先日、SREホールディングスという会社がマザーズに上場した。初値は公募価格を下回ったそうだ。

 

この会社の親会社はソニーと、ヤフーが商号変更したZホールディングス。4年ほど前に、ソニー不動産として不動産売買プラットフォーム「おうちダイレクト」を立ち上げたが、さっぱり広まらずに業界関係者から「壮大な失敗」と話題になった。

 

住宅とネットワーク

(写真はイメージです)

 

私もその事業のプレスリリースの際にはお呼びいただき、説明を聞かせてもらった。当時の印象は大きく2点だ。

 

・売主の作業負担が大きすぎる
・不動産仲介の現場を分かっていないIT人間が、システム開発的に事業スキームを考えたのだろう

 

その後、「おうちダイレクト」はまだ続いているようだが、業界ではさっぱり話題にされなくなった。立ち上げ時の主要幹部が全員転職した、という話も伝わってきた。

 

しかし、キチンと株式上場にこぎつけていたとは、やや驚いた。調べてみると2019年3月期の売上は約28.5億円。規模はまだまだのようだ。

 

この会社の強みは、ソニーとヤフーという先端企業とIT情報企業が持つ、様々なノウハウやソフトの開発力だろう。会社のオフィシャルページを見ると、そのあたりを強調しているようにも読めた。

 

不動産事業のサイトを開くと、「RealEstate×Technology」という文字が目に入る。言いたいことは「不動産と情報技術の結合」なのだろうか。
各部門の説明コピーを読んでも特段変わったところはない。AIを活用している、というあたりが強調されているくらいだ。

 

私は不動産屋ではないが、不動産業者の身近なポジションでその仕事を眺めてきた。時に彼らの業務の一部をサポートする。
昔は新築マンションの開発業者との付き合いが多かったが、今は街の仲介業者さんたちと親しくさせてもらっている。

 

そういう私の目から見ると、同じ仲介系のこの会社がAIを強調していることは、あまりよく理解できない。
むしろ「不動産屋がAI使って何をやるの?」と考えてしまう。

 

私の印象では、街の仲介屋というのはかなり人間臭い仕事だ。別の言い方をすれば、泥臭い、ということである。
売りでも買いでも、仲介に入れば気まぐれな客と付き合わねばならない。だから何よりも必要なのは、人としての信頼感だ。

 

不動産仲介の業務でAIが役立つとすれば、資料の収集や書類の作成だろう。それくらいなら、大げさにAIなどと言わなくていい。PC(パソコン)レベルだ。
百歩譲って、AIが役に立ちそうなのは「適正価格の算出」や「将来の価格変動」だろうか。それを、売上高28.5億の仲介業者がAIを使って行うというのも、何だかイメージに合わない。

 

不動産の仲介業というのは、まずは「物件」。その次に、売り手なり買い手なりの「人間」。この2つをしっかりつかんでおけば、あとは法律や技術面の問題といえよう。
こうした泥臭い業種にAIがどこまで役立つのか、私ははなはだ疑問だ。

 

たとえば、業務がPCやネットワーク内で完結するような業態なら、人間よりもAIが優れているはずだ。
あるいは、囲碁や将棋といった数理的に「正解」を弾きだすことを要求される作業にもAIは有効だろう。ある程度パターン化できる業務の中で最適な手法を見つけ出すのもAI的だと思う。

 

しかし不動産仲介業の業務は、これらのどの業態や作業とも異なっている。

 

たとえば、扱う物件は1つとして他と同じものはない。似ているものはあるが、全く同じではない。同じ物件を2度扱っても、扱う時期がずれれば条件が変化している。
また、そこには必ず人間の思惑が絡んでくる。配慮しなければいけない人間の数が、1物件に複数人存在する場合もあるのだ。

 

そして、最後は人間の意思が決める。これが人によってはかなり不安定、つまりは気まぐれだ。全ての人が全てを合理的に判断するわけではない。
こういう業務にAIはどこまで役に立つのだろう?

 

私の仕事は、マンション市場を観察すること。そして市場で売り出されている新築マンションの資産価値についてあれこれ評価することである。
ある程度はパターン化できるから、AI化が可能かもしれない。しかし、まるっきりAIだけに依存する未来を私はイメージできない。

 

AIが人間の頭脳と同等以上の働きをすることが可能になれば、技術的には可能かもしれない。しかし、人間は物事を合理的な価値観だけでは判断しない。個人差はあるが、かなり感情も交えて判断している。AIはそういった感情まで計算できるようになるのだろうか。

 

ある週刊誌がよく「AIによるマンションの物件別10年後の資産価値」みたいなものを出してきて、私にコメントせよと依頼してくる。

 

正直、アホらしい。それに出してくる「物件別の10年後の価格」という数字は、それなりに納得できるものもあるが、その逆も半分近く含まれていたりする。私のコメントを添えることで客観性を持たせようということだろう。

 

まあ、アホらしいけど、それらしいコメントができるところはする。私の仕事は、メディアと仲良くすることで広がったりするのだ。

 

繰り返すが、不動産の仲介業は基本的に泥臭い仕事である。
先端企業でも、IT系情報企業の進んだテクノロジーをもってしても、今のレベルでは泥臭さを薄めることはできない、と私は考えている。

 

ただ、その業務を効率的にサポートすることはできるだろう。素早く信頼できるデータが活用できれば、泥臭さは多少薄まるかもしれない。しかし、それは「薄まる」レベル。泥がキレイな清水になったりはしない。あと何百年経っても、人間が理性だけでモノゴトを判断するほどには進化しないだろう。

 

だから仲介業者諸君、我らの仕事は当面AIなどに取って代わられはしない。
むしろ、どれだけ人間側が先端のAIを活用できるかを考えていればいいのだ。

 

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昭和、平成時代を経て日本のマンションは大きな転換期を迎えています。人生のうちで大きな買い物となるマンション選びにおいては、常に最善の選択をしたいものですが、そのためには変化に即して考え方や行動を変えていかなければなりません。長年にわたりマンションを取り巻くさまざまな業界の最前線をウオッチしてきた住宅ジャーナリスト、榊淳司氏がこれまでの常識はどの時点からどのように変わってきたのか、そしてこれからどう変わっていくのか、マンション購入を考えているみなさまにとって有益かつ目からウロコのお話満載で語っていきます。

 

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榊淳司(住宅ジャーナリスト)
1962年生まれ、京都府出身。同志社大法学部および慶応大文学部卒。不動産の広告・販売戦略立案の現場に20年以上、携わってきた。一般の人々に分かりにくい業界内の情報や、マンション分譲事業の仕組み、現場担当者の心理構造などをブログ上で解説。近著に『限界のタワーマンション』(集英社新書)、『すべてのマンションは廃墟になる』『2025年東京不動産大暴落』(イースト新書)、『マンション格差』(講談社現代新書)など。