模様だ。売主側が妙な話題作りを避けたのかもしれない。
2023年、あの巨大な選手村跡地のマンションが完成してしまったら、転売目的で買われた住戸が大量に売り出されるはずだ。その時、中古マンション市場はどうなっているのだろう。それを考えると、少し怖くなる。

 

1990年に平成の大バブルが終わった後、その敗戦処理のような形で「不良債権問題」が長く日本経済にマイナスの影響を与え続けた。
ただ、あの頃の不良債権問題の当事者は主に「住専」と呼ばれた住宅専門の金融会社だった。もちろん、その陰には住宅を高値づかみしてしまった多くの個人がいたことだろう。住宅ローンが払えない場合、彼らは結局自己破産に追い込まれた。

 

今回の局地バブルの場合も、不良債権問題が発生するかもしれない。
例えば個人投資家さんが転売目的で新築タワーマンションを購入してみたが、五輪閉幕以降に市場価格が下落して思惑通り売却できない場合、その物件を担保とする融資は不良債権化する。

 

経済全体に対する悪影響はさほどでもないはずだ。平成バブルの時とは違って、セーフティネットが整備されている。仮に住宅ローンで購入されていた物件なら、保証会社が立て替えで支払うことになっている。

 

しかし、保証会社が抵当権を実行して所有権を得た物件は流通市場で売り出される。この物件は所有者の思い入れがないので市場価格で迅速に処分されることになる。そういった売りは、市場への下落圧力となるだろう。
つまり、不良債権処理が始まれば中古マンションの市場では「下げが下げを呼ぶ」展開になることも想定できる。

 

今回の局地バブルは、異次元金融緩和や相続税対策、外国人の爆買いなどいくつもの要因が重なってふくらみを増した。その結果、都心エリアでのマンション価格は健全性の枠内から大きくはみ出る水準まで高騰してしまった。
しかし、いったん下落に転じればそこでも様々な要因が重なり合って、必要以上に下がってしまうことも考えられる。傍目で見れば「暴落」だ。

 

この下落市況で重要な役割を果たすのが、新築マンションが値上がり狙いで購入された「転売屋物件」ではなかろうか。
そこには元々「住む」という需要の実態がなかったのだ。それにもかかわらず、住戸の売買が高額で行われた。
バブルの幻影が去ってしまった後、市場を冷静に眺めれば「需要はない」ということは誰の目にも明らかになる。そうなれば、そこには自然の法則によって買い手市場が広がる。

 

市場を楽観的に眺めるか、悲観的に眺めるか…。
見方が変われば、見えてくる風景も変わってくる。この6年間、市場を楽観的に眺めて都心や湾岸エリアで新築タワーマンションを購入した転売屋さんたちの中には、大きな利益を得た人が多かった。

 

しかし、そろそろ楽観視はやめて悲観的、保守的な見方に変えた方がいい。もし、転売目的で購入した物件をまだホールドしているのなら、早めに処分することだ。
そして、今後は新築マンションを転売目的で購入するのは控えた方がいい。この局地バブルは足元で弾け始めているのだ。

 

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昭和、平成時代を経て日本のマンションは大きな転換期を迎えています。人生のうちで大きな買い物となるマンション選びにおいては、常に最善の選択をしたいものですが、そのためには変化に即して考え方や行動を変えていかなければなりません。長年にわたりマンションを取り巻くさまざまな業界の最前線をウオッチしてきた住宅ジャーナリスト、榊淳司氏がこれまでの常識はどの時点からどのように変わってきたのか、そしてこれからどう変わっていくのか、マンション購入を考えているみなさまにとって有益かつ目からウロコのお話満載で語っていきます。

 

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榊淳司(住宅ジャーナリスト)
1962年生まれ、京都府出身。同志社大法学部および慶応大文学部卒。不動産の広告・販売戦略立案の現場に20年以上、携わってきた。一般の人々に分かりにくい業界内の情報や、マンション分譲事業の仕組み、現場担当者の心理構造などをブログ上で解説。近著に『限界のタワーマンション』(集英社新書)、『すべてのマンションは廃墟になる』『2025年東京不動産大暴落』(イースト新書)、『マンション格差』(講談社現代新書)など。