30年前、私はマンションの広告を作る仕事に携わっていた。マンション業界というのは、普通の人間の常識から考えると理解できないことが多いもので、いちいち考えこんでいては仕事にならない。だから、多少のことには目をつむって「エイ、ヤー」と仕事を片付けたものだ。しかし、そうはいっても納得できないことはいつまでも納得できない。
そういったことのひとつが「リゾートマンション」というカテゴリーだった。

 

スキー場

(写真はイメージです)

 

湯沢のリゾートマンションは東京郊外の新築マンション並みの価格で売れた

 

当時、日本はスキーブームだった。
『私をスキーに連れてって』という映画が流行った頃、といえば50代以上の人には記憶が鮮やかになるはずだ。ほかならぬ私も1シーズンに3、4回はスキー場に足を運んだものだ。

 

当時、勤めていた職場ではスキーリゾートに建てられる分譲マンションの広告制作を担当させられた。最初は「リゾートマンション、って何?」の世界だった。「別荘のマンション版」だと教えられた。そういわれると、何となくわかったような気になった。

 

スキー場の近くにマンションを保有していれば、いつでも泊まれる。家族や仲間と一緒にワイワイできる。「ふーん、そうか」と思いながら広告を作った。そして、そのマンションの販売価格を聞いてちょっとビックリした。東京の郊外で売られている新築マンションと同レベルだったからだ。昭和から平成に替わった頃の時代。世の中はバブルの真っ盛りだった。

 

当時、貧乏なサラリーマンの私から見ると「このマンションを買う意味があるのか」というのが基本的な疑問。50㎡くらいのマンションの価格が3千万円前後という価格もさることながら、問題は維持費だ。たとえば、湯沢だったらたいていのリゾートマンションが温泉付き。さらには屋内の温水プールも付いている。

 

だから管理費や修繕積立金が高い。50㎡でも月々3万円弱。さらには固定資産税が年間4万円程度になる。1年分の保有コストは約40万円。当時、2泊3日のバスツアーでスキーに行く費用が3万円程度であったと記憶している。もちろん朝夕の食事つきで、中にはリフト券付もあった。40万円あれば、お小遣いも含めて10回はそういうバスツアーに行けることになる。

 

「まあ、お金を持っている人の発想は違うのだろう」安月給のサラリーマンだった私は、そんな風に納得するしかなかった。

 

6,000万円のマンションが200万円になった

 

スキーブームは平成の大バブルとともに終わった。ここ20年ほど、スキー場の閉鎖が相次いでいる。中にはスノボ専用となって生き残っているスキー場もあるという。もちろん、スキーリゾートでのマンション分譲も20年ほど前にほぼ終わった。後から考えれば、あれは一時的なブームに過ぎなかったのだ。それで、湯沢エリアで大量に供給されたリゾートマンションはどうなったのか?

 

結論を言ってしまえば、今は世間から二束三文の価値しか認められていない。

 

JR上越新幹線「湯沢」駅の周辺には、今もリゾートマンションが群をなして林立している。駅からちょっと離れると山沿いにタワーマンションがあり、その上層階には高級温泉リゾート顔負けの豪華な展望大浴場があったりもする。湯沢の風景を一望できるガラス張りだ。「すごいなあ、こんな大浴場に毎日入れるのか」と見る人はたいてい思ってしまうのではないか。

 

そういったマンションの80㎡くらいの住戸が、現在200万円前後で売り出されている。多分、新築時の分譲価格は6,000万円あたりであったはずだ。築30年ほどにはなったが、温泉大浴場に加えて室内プールなども今もきちんと稼働している。ただし、そういった住戸の維持コストは年間60万円をくだらない。

 

湯沢駅の近くからだと、車で小一時間離れたところに苗場というところがある。現在は「フジロックフェスティバル」が開催されることで知られている。あのスキーブームだった頃、苗場はかなりの人気スポットだった。『私をスキーに連れてって』は苗場で撮影されたらしい。また、苗場プリンスホテルは予約が取れないほど盛況だった。苗場エリアは約40年前からリゾートマンションが開発されてきた。そういった物件が今、1戸当たり10万円程度で大量に売り出されている。しかし、そうそう買い手が付くものではない。

 

買い手がつかないマンションを有料で引き取るビジネスも

 

ここ数年前に、そういったマンションを引き取るビジネスが生まれた。「3年分の維持コストをお支払いいただければ、区分所有権を引き継ぎます」という。

 

つまり年間の維持コストが40万円なら「120万円お支払いください。そうしたら所有権を引き取って差し上げます」ということだ。

 

これでは粗大ごみの有料引き取りと同じではないか。

 

リゾートマンションは30年の時を経て、巨額の費用をもって処分する粗大ゴミになってしまったのだ。30年前に抱いた私の疑問は、かなり健全であったと証明されたのだ。しかし、ちっとも喜べない。なぜなら、私の作った広告を見て湯沢のリゾートマンションを購入した人が、最低でも数十人はいるはずだから。私は仕事とはいえ、ああいうマンションの開発分譲事業を部分的にでも手助けしたことになった。そう考えると、気持ちは複雑である。

 

ただ、私はまだ湯沢のリゾートマンションにはかすかな希望があると考えている。

 

北海道のニセコというスキーリゾートは、オーストラリアからのスキー客を呼び込むことで見事に復活し、今では力強く発展している。そのことによって周辺エリアの不動産は値上がりをしている。湯沢のスキー場にはニセコのようなパウダースノーはないが、温泉があり新幹線や関越自動車道が通っている。東京からは車なら約3時間でアクセスできる。

 

この立地条件を活かせば、インバウンドのスキー客を呼び込める。リゾートマンションは宿泊用に用途を転ずればいいのだ。しかし、湯沢エリアのリゾートマンションで民泊を可能にしている物件はごく一部。可能性は開けていない。せっかくあれだけの観光資源があるのに、もったいない話である。

 

民泊の規制を緩めて積極活用せよ

 

日本全国、使われていないマンションや空き家は地方や郊外を中心に増えている。そういった不動産を先に書いたような「マイナス査定」で引き取るビジネスが生まれているが、これは健全ではない。たとえば、湯沢のリゾートマンションを有料で引き取った業者は、キチンとその後の管理費や固定資産税を払うのであろうか。それを払っていれば4年後以降はマイナスの資産となる。つまり、そういった不動産有料引き取りのビジネスは、健全なビジネスとしては成立していないのだ。

 

これからの日本は、使われていない不動産をどう活用するかを真剣に考えるべきである。「3年分の維持費相当で引き取ります」といった、怪しげな業者を跋扈(ばっこ)させてはいけない。最も健全な活用法は、増える一方のインバウンドの宿泊用ではないか。

 

2018年、政府は戸建住宅やマンションの部屋などを貸し出して、旅行者や出張者などに宿泊サービスを提供することを可能にする民泊新法を施行した。しかし、あの法律は厳しいルールを設けて民泊を制限するだけのものだ。もっと柔軟に運用できるものに作り替えるべきだろう。

 

さらに、湯沢のリゾートマンションのようにオーナー側は資産価値の低下をぼうぜんと眺めているだけではなく、不十分だとはいえ現行の民泊制度の活用などを積極的に検討すべきではないか。そのためには多くのマンションで取り入れられた民泊禁止の管理規約条項を改めるべきだろう。何もしなければ、この国には粗大ゴミと化したマンションや住宅が増え続けるだけである。

 

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昭和、平成時代を経て日本のマンションは大きな転換期を迎えています。人生のうちで大きな買い物となるマンション選びにおいては、常に最善の選択をしたいものですが、そのためには変化に即して考え方や行動を変えていかなければなりません。長年にわたりマンションを取り巻くさまざまな業界の最前線をウオッチしてきた住宅ジャーナリスト、榊淳司氏がこれまでの常識はどの時点からどのように変わってきたのか、そしてこれからどう変わっていくのか、マンション購入を考えているみなさまにとって有益かつ目からうろこのお話満載で語っていきます。

 

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榊淳司(住宅ジャーナリスト)
1962年生まれ、京都府出身。同志社大法学部および慶応大文学部卒。不動産の広告・販売戦略立案の現場に20年以上、携わってきた。一般の人々に分かりにくい業界内の情報や、マンション分譲事業の仕組み、現場担当者の心理構造などをブログ上で解説。近著に『すべてのマンションは廃墟になる』『2025年東京不動産大暴落』(イースト新書)、『マンション格差』(講談社現代新書)など。

 

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