首都圏における新築マンションの販売が大きく減少し、在庫を抱えるデベロッパーも増えています。販売不振が続くとデベロッパーの経営が苦しくなって値下がりしそうなものですが、新築マンションの価格は高止まっており、下がる気配は見えません。ただ国内の経済環境の変化によっては、まもなく価格は下がるという意見もあります。それを期待して待っているほうがいいのか、とりわけ東京五輪の選手村跡地に建設される話題のマンション群「HARUMI FLAG」に手を出してもいいのか。それとも値が張る新築はあきらめて金利が低いうちに中古マンションを買ってしまった方がいいのか。不動産事業プロデューサーの牧野知弘氏に語っていただきました。

 

(取材・構成 不動産のリアル編集部)

 

工事中マンション

(写真はイメージです)

 

売れないのに新築マンションが供給されるワケとは?

 

――2019年4月における首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)の新築マンションの発売戸数は、前年同期比39.3%減の1421戸にとどまり、月間の契約率は64.3%と、前月の72.2%に比べて大幅ダウンとなったそうです。契約率は7割が好不調のボーダーラインとされていることから、市況は悪化していることが分かります。一方、都内を歩けば、再開発でタワーマンションがどんどん建っている印象があります。デベロッパーは売れないのになぜマンションを建てるのでしょうか?

 

牧野 新築マンションが売れないのになぜ供給するのか。それはこの業界の構造に起因します。どの新築マンションデベロッパーも毎年の供給計画を一定にしないと会社が成り立ちません。専業のマンションデベロッパーは特にその傾向が強いです。今、東京のファミリー向け新築マンションは年収の13.26倍(東京カンテイ調べ、2017年)を超える価格で売っていますが、なぜそんな価格で売っているのかというと、用地を仕入れたのが1年以上前だからです。都心居住のトレンドを受けて、1年前に価格の高い都心部の土地を買い、すぐにゼネコンに発注する仕組みになっているからです。さらに、1年前に発注した建築費は非常に高い。土地代が高くて建物代が高いという原価高のせいで、現在売り出している新築マンションの価格がこんなに高いのです。

 

――売れ行きが悪いのに出した時間がズレていることが要因だと

 

牧野 これは新築マンション業界では今に始まったことではありません。本来、価格は需要と供給で決まります。ただ、マンションはこの土地、この場所でしか建てられないし売れませんし、原材料を仕入れてから製品化するまでに非常に時間がかかるから、どうしても入口と出口の景気だとか、需給バランスと違った価格が出てきてしまうのです。

 

価格高止まりはメジャーセブンの横綱相撲と低金利のせい

 

――価格が下がらない原因は原価高のほかにありますか?

 

牧野 まず、むやみに下げたら赤字になってしまうからです。とはいえ、体力のない中小のマンションデベロッパーだと売れなさすぎたら会社が耐えられないから、損切りしてでも売ってキャッシュを回収しないといけません。平成バブルの崩壊時に中小のマンションデベロッパーがみんな潰れたのは、マンション価格を大きく下げてでも資金回収したんですが、金利が今に比べると高かったので会社が持たなかったのです。

 

今は、2つの理由からなかなか価格は下がらなくなっています。現在「メジャーセブン」と言われている大手7社(住友不動産・大京・東急不動産・東京建物・野村不動産・三井不動産レジデンシャル・三菱地所レジデンス)でマーケットを席巻しています。15年前、首都圏では8万~9万戸の新築マンションが供給されていましたが、昨年は3万8000戸になっています。相撲でいうと土俵が半分になっちゃったんです。

 

そこで体力のある横綱大関で戦っている状況。体力があるぶん、大手はなかなか値段を下げようとしないんですね。あえて損切りせずに我慢してしまう。こうした大手の総合デベロッパーになるほど、マンションのほかにオフィスビル事業やホテル事業で稼いでいます。だから、ひとまずマンションは売れなくても価格はこのままで頑張ろうという発想が働きます。

 

2つ目の理由は、金利が以前と比べるとものすごく安いこと。借り入れしても、借入金の返済に苦しむということが平成バブルの崩壊のときに比べると少ないので、なんとか持ちこたえることができてしまう。これは大手だけではなく、中小にも恩恵があって、持ちこたえることができているのです。

 

――マンション部門でもうからなくてもいいので値下げしないというのは大胆ですね

 

牧野 彼らにとって、住宅事業とオフィス・ホテル事業は「車の両輪」。住宅は瞬発の事業というか、1件につき数千万円が一気に入ってくるので売れたら瞬間でもうかります。それに比べてビルはなかなか売り買いがないのですが、安定して家賃が入ってくるんです。三井不動産などは自社ビルで空室がほとんどなくなっていて、オフィスビル事業は絶好調です。なので、今はマンションが多少だめでも大丈夫なんです。

 

今のところメジャーセブンであるほど、そしてビルの収益構造が高い会社ほど、マンションが売れなくても持ちこたえられる。一方、メジャーセブンの中でも、野村不動産などはマンションの売上率が非常に高い半面、ビルは低い。そういうマンション売上比率が高いところほど、業績に与える影響が大きくなり、だんだん苦しくなってきます。

 

当面、値下げはないかも。しかし、兆候も

 

――特殊な世界ですね

 

牧野 実は需要の分析について、一般の製造業などと違って「マーケティングをしない」というのが、この業界の特徴です。なぜマンションを建てるのか。それは「目の前にいい土地があるから」なんです。普通なら客のマーケティングをやって、原材料を仕入れて、客の好みで商品を作ります。しかし、こんな普通のマーケティングを行う意識が、まったくないとは言いませんが、この業界では希薄です。

 

都心居住が進めば都心部を、工場跡地が出てくればそういうところを手当たりしだいに狙って、容積率いっぱいにマンションやビルを建てる。それぞれのエリアごとに大体の相場が決まっていますので、これに相場の掛け算をして、これくらいの利益が生まれると読む。こんな勝手な都合で商品を供給しているのが実態です。「エリア戦略」と称して自分がよく知っている土地で勝負しようと考え、大手は体力があるので大型のタワーマンションを建て、中小はその隙間を狙っていると。だいたいこういう業界です。

 

――反射神経で動いているようなものですね

 

牧野 これまでのデベロッパーの常識は、都心部の価格が高くなれば、周辺の郊外に逃げて、そこに割安のマンションを供給すれば、消費者がついてくるというものでした。ところが最近は消費者のライフスタイルが変わってしまい、夫婦が共働きになって、子供を保育所に預けて、働かなきゃならなくなりました。こうなると郊外のマンションに住んで、妻は専業主婦で子供を育て、夫は満員電車に乗って通勤するというスタイルを実現できる家庭は少なく、夫婦でどんどん稼がないといけない。今までのデベロッパーの常識が成り立たないので、あんまり郊外に逃げるわけにもいかない。

 

都心で用地を取得する際、絶好調のホテルの用地担当者と戦いながら、こういう消費者に合わせた物件を仕入れようと思えば思うほど、原価は高くなるし、人手不足ゆえに建築費も一向に下がる気配がない。そういった構造が複雑に絡み合って、原価は高いままだし、マンション事業を続けていかなければならないがゆえに、営業マンがノルマを背負って、死に物狂いで土地を買ってくると。その結果が今の状態です。

 

――では、新築マンションの値下げは当分は見込めないと

 

牧野 デベロッパーは本当に苦しくなったら損切りします。マンションを作るのに何億もお金をかけてますので。ただ、今は金利が低く、内部留保も潤沢という良好な外部環境が続く限りはこのままの状態が保たれることになります。そうはいっても、2~3年たったらみんな中古になっちゃいますから、影では困っているんですよ。だから、もうちょっと待っていたら下がります。

 

――あと何年くらい待てばよいでしょうか

 

牧野 今のぬくぬくとした外部環境が今後どう変わるかです。どの人もなんとなく「オリンピックまでは大丈夫かな」という願望だけで今の状況が推移していますが、住宅からポロポロとメッキが剥げてきたなと。そういう兆候が見えてきました。

 

(中)に続く

 

牧野知弘氏(オラガ総研株式会社 代表取締役)
東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現:みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て1989年、三井不動産入社。数多くの不動産買収、開発、証券化業務を手がけたのち、三井不動産ホテルマネジメントに出向し、ホテルリノベーション、経営企画、収益分析、コスト削減、新規開発業務に従事する。2006年、日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT(不動産投資信託)市場に上場。2009年、株式会社オフィス・牧野設立およびオラガHSC株式会社を設立、代表取締役に就任。2015年にオラガ総研株式会社を設立、代表取締役に就任する。著書に『なぜ、町の不動産屋はつぶれないのか』『空き家問題』『民泊ビジネス』(いずれも祥伝社新書)『老いる東京、甦る地方』(PHPビジネス新書)『こんな街に「家」を買ってはいけない』(角川新書)『2020年マンション大崩壊』『2040年全ビジネスモデル消滅』(ともに文春新書)、『街間格差 オリンピック後に輝く街、くすむ街』(中公新書ラクレ)などがある。

 

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