ソニーの連結子会社で不動産事業やITプラットフォーム事業などを展開する「SREホールディングス」が2019年12月19日、東証マザーズに上場しました。

 

同社の「SRE不動産」(旧ソニー不動産)は家電やゲーム機で世界に名だたる企業であるソニーがそのIT技術力を生かし、ヤフーと共同で運営する「おうちダイレクト」でマンションの推定売却額をはじき出したり、買いたい物件を探せるデータベースを提供したりしています。また、REDSと同様、売主か買主どちらかの希望をかなえるエージェント制を採用するなど、不動産業界の商習慣(こちらの記事などをご参照ください)とは一線を画した営業スタイルで注目を集めてきました。

 

SREホールディングスの上場は、今後の不動産業界にとってどんな影響を及ぼすのか、一般のお客様にとってどんなメリットがあるのかなどを不動産事業プロデューサーの牧野知弘氏に聞きました。完結編です。

 

(取材・構成 不動産のリアル編集部)

 

牧野氏インタビュー02

牧野知弘氏

 

不動産の需要が伸びるかもしれない

 

(上)より続く

 

――SRE上場がきっかけになって、不動産テックの流れが加速されるなどの波及効果はあるでしょうか?

 

牧野 国内のいろんな産業の中で、不動産はIT系の進出が最も遅れていましたが、裏返して考えると、一気に生産効率を上げる可能性があります。そうすると、新たな不動産の需要を喚起することになるかもしれません。たとえば自分の所有している不動産が値上がりしていることを知らない人が多いのが現状ですが、スマホなどで自分の家の価格がカンタンに分かるような気づきを与えてあげることができるようになります。

 

これまでは不動産屋に行くなど自分でアクションを起こさないと分からなかったものがスマホなどで自動的に手に入り、目に触れるようになると、需要を掘り起こしていくことになるのではないか。事業者もアクセスする情報が増えることによってさらなる活動ができるようになります。

 

このほか単にAさんとBさんとの間での交換や仲介というレベルではなく、不動産の評価や管理、投資を含めた情報の整理といった分野に、トータルに大きな影響があるでしょう。たとえば不動産のインスペクションの分野。住宅の劣化状況、欠陥の有無などを点数による評価をすることによって、不動産自体の評価体系が見直されるのではないかと思います。

 

現在の税制では戸建て住宅は15年過ぎると建物部分は価値がほぼゼロになるなど、現実とは乖離した評価がまかりとおっています。「築何年」でばっさり切るのではなく、合理的に評価するようになれば、先に述べた需要の喚起につながるのではないでしょうか。

 

街間格差は開いていく

 

――逆に不動産テックの弊害として、不動産テック企業がカバーしてないエリアというのは、これまでのようなクリアでない、公正公平でない価格付けがされているとの認識が広まれば、消費者に敬遠されるようになりませんか? 著書(『街間格差 オリンピック後に輝く街、くすむ街』)でも指摘された「街間格差」が広がるのではないかと

 

牧野 そうなってくると思います。世の中全体が透明性や公平性を求める中で、特定エリアだけで仕事をするような不動産屋の値付けが残るようなエリアは選択から排除されるでしょう。同時にこうした不動産屋の多くが行き場を失います。評価される街と見放される街の差が開いていき、それが白日のもとにさらされていく。思った以上に価格が下がってくるエリアが出てきたり、営業が過熱するエリアも出てくるでしょう。私たちの常識では想定しなかったような事象が出てくるかもしれません。

 

――不動産テック企業に見放されたエリアは、取り残された街になっていくのじゃないかという不安があります

 

牧野 そういう格差は今後さらに加速するでしょう。これまで不動産はイメージだけで語られてきたんです。東京都港区の白金や麻布はセレブの街で、自由が丘はおしゃれなデートスポットなどとイメージを持っている人が多く、不動産価格も高くなりがちです。「住みたい街ランキング」が人気なのもしかりです。でも、もっと冷静になってですね、数値化されると実はそれほどたいしたことないことが分かったり、まったく違う評価の要素が出てくることになります。

 

デベロッパーも変化せざるをえなくなる

 

デジタル世代のみなさんは飲食店を「食べログ」の星の数で選ぶでしょう。同様に「不動産ログ」が構築されれば、「★4.5のマンションだったらいいんじゃない?」となるんじゃないでしょうかね。そこまできちっと評価がなされれば不動産会社もよりよいサービスになるでしょう。マンションをつくるデベロッパーサイドもたくさんの★をもらいたいので、策を一生懸命考えるようになるのではないでしょうか。

 

私はデベロッパーに長くいたのでよく分かるんですが、デベロッパーがいかにマーケティングをやってないかをよく知っています。「青山に建てるから坪○円、船橋に建てるから○円」などと、そのエリアの床面積や住宅の仕様でなんとなくやっています。これは緻密なマーケティングをやっているのではなく、まさに最初に指摘した旧来の不動産屋が値付けの根拠にしている「経験と勘」でしかありません。その経験と勘は通用しなくなりますから、「ここに建物を建てたらどんな人が住むのか」とか、あるいは「どんな人をターゲットに貸すのか」などをもっとAIやITに解析をさせていくべきですよ。食品業界などは細分化されたマーケットにどんな商品を出せば客が反応してくれるかをものすごく苦しみながら考えてやっている中、ようやく不動産業にもそういった時代が来るんじゃないかなと思います。

 

これはけっこう大きな話ですよ。先に話した家電メーカーの経営層に同じ話をしたところ、部屋中でどよめきが起こりました。デベロッパーって「1000坪の土地があって容積率が700%あったら7000坪のビル建つわ、なら建てよう」という世界です。これはマーケティングと言いませんよね。自分で勝手に値付けをして、箱だけつくって終わり。デベロッパーってこういう仕事です。若い頃にペットが飼えるマンションを提案したら「なにを考えてるんだ」 と怒られました。なにそのペットって?とものすごい馬鹿にされました。いまでは当たり前になっていますが。未だにそんなレベルなんです。

 

こういう世界にソニーのような異業種が入ってきちゃうと、業界の実態がいろいろ暴かれてしまうわけです。それが消費者にとってフェアであるほどそっちに流れていきます。昔のようにオフィスも足りない、住宅も足りない、ただ箱をつくればいいとマーケティングもいらなかったのが、選択肢がうんと増えて、中古の不動産が増えてくれば、業界にとっていい道筋ができてくるのではないでしょうか。

 

こんな業界の将来像があるのは確実ですから、生き残っていくために、また環境の変化をどう生かしていくか考えていく不動産会社だけがブレイクスルーしていくのではないかと思います。

 

(おわり)

(上)を読む

 

 

牧野知弘氏(オラガ総研株式会社代表取締役 不動産事業プロデューサー)
東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現:みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て1989年、三井不動産入社。数多くの不動産買収、開発、証券化業務を手がけたのち、三井不動産ホテルマネジメントに出向し、ホテルリノベーション、経営企画、収益分析、コスト削減、新規開発業務に従事する。2006年、日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT(不動産投資信託)市場に上場。

 

2009年、株式会社オフィス・牧野およびオラガHSC株式会社を設立、代表取締役に就任。2015年にオラガ総研株式会社を設立、代表取締役に就任する。2018年11月、全国渡り鳥生活倶楽部株式会社を設立、使い手のいなくなった古民家や歴史ある町の町家、大自然の中にある西洋風別荘などを会員に貸し出して「自分らしい暮らしの再発見」を提供している。

 

主な著書
『なぜ、町の不動産屋はつぶれないのか』『空き家問題』『民泊ビジネス』(祥伝社新書)
『老いる東京、甦る地方』(PHPビジネス新書)
『こんな街に「家」を買ってはいけない』(角川新書)
『2020年マンション大崩壊』『2040年全ビジネスモデル消滅』(文春新書)
『街間格差 オリンピック後に輝く街、くすむ街』(中公新書ラクレ)