今や、東京は「マンションの街」といっていい。

 

不動産経済研究所が発表している東京における新築の建売住宅(戸建て)の供給戸数は、新築マンションの5%強でしかない(2019年4-9月期)。つまり、東京で新たに住宅を購入している人のほとんどは、マンションを買っているのだ。したがって、東京に住む若い夫婦が「家を買う」となると、それはほぼ「マンションを買う」という意味となる。

 

マイホーム

(写真はイメージです)

 

維持コストだけで年間100万円超! 敬遠されるマンション

 

10年ほど前まで、住宅情報誌では「戸建てVSマンション」というのが定番の特集であった。今では「賃貸VS購入」はあっても、戸建てはほとんど登場しなくなった。そもそも住宅情報誌自体が死滅しかけてはいるのだが、それだけ分譲マンションは東京では住宅の代名詞といえる存在となったのだ。

 

しかし、未来永劫その地位が揺るがないかというと、そこは一考の余地がある。

 

この連載の8回目で「分譲マンションを所有することのランニングコストは上がり続ける」という趣旨の記事を執筆した(「所有コストが㎡1,000円に? 管理費の増加が家計にのしかかってくる!【榊淳司・マンション令和の新常識(8)】」)。その後もこの傾向はますます強まっている。

 

やや話が変わるが、読者のおひとりから売却相談をされて私の提携業者が専任媒介でお預かりした約100㎡のマンションが、なかなか売れない。その業者さんに「なぜ売れないの」と聞くと「管理費などランニングコストの高さがネックです」という答えだった。

 

その住戸の管理費や修繕積立金を合わせると、月額6万円になる。物件を見に来て、気に入ってくれたお客さんは何組もいたが、「6万円」と聞くとみな、途端に購入意欲をなくすらしい。

 

車を持っている人は、この他に駐車場使用量が発生する。そうでなくても固定資産税は年間30万円くらい。そうなると所有コストは年間100万円を超えるのだ。それを考えるとなかなか買い手が決まらないのも納得できる。

 

マンション管理組合も闇だらけ

 

マンションには「管理」という厄介な問題もある。今の区分所有法は、性善説を前提としているとしか思えず、さまざまな問題が発生している。

 

私は住宅に関するジャーナリズムの仕事をしているせいで、マンションの管理面に関する相談を受けることも多いが、管理組合の理事長かボス的な理事か管理会社が組合の資産を食い物にしている実例をよく聞く。

 

こうした悪事を暴いたり、理事長らを解任したりする手段はほとんどない。つまり、分譲マンションの管理では、組合の理事長になってしまえば好き放題ができる上に、私利私欲まで貪れる。しかも、よほどのヘマをしない限り、それがバレない。だから、少なからぬ管理組合ではそういう実質的な汚職が横行している。

 

一方、理事長や理事がまじめに組合の業務に取り組んでいても、厄介な問題は次から次へと起こる。まず、鉄筋コンクリート造の丈夫なマンションでも、日に日に老朽化が進む。不具合なところが出てくると、そのたびに補修工事を行わなければならない。さらに、地震や台風などによる損傷も発生する。

 

国土交通省は「12年に1度程度、大規模修繕を行うことが望ましい」とガイドラインに定めている。私は新築時の施工精度が高ければ大規模修繕などを定期的に行う必要はないと考えているが、多くの管理組合はこのガイドラインに引きずられて築15年あたりまでに大規模修繕工事を実施している。

 

マンションの厄介なところは、区分所有者の総会決議に基づかないと多額の出費ができない仕組みになっていることだ。臨時の総会を開くにしても、発議から最低でも1か月程度の日数を必要とする。

 

マンションの面倒くささは戸建てにはない

 

日本に分譲マンションというものが現れてすでに60年以上の年月が経過している。今後、マンションの老朽化に関連するさまざまな問題が表面化する。中には廃墟化し、スラム化するマンションも出てくるのではないか。そうなったときに多くの人は分譲マンションという住形態の「面倒くささ」に気付くはずだ。

 

そこで、改めて「戸建てはそうしたことがない」ということになるかもしれない。

 

ここ30年以上、「マンションは丈夫で快適で、ゴミ出しが毎日できて、家の前の掃除などの負担がない」というようなことを根拠に、「マンションは住みやすくてラク」というイメージが浸透してきたように思える。

 

昔よくみかけた「マンションVS戸建て」の特集も、基本はそういうマンションのメリット訴求に重きを置かれていた。だれも「マンションは面倒くさいよ」ということを主張しなかった。

 

しかし、冷静に考えれば、マンションを所有することはさまざまに面倒くさい。多くの人がそのことに気付いたとき、戸建ては今よりも幾分か見直されるかもしれない。また戸建て住宅も従来の木造から、多少の水害にあっても流されることなく、浸水も防げる鉄筋コンクリート造の家が普及する可能性もある。

 

価格変化の少ない戸建ては平穏に住み続けたい人向き

 

東京のマンションには、別の側面もある。住宅としての役割は当然あるのだが、特に都心エリアでは近年「金融商品」として売買されるマンションが多くなった。人気エリアにあるタワーマンションは、とりわけその傾向が強い。

 

マンションの売買で利益を出すのは自由だし、それぞれの自己責任で行えばいい。ただし、純粋に住むことを目的にマンションの購入を考えている人々にとっては、金融情勢の変動によって資産価値が倍になったり半額に落ちたりするのは、平穏ではなさすぎる気がする。

 

住むために購入したマンションが購入価格よりも高く売れるのはいいかもしれない。しかし、別にすみかを確保しなければならない。高いときに売れば、高いときに買わざるを得ない。あるいは賃貸に移る必要がある。

 

こういったことを楽しんでいる人もいるが、そうではなくて平穏に何十年もそこで暮らしたいという人も多いはずだ。私は適正価格の変動はやむを得ないと思うが、バブル的に高騰したり、あるいは不必要に暴落したりはよろしくないと思う。

 

その点、戸建て住宅はほとんど実際の需要と供給の関係のみで価格が変動している。金融市場が変動することで目を白黒させたり、顔色を変化させたりも少ないはずだ。

 

そうでなくても東京という街は、ちょっとマンションを造り過ぎたように思える。限られた敷地に多くの住宅を作ることができる、ということにおいてマンションは一戸建てよりも効率的な住まいになっている。鉄筋コンクリート造であることは、エアコンを使うことで木造住宅よりも寒暖の差が小さいので快適だ。

 

しかし、今の区分所有法やマンション市場の特異性を考えると、この住まいの形態は決して万能ではない。むしろ今後は欠陥の多くが浮かび上がってくるはずだ。そうなったときに、一部では戸建て回帰の流れも起こりそうに思える。

 

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昭和、平成時代を経て日本のマンションは大きな転換期を迎えています。人生のうちで大きな買い物となるマンション選びにおいては、常に最善の選択をしたいものですが、そのためには変化に即して考え方や行動を変えていかなければなりません。長年にわたりマンションを取り巻くさまざまな業界の最前線をウオッチしてきた住宅ジャーナリスト、榊淳司氏がこれまでの常識はどの時点からどのように変わってきたのか、そしてこれからどう変わっていくのか、マンション購入を考えているみなさまにとって有益かつ目からウロコのお話満載で語っていきます。

 

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榊淳司(住宅ジャーナリスト)
1962年生まれ、京都府出身。同志社大法学部および慶応大文学部卒。不動産の広告・販売戦略立案の現場に20年以上、携わってきた。一般の人々に分かりにくい業界内の情報や、マンション分譲事業の仕組み、現場担当者の心理構造などをブログ上で解説。近著に『限界のタワーマンション』(集英社新書)、『すべてのマンションは廃墟になる』『2025年東京不動産大暴落』(イースト新書)、『マンション格差』(講談社現代新書)など。