平成末期、首都圏の都心エリアではマンション市場がすっかりバブル化してしまった。たとえば新築マンション市場では「転売屋」と呼ばれる、セミプロのような人々がいる。彼らは値上がりしそうな人気物件の購入を申し込む。そういう住戸はたいていが抽選で高倍率になる。運よく当たると手付金を払って購入契約を結ぶ。

 

住宅

(写真はイメージです)

 

転売屋はびこる都心マンション

 

いよいよ建物が完成して引渡しになると即、中古市場へ売りに出す。売り出し価格は購入時の1.15~1.2倍くらいが多い。これがわりあい、うまく売れていた。

 

というのは2013年以降、都心のマンション市場は継続的に値上がりを続けてきたからだ。新築マンションの販売時には「高い」と思えた価格でも、1年半後の引渡し時には「安い」と言えるほど、市場が高騰していたのである。だから、転売屋さんたちは新築時の人気物件を購入さえできれば、確実に値上がり益を得られたのである。

 

先日、中央区晴海の東京五輪選手村跡地マンション「HARUMI FLAG」の第1期1次販売が行われた。最高倍率はなんと70倍。60倍や30倍のものもあれば、20倍程度の住戸もあったそうだ。そういった住戸に登録しているのは、半分以上が転売屋さんではないかと推測する。

 

彼らは約4年後に引き渡されるあのマンションにおいても、確実に転売益が得られると考えているのだ。私に言わせれば、今回ばかりは転売屋さんたちもやや大胆すぎるように思えるが、それはさておく。

 

相続税対策の富裕層もこぞって購入

 

2013年以降は、転売屋さんたち以外にも、自分や家族が「住む」という目的以外で都心のマンションを購入する動きが多かった。たとえば2015年の1月からは相続税の控除額が圧縮された。東京で普通に持ち家に住む人であっても、相続税課税の対象になる可能性が高まった。それもあって、タワーマンションの上層階に対して「相続税対策」の購入が盛んに行われた。

 

2015年当時、マンションに対する相続税算出のための評価は、すべて床面積割合であった。たとえばタワマンの上層階を1億円で購入するとする。タワマンは下層階よりも上層階の方が床面積割合の価格が高い。最上階と最下階では2倍程度違うこともある。しかし、相続税評価額は同じ割合だった。新築価格1億円の上層階住戸の相続税評価額が2,000万円ということにもなる。

 

現金で1億円を残せば、1億円に対してまるまる相続税がかかる。しかし、タワマン上層階なら2,000万円と評価される。だったら1億円の現金よりも1億円の価値があっても2,000万円としか評価されないタワマン上層階を買おう、ということになる。こんな相続税対策買いが相次いだため、国税庁はタワマンの評価法を見直した。だから今ではあまり相続税対策買いが発生していない。

 

中国の投資家も爆買い

 

2016年頃には外国人の爆買いも多かった。上海や北京、あるいは香港などではマンション価格が100~200倍に値上がりしていた。上海の中心エリアでは日本円で3億円以上でないとまともな住戸が買えないという有様だ。

 

そういう街に住む富裕層からすると、当時の東京において1億円台で売られているタワマンは実に割安に見える。「もっと値上がりするだろう」ということも彼らには容易に想像がついたことだろう。

 

あるいは、台北ではマンションを賃貸運用した場合の利回りが1%台しかない。東京では低くても3%台で、中には5%以上の物件もある。そういう環境にある人々にとって、東京のマンションはいかにも「お買い得」だった。

 

NHK NEWS WEBの「日本人が都心でマンションが買えなくなる?(2019年9月19日)」の記事から引用する。

 

「過去5年ほどの間に竣工した東京都内のタワマン、85棟をピックアップ。部屋の登記簿をとり、いったいどのくらいの外国人が所有しているのか、調べてみました。その結果は…。外国の個人や法人が所有する部屋の数は少なくとも1434、オーナーの数は1816に上っていました(去年4~5月時点 NHK調べ)。」

 

単純に計算すると1棟に16.8戸の外国人所有の住戸があることになる。ただ、実態はもっと多いはずだ。日本で複数物件を所有する外国人は、日本国内に資産管理会社を作っているはずだ。そして銀行に口座を開く。そこに家賃収入を入金させ、管理費等を引き落とした方が便利だからだ。このように、オーナーが日本の住所や、日本の法人になっている住戸はカウントされていない。

 

金融商品として買われなければこんな値上がりはなかった

 

このように2013年以降の都心の新築マンション市場は、本来の「住む」という目的以外で買われた住戸がかなりの割合となる。特に、外国人にも「わかりやすい」メジャーな立地のタワーマンションにこの傾向が強い。

 

しかし、そういった「買い」は本来の「住む」という需要を反映していない。いわば金融商品としてマンションが買われたのである。本来の「住む」ための需要だけだったら、マンションはここまで値上がりしただろうか。答えは否、である。

 

まず、本来の「住む」需要しか発生していない賃貸市場はどうなのか。都心エリアの賃料水準は値上がりしたのか。私が見る限り、微かには値上がりした。ただ、それはアベノミクス以来の景気回復分くらいにすぎない。5%も上がっていないはずだ。

 

次に、「住む」という需要しかない都心エリアの戸建て住宅を見てみよう。狭い市場ではあるが、ある程度の動きは読み取れた。しかし、結論から言えば、ほとんど値上がりしていないのだ。エリアによっては1割強ほど値上がりしているが、値上がりの割合はマンションに比べれば数分の1レベルでしかなかった。

 

マイナス金利をやめたら市場は正常化する

 

つまり、都心のマンション市場がバブル的に値上がりしたのは、本来の需要ではない金融的な要因によるものだ。ということは、その金融的な要因がなくなると値上がり分は一気に剥ぎ取られる可能性がある。

 

金融的な要因の最有力な構成要素は金利だ。金利が今のようにマイナスではなく、1%か2%になればマンションの価格は急落する。しかし、実際にはそうはならない。金利は上がっても0.25%刻みが通常。さらに言えば、実質的に金利を決めている黒田東彦日銀総裁にはその気が皆無だ。それどころか、マイナス金利の深掘りまで考えているようだ。彼の任期は2023年3月まで。黒田氏が日銀総裁である限り、金利は上がらない。

 

金利以外にマンションが値上がりした金融的な要因があるとすれば、「カネ余り」だ。相続税対策や、外国から流入マネーによってこのバブルが形成された。

 

しかし、相続税対策の買いは立ち消え、外国からのマネーもここのところすっかり鳴りを潜めた。今は売りに回っている気配が濃厚だ。

 

さらに、2020年以降は消費税の引き上げに伴う景気の本格的な後退が予測できる。本来の需要ではない理由から値上がりしたのだから、金融的な要因がなくなれば下落するのは必然。2020(令和2)年は、都心のマンション市場が需給関係に戻る一里塚になるのではなかろうか。

 

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昭和、平成時代を経て日本のマンションは大きな転換期を迎えています。人生のうちで大きな買い物となるマンション選びにおいては、常に最善の選択をしたいものですが、そのためには変化に即して考え方や行動を変えていかなければなりません。長年にわたりマンションを取り巻くさまざまな業界の最前線をウオッチしてきた住宅ジャーナリスト、榊淳司氏がこれまでの常識はどの時点からどのように変わってきたのか、そしてこれからどう変わっていくのか、マンション購入を考えているみなさまにとって有益かつ目からウロコのお話満載で語っていきます。

 

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榊淳司(住宅ジャーナリスト)
1962年生まれ、京都府出身。同志社大法学部および慶応大文学部卒。不動産の広告・販売戦略立案の現場に20年以上、携わってきた。一般の人々に分かりにくい業界内の情報や、マンション分譲事業の仕組み、現場担当者の心理構造などをブログ上で解説。近著に『限界のタワーマンション』(集英社新書)、『すべてのマンションは廃墟になる』『2025年東京不動産大暴落』(イースト新書)、『マンション格差』(講談社現代新書)など。