私は近々『限界タワーマンション』という拙著を集英社新書として世に問う。その原稿を書くにあたって、さまざまな角度からタワーマンションというものを見つめてみた。また、さまざまなところを取材した。そこでしみじみと実感したことは、「日本はタワーマンションという住形態について壮大な実験を行っている」ということだ。別の言い方をすれば、「タワーマンションという住形態は、人が安心して暮らすには未完成品である」、ということでもある。

 

タワーマンション

(写真はイメージです)

 

西欧人はタワーマンションが嫌い

 

タワーマンションが大量に完成し始めたのは2000年頃から。その前に建築基準法により規制などが緩和されて、タワーマンションが作りやすくなったことが大きな原因である。
タワーマンションとは一般に20階建て以上と定義されている。現在では60階建てのタワマンもチラホラ見られるようになった。

 

私が最も懸念しているのは、タワマン居住は人間の健康に悪影響をもたらすのではないか、ということである。そこで、私は担当編集者とともに国内外にそういった研究結果を書いた文献や論文がないか調べた。しかし、ハッキリとしたエビデンスは得られなかった。

 

ヨーロッパの主だった国ではタワーマンションがほとんど作られていない。しかも、高層階での子育てを禁止している国さえあることが分かった。ヨーロッパ人たちは超高層建築というものに対して本能的な拒否感を抱いているように思えた。

 

そこで、オランダに居住する2人の大学院生に依頼して、彼らのまわりのヨーロッパ人が超高層住居についてどういう感覚を持っているのかアンケートを取ってもらった。以下に『限界タワーマンション』の原稿から、その箇所を引用する。

 

設問は以下の通りである。
1 生まれた国
2 年齢
3 性別
4 超高層住宅(super high-rise building)に住んでみたいと思うか
5 超高層住宅で子供を育てたいと思うか
6 あなたがロンドンやニューヨークに住むならば、超高層住宅を選ぶか
7 超高層住宅についてあなたの考えは(フリーアンサー)

 

回答してくれたのは50人。生まれた国はオランダが24人。隣国ドイツが14人、英国が3人、イタリア3人、その他が6人。回答者の平均年齢は28.8歳だった。男性が30人で女性が20人。

 

設問4の「超高層住宅に住んでみたいと思うか」に対するYESは16人。設問5「超高層住宅で子どもを育てたいと思うか」についてYESは5人。子育てを念頭におくと、ぐっとYESの回答率は下がる。やはり子どもを育てるとなると、忌避する人が多いようだ。

 

設問6「あなたがロンドンやニューヨークに住むならば、超高層住宅を選ぶか」については過半数を超える27人がYESと答えた。
設問7については、否定的な意見が多く書きこまれていた。
「刑務所のようだ」「建築家の学生ですが、心理学や空間力学上で大きな問題があると思う」「とても醜くて受け容れがたい」

 

一方で、やや肯定する意見もあった。「小さな土地を活かすためには有効かも」「私が知らないところにあるのなら構わない」

 

ただ、総じて否定的な意見が多かったのも事実だ。超高層住宅で子育てをすることにYESと答えたのが全体の10%だったことからして、彼らの価値観が伝わってくる。

 

日本人はタワーマンション大好き。でも…

 

さて、ヨーロッパ人からは拒否反応が持たれているタワーマンションだが、多くの日本人には好まれている。それが証拠に、新築タワーマンションはおおむね好調に売れている。

 

さらに言えば、日本人の多くはタワーマンションに住むことが自分や家族の健康によくない影響があるのではないか、という疑念などみじんも抱いていない。

 

しかし、私はタワマンに居住することが、すべての人ではないものの、一部の人の健康や精神状態に対して確実に悪影響を及ぼしていると確信している。

 

詳しくは6月に出る拙著をお読みいただきたいのだが、いくつかの状況証拠はある。たとえばプロ家庭教師集団『名門指導会』代表の西村則康氏は、「タワマンの子供は成績が伸びない」と断言している。あるいは「タワマンの子供は近視になりやすい」という専門家もいる。
私の知り合いの不動産業者は、新築タワマンは高層階に入った人の中に引渡し後数か月以内に引っ越す人が一定数いると教えてくれた。彼は私に「体調を崩してしまい、『自分にはタワマンが合わない』と思われるようです」と教えてくれた。

 

遮音性が悪く、外壁補修費用がかさむという弱点

 

次に、タワーマンションの構造的な弱点について指摘しておきたい。

 

日本は地震大国であり、建築基準法の耐震基準が厳しい。ところが、タワマンは超高層であるため、建物全体で大変な荷重がかかる。これを軽減するために、随所に軽い建材が使われている。

 

まずは戸境壁だ。中低層のマンションなら、建築費をよほどにケチらない限り戸境壁には鉄筋コンクリートが使われる。その厚さは150ミリ以上。ところが、タワマンでは戸境壁に乾式壁が使われる。グラスウールを石膏ボードで挟んだものだ。言ってみれば、ちょっと厚めのパーテーションのようなもの。軽いので当然、遮音性が悪い。私のところにやって来たあるタワマン居住者は「お隣さんがくしゃみをしたのまで分かる」とおっしゃっていた。

 

軽いのは戸境壁だけではない。外壁にはALCパネルというものが使われる。そして、サッシや躯体部分との接合部にはシーリング材というものが使用されている。このシーリング材は年数が経つと劣化して雨水などの侵入を容易にするので雨漏りの原因となりやすい。このため、十数年に一度は接合部のシーリング材を補修する必要があるとされる。

 

つまり、タワマンには十数年に一度の外壁補修が欠かせない、ということになる。

 

国道交通省の指針では分譲マンションの大規模修繕工事の目安を「12、13年に一度」としている。その大規模修繕には外壁の補修が含まれている場合が多い。

 

しかし、実際のところ外壁の補修工事は12、13年に一度ずつ行う必要はない。補修が必要なほど劣化していればやらなければならないが、しっかりと施工されたマンションでは12年程度で外壁は劣化しない。だから、マンションによっては30年以上も外壁の補修を行っていない場合もある。

 

ところが、タワーマンションの場合はその外壁の修繕工事が必然となる。放っておくと雨漏りする住戸が続出する可能性があるからだ。特に湾岸エリアのタワマンは潮風にさらされているので、シーリング材が傷みやすいと推測できる。

 

普通のマンションの場合、外壁修繕には足場を組む。しかし、足場を組める限界は17階程度まで。60階もあるタワマンの場合はどうなるのか?

 

私の知っているケースでは、壁にレールを据え付けて作業用のゴンドラを取りつけた。それを屋上に設置したクレーンで吊り上げて上下の移動を行う。足場を組んだ場合に比べて作業効率が悪いので、1層の補修を行うのに1カ月かかるとされる。60階なら43階分なので約3年半。工期は建築時の約2倍を要する。作るよりも修繕の方が時間を要する……不思議な話だが、これも現実だ。

 

この工事にかかる費用もかなり高い。通常タイプのマンションに比べて1戸当たりの概算で約2倍。これを十数年毎に必ずやらなければ大変なことになるのがタワーマンションなのだ。

 

大規模修繕工事に住人は耐えられるか?

 

2000年頃から始まったタワーマンションの大量供給。そろそろこれらのタワマンは大規模修繕工事のラッシュ期に入る。また、あと10年ほど経てば2000年以降のブーム以前に建てられたタワマンが、2回目の大規模修繕工事適齢期に入る。

 

建物は老朽化し、新築時に購入した区分所有者は高齢化する。この十数年に一度の大規模修繕工事を3度も4度も行い続けることにリアリティはあるのだろうか。

 

我々はタワーマンションという壮大な実験をしているのだ。果たして日本人は50年後もタワマンを新たに建設しているだろうか? 日本人にとってタワマンに住むことは、これまではステイタスでもあった。壮大な実験を経て、コンプレックスになってしまうのかもしれない。せめて病人を生み出す塔にならなければよいのだが……。

 

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昭和、平成時代を経て日本のマンションは大きな転換期を迎えています。人生のうちで大きな買い物となるマンション選びにおいては、常に最善の選択をしたいものですが、そのためには変化に即して考え方や行動を変えていかなければなりません。長年にわたりマンションを取り巻くさまざまな業界の最前線をウオッチしてきた住宅ジャーナリスト、榊淳司氏がこれまでの常識はどの時点からどのように変わってきたのか、そしてこれからどう変わっていくのか、マンション購入を考えているみなさまにとって有益かつ目からうろこのお話満載で語っていきます。

 

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榊淳司(住宅ジャーナリスト)
1962年生まれ、京都府出身。同志社大法学部および慶応大文学部卒。不動産の広告・販売戦略立案の現場に20年以上、携わってきた。一般の人々に分かりにくい業界内の情報や、マンション分譲事業の仕組み、現場担当者の心理構造などをブログ上で解説。近著に『すべてのマンションは廃墟になる』『2025年東京不動産大暴落』(イースト新書)、『マンション格差』(講談社現代新書)など。

 

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