不動産の仲介業者がマンションなど不動産の売却依頼を専任媒介で受任した場合は、必ず不動産流通情報システムの「レインズ」に登録しなければならない。このレインズは日本全国の不動産業者がインターネットを介して閲覧できる。形式上はその物件の買い手を、全国の業者が探せる、ということだ。

 

おそらく、レインズは売り物件を集約したサイトとしては最も充実しているといえる。何といっても、あらゆる業者が扱っている物件が網羅されているはずだからだ。したがって、物件を探している側からすると、レインズを利用すれば最も多くの選択肢に出合えることになる。

 

笑顔で相談するカップル夫婦

(写真はイメージです)

 

業者側もレインズ開放に備えている

 

ところが、レインズは今のところ不動産業者しか見ることができない。なぜだろう? 私はかねがね「レインズを一般開放せよ」と主張している。ところが、今のところ一般開放への気配は全く感じられない。

 

レインズが一般開放されると、困るのは仲介業者である。マンションなどを買いたい人がレインズを見て、直接売り手サイドの業者に連絡してしまうからだ。あるいは、レインズには成約情報も出ているので一般人でもたやすく相場観がつかめる。仲介業者がもったいぶって「この物件の取引事例は…」などと情報を小出しにするようなことはできなくなる。買い手側がネットでレインズにアクセスすれば、誰もが分かる情報になってしまうからだ。

 

ただ、「レインズが一般開放されないのはおかしい」という意見は一部の不動産業者たちの間にも存在した。私は不動産業者さんたちの団体で講演をさせてもらうことがあるが、そんな時には必ず「将来のいつか、レインズは一般開放されます。みなさんはそのときに備えなければなりませんよ」的なことを申し上げる。

 

私の話を渋い顔で聞いている方がいる一方、講演後に私のところにやってきて「おっしゃる通りだと思います。私は仲間たちとレインズが一般開放された時のために勉強会を開いています」と打ち明ける方もいた。

 

月刊誌の取材に国は苦しい言い訳

 

月刊誌『ウエッジ2019年12月号』は「『新築』という呪縛 日本に中古は根付くのか」という特集を組み、私も一部協力した。その中に「不動産情報システムはなぜ消費者に『開放』されないのか」という題目のコラムがあった。

 

そこで編集者は国交省不動産業課の担当者に直接インタビューしている。以下、やや長くなるが引用したい。

 

(編集部) 消費者がレインズを見られないのはなぜか。公開すれば、民間の不動産サイトを比較するコストが削れるのではないか。

 

(国交省担当者) 1つの理由として個人情報の問題がある。正確な住所まで分かるので、どの家がどの価格で売買されたかが分かる。隣の家に住んでいた人がいくらで家を売った、という情報を開示するのは難しい。また民間のサイトにおいて、価格調査の制度が高まり、レインズには記載されていない、例えばハザードマップの情報なども掲載されるなどサービスが充実してきている。そういったなかで、国がコストをかけて一新する必要があるかという話だ。お店や旅行商品などの比較サイトが充実しているなか、不動産に関してだけ国が介入することは難しい。

 

(編集部) 売り主が不動産業者を指定して売却の手続きをする場合、不動産業者はレインズへ登録することが義務付けられている。登録せずに自分で買い手を見つける、または他者からの問い合わせに「契約予定あり」などと偽って、自ら買い手を見つけて仲介料を取るといった「囲い込み」が横行しているという。レインズが機能していないのでは。

 

(国交省担当者) 16年より売り主がレインズ上で物件状況を確認できるように改善された。これによって、不動産会社が契約状況について偽ったとしても、売り主が直接不動産会社に相違ないか確認できる。今後新たな問題が発生する可能性はあるが、現時点での対応はしていると考えている。

 

一読して国交省担当者、何とも苦しい言い訳をしている。個人情報というのなら、不動産業者はそこに自由にアクセスできる例外なのか。私の知る限り、不動産業者が一般人に比べて遵法精神が著しく高いとはとても思えないのだが。

 

レインズの運営は、いちおう民間の団体だと理解している。不動産業者は利用料も払っている。その費用でシステムを一新すればいいだけ。また不動産は公共性が高いので、国が介入する意味は十分にある。

 

さらに「囲い込み」は依然としてまったく減っていない。むしろ、以前よりもひどくなった印象すらある。しかも、業者がレインズに正確な契約状況を登録するとは限らないのが実態だ。自分たちの都合のよい情報しか登録しない業者をいくらでも知っている。

 

「中古が主流」「誠実な仲介」の時代にレインズ開放は不可避

 

いずれにせよ、国交省は今のところレインズを一般開放する気はないのだ。しかし、そういった頑なな姿勢をいつまでも続けられるとは限らない。ウエッジの特集テーマにもあるように、住宅はこれから「中古が主流」になる。いや、すでになっていると言っていい。

 

多くの人が中古住宅を売買する過程で、現状の不動産仲介業者たちの多くが売り手側の利益を阻害する、囲い込みや再販業者への誘導を行っていることに気付くはずだ。

 

こういった「不動産仲介業の闇」についてウエッジなどのメディアは世間に周知させようとしている。もちろん、私のような不動産分野を主戦場にしているジャーナリストも、一般消費者の利益をあまりにも軽視している現在の不動産仲介業のあり方に警鐘を鳴らし続けていくつもりだ。

 

このようにレインズ開放への包囲網は着実に狭まっている。国交省も今のように眠たい言い訳に終始していられなくなる時代は、この令和の間に必ずやってくると私は確信している。そうなれば、不動産の仲介業者が果たす役割には変化が見られるはずだ。囲い込みや両手仲介に固執している仲介業者は、時代の後ろ側に取り残されてしまうだろう。

 

そして、一般消費者にとってより分かりやすく、誠実な仲介を手掛ける業者が業界の主流派になるようにと、私は願っている。

 

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昭和、平成時代を経て日本のマンションは大きな転換期を迎えています。人生のうちで大きな買い物となるマンション選びにおいては、常に最善の選択をしたいものですが、そのためには変化に即して考え方や行動を変えていかなければなりません。長年にわたりマンションを取り巻くさまざまな業界の最前線をウオッチしてきた住宅ジャーナリスト、榊淳司氏がこれまでの常識はどの時点からどのように変わってきたのか、そしてこれからどう変わっていくのか、マンション購入を考えているみなさまにとって有益かつ目からウロコのお話満載で語っていきます。

 

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榊淳司(住宅ジャーナリスト)
1962年生まれ、京都府出身。同志社大法学部および慶応大文学部卒。不動産の広告・販売戦略立案の現場に20年以上、携わってきた。一般の人々に分かりにくい業界内の情報や、マンション分譲事業の仕組み、現場担当者の心理構造などをブログ上で解説。近著に『限界のタワーマンション』(集英社新書)、『すべてのマンションは廃墟になる』『2025年東京不動産大暴落』(イースト新書)、『マンション格差』(講談社現代新書)など。