私はもう35年ほど新築マンションの業界にかかわって生きている。最近、強く感じるのは郊外の一次取得(初めて買う)層向けマンションがさっぱり売れなくなってきたことに象徴される、需要層の大きな変化だ。

 

出勤前の旦那と見送りをする妻

(写真はイメージです)

 

共働きが増えて郊外のマンションが減っていく

 

私がこの業界に入った頃、新築マンションと言えば需要層は30代の若年ファミリー層が中心だった。子供が学齢に達するまでにマイホームを購入して、永住を前提に住み始める、というパターンだ。だから、私はそういう需要層に向けてばかり広告を作ってきた気がする。都心の物件もあるにはあったが、それは例外的な存在。市場に供給される新築マンションは、基本が郊外型のファミリータイプだった。

 

今では、そういった郊外型のファミリーマンションは脇役になっている。主力は都心に供給されるコンパクトマンション。70㎡以上はごく少数で、中心は60㎡台以下の小家族向けだ。中には20㎡台の住戸もあり、それが珍しくなくなった。

つまり、仮に30代のファミリーが購入するにしても、子供は1人か多くて2人。奥さんも仕事を持っているファミリーなのである。郊外に住み、奥さんは専業主婦というケースは主流派ではなくなったのだ。

 

原因はいろいろあると思う。何よりも、お父さんが正規雇用で安定的な収入を得られる30代ファミリーの絶対数が少なくなった。すでに団塊ジュニアの最後尾は40代の半ばに達している。今の30代は、どちらかと言えば就職氷河期世代に属している。

 

次に、専業主婦という奥さんのあり方が少数派になっている。今の30代ファミリーで、奥さんが専業主婦というのは珍しいのではなかろうか。少なくとも、私のまわりでは少ない。

 

奥さんも職業を持っていると、郊外に住むよりも都心や近郊にマイホームを購入する方が何かと都合がいい。たとえば、子供が中学受験をするにしても都心や近郊だと志望校の選択肢が広がる。あるいは、妻も夫も転職しやすくなる。だから、多少価格が高くても都心に近い便利な場所でマンションを買う。たとえば、湾岸エリアだ。湾岸エリアのタワーマンションを購入している中心層はダブルインカムで世帯年収が1400万円以上の「パワーカップル」が中心とされている。

 

私の世代は、女性たちは高校を卒業したら短期大学へ進学する方が多かった。2年間の大学へ行って、2、3年働いたら寿退社というのがありがちなパターンだった。今はもう「短期大学」も「寿退社」も消滅しかかっている感がある。女性も大学へ行く場合は4年制が常識化し、結婚したからと言って会社を辞めることも少なくなっているように思える。そういったファミリー形成の変化が、マンション業界の開発事業方にも影響を及ぼしているのだ。

 

多摩は×、千里は○。ニュータウンの未来像

 

先日、大阪のあるテレビ局がマンション購入についての解説をテーマに番組を作りたいというので、協力させていただいた。その時に担当のディレクターにこう申し上げた。

 

「東京には多摩ニュータウンがあり、大阪には千里がありますね。ところが多摩と千里はかなり様相が異なります。千里は多分復活します。なぜなら千里は御堂筋線でキタにもミナミにも直接アクセスできて、乗車時間は長くても20分そこそこ。多摩は新宿にしか直接アクセスできなくて、実質的に30分以上かかります。大手町へは1時間以上。だから多摩ニュータウンで生まれ育った人は、大人になって家族を持っても『多摩に帰ろう』とはなりません。しかし、千里ニュータウンはそうではありません。千里で育った人が『千里にマンションを買う』ということは十分にあり得ます」

 

要するに、大阪の千里ニュータウンはダブルインカムの家族でも住みやすい。しかし、多摩では考えにくいということだ。

 

専業主婦が少数派となり、ダブルインカムが主流となりつつある時代、そういったファミリーが買う住まいはより都心に近くなる。予算を多く取れる人は山の手エリア。予算に限りがある人は湾岸や近郊になる。あえて郊外でファミリータイプのマンションを購入する人は少数派になってしまう。ただし、大阪の場合は千里ニュータウンも選択の範囲内に入る。

 

マンションデベロッパーはそういった流れを知りつつも、郊外型の大規模ファミリーマンションの開発をやめようとしていない。数こそ減らしたが、今でも続けている。東京の場合、多摩ニュータウンで大規模マンションが開発されることはかなり少なくなった。今後も多くないはずだ。しかし、千里では今でも多くの大規模マンションが開発分譲されている。しかし、販売は総じて不振である。現在は、ちょっと供給が過剰すぎるからだ。

 

経済大国ニッポンが復活すれば専業主婦も復活する

 

さて、今後のことを考えよう。今のようなダブルインカムが当たり前になって専業主婦が絶滅危惧種である状況は、この先ずっと続くのか。そうであれば、郊外のファミリーマンション自体が絶滅危惧種化する。もちろん、資産価値は大きく下がるであろう。

 

郊外立地の不動産が、その価値を下げ続けることに異論はない。多摩ニュータウンは、そのうち無価値化する。千里は何とか生き残るだろう。

 

ただ、東京でも大阪でも専業主婦が絶滅するとは思えない。多くの女性は働きたいから働いているのではない。働いた方が経済的に豊かな家庭を築けるから働くのだ。旦那さんに十分な収入がある家庭で、奥さんが300万円前後の年収を得るために働きに出ているケースは少ないと思う。趣味的に職業についているケースは除く。

 

つまり、子供に満足な教育を受けさせるため、あるいは便利な場所で快適な住居に暮らすための費用を得るため、300万円程度の年収を得るために働いているケースは多いはずだ。

 

日本はこの30年で、あまり豊かな国とはいえなくなっている。1人当たりのGDPは3万9000ドル程度。アイルランドやマカオの半分以下で、シンガポールにも大きく引き離されている。これは、日本人の給料が諸外国に比べて安いということに加え、専業主婦の家庭が少なくなったひとつの原因ではないかと私は思っている。

 

現状では国民の給料が増え、経済的に豊かな国に戻るのは非常にハードルが高い。ただ、そこを乗り越えかつてのように経済大国となれば、専業主婦は復活するだろう。多摩ニュータウンほど遠いところはどうか分からないが、田園調布や成城学園のような近郊の住宅地にある広々とした戸建て住宅が、再び憧憬の対象になる日々が戻ってこないとは限らない。

 

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昭和、平成時代を経て日本のマンションは大きな転換期を迎えています。人生のうちで大きな買い物となるマンション選びにおいては、常に最善の選択をしたいものですが、そのためには変化に即して考え方や行動を変えていかなければなりません。長年にわたりマンションを取り巻くさまざまな業界の最前線をウオッチしてきた住宅ジャーナリスト、榊淳司氏がこれまでの常識はどの時点からどのように変わってきたのか、そしてこれからどう変わっていくのか、マンション購入を考えているみなさまにとって有益かつ目からウロコのお話満載で語っていきます。

 

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榊淳司(住宅ジャーナリスト)
1962年生まれ、京都府出身。同志社大法学部および慶応大文学部卒。不動産の広告・販売戦略立案の現場に20年以上、携わってきた。一般の人々に分かりにくい業界内の情報や、マンション分譲事業の仕組み、現場担当者の心理構造などをブログ上で解説。近著に『限界のタワーマンション』(集英社新書)、『すべてのマンションは廃墟になる』『2025年東京不動産大暴落』(イースト新書)、『マンション格差』(講談社現代新書)など。