1989年に始まった平成も、2019年4月末でついに終わり、いよいよ「令和」の御代が始まる。私は平成の最初の20年ほどを、新築マンションのパンフレットやチラシを制作することに明け暮れて過ごした。当時を振り返りつつ、近い将来のマンション広告の姿を想像してみたい。

 

パソコンと女性

(写真はイメージです)

 

とにかく時間がかかった紙の広告制作

 

当時、新築マンションにはおおよそ4種類の印刷冊子が必要だった。まず、マンションの中身や周辺エリアの環境などを説明する「物件パンフ」と呼ばれるもの。次に、そのマンションの全住戸の間取りを印刷して綴じた「図面集」。そして、全住戸の価格や面積、間取りなどを「鳥かご」と呼んでいた表に入れ込んだ「価格表」。さらに、パンフレットができあがる前の営業ツールとしての「社内資料」。

 

こういった印刷物を、およそ3カ月から半年ほどの時間をかけて作るのである。制作期間中は数日に一度の割合で売主、販売会社、広告代理店、そして私のような制作担当者が集まってデザイン案を提出したり、その戻しを受けたりする。さらに、パンフレットが納品された後は毎週のように折り込みチラシのデザイン案についての打ち合わせがある。

 

50戸程度の小さな物件でも、我々のような制作者が売主を交えた打ち合わせに加わってから、広告が不要になるほど販売が進んだ状態になるまで1年弱の期間を要する。その間、ずっと同じメンバーで打ち合わせをするので、気が合うとその後も付き合いが続く。そういう縁で知り合った担当者が、今では大手デベロッパーの幹部になっていたりするので、年月の経過を感じる。

 

タブレットになり、タブレットもなくなった

 

現在、新築マンションの広告制作は私が過ごした平成の最初の20年とは様変わりしている。3年ほど前、都心で売り出されたとあるタワーマンションでは、紙のパンフレットを作らなかった。モデルルームにやって来たお客にはタブレットを渡して「物件の資料は全部ここに入っています。ネットに繋いでいただくと、常に最新情報に更新されます」と案内したそうだ。
その時、私は「ああ、時代はここまで変わったのか」と思った。

 

最近はさらに大きく変化した。
これも都心で販売されているとあるタワーマンションだが、オフィシャルページをのぞくと、「当物件ではパンフレットを製作しておりません。詳しい内容については会員専用ページへログインしてご覧ください」的な表示が出ていたのだ。

 

なるほど、さもありなん……都心のタワーマンション購入を検討する人なら、何らかのネット環境を持っているはずだ。であれば、わざわざ紙のパンフレットはおろか、タブレットすら渡す必要はない。

 

そのように納得した数日後、私の事務所にそのタワマンの購入を検討している相談者がやって来た。「いやあ、パンフレットをもらえなかったのですよ。詳しくはホームページを見てくださいって言われまして」相談者さんがそういって私に見せてくれたのは、検討住戸の図面とエクセルで製作したと思われる価格表。図面も印刷ではなく、オフィスのプリンタで出したものだった。

 

今、新築マンションの広告活動はインターネットが主体である。チラシも作ってはいるようだが、新聞には折り込まれていないだろう。新聞の購読者が激減した上に高齢化し、マンションの需要層と重ならなくなっている。

 

新築マンションの広告には「紙」がほとんど使われていないのだ。そして、今後も紙の広告物が増えることはあり得ない。何年か先には郊外の規模の小さな新築マンションまで含めて、ほとんどの売出し物件から紙のパンフレットがなくなるだろう。

 

つまり、私のかつての同業者のほとんどが仕事を失う……。昔の仲間でまだ新築マンションの広告を作っている連中の顔がいくつか思い浮かんだ。かなり複雑である。

 

ネットは秒速で進化する。業界は発想を変えよ

 

さて、変化はまだ続くはずだ。私が考える近未来の変化は、静止画から動画への流れ。そして2Dから3Dへの進化だ。
ネット世界の進化は秒速で起こっている。今の新築マンションのオフィシャルページは基本が静止画主体である。動画もあるが、トップページのみ。そのほとんどが何ともつまらない内容だ。私の場合、スキップボタンがあれば迷わず押している。

 

マンションデベロッパーの業界にはアタマの固い人が多い。「トップページには動画を据えなければいけない」と思い込んでいるのではないか。私は大きく間違っていると思う。

 

トップページに動画は必要ない。トップページは静止画の方が見やすい。また、見る人をイライラさせない。新築マンションのオフィシャルページにアクセスしてくる人は、何かその物件について知りたいことがあってやってくるのだ。その知りたいことがどこにあるのかを明解に教えてあげる役割がトップページに与えられている。であるにもかかわらず、売主が見せたいだけの動画を何秒も見なくてはならないとイライラする。

 

それよりも、周辺環境なら静止画だけでなく動画もあれば分かりやすいはずだ。静止画のCGパースではなく、見たい角度や方向にぐるぐる回せる3Dパースの方が、見る人に親切だ。モデルルームの静止画なんて必要ないから、代表タイプのいくつかの図面は、見る人が住戸内を歩けるようにすればいい。

 

現状、そういうことは技術上、なにも難しいことではない。でもなされていないのは、オフィシャルページで見せすぎてしまうとモデルルームに客が来なくなると販売側が考えているからだろう。

 

発想を変えるべきではないか。オフィシャルページの中を渉猟して、より物件の中身に詳しくなった人は「濃い客」になる。作り物のモデルルームなど見せなくても購入を決断してくれるかもしれない。

 

紙の時代は完全終了

 

まだ平成の半ばの頃、私はある物件のパンフレットを制作した。その物件の売主は、かなりユニークなマンションを作っていた。コンセプトは「エアコンに頼らず夏を快適に過ごす」。コピーライターでもある私は、そのコンセプトや内容に賛同し、かなり濃厚な意気込みでパンフレットや資料集を仕上げた。

 

販売が始まると、モデルルームに1組のお客がやって来た。その方には、あらかじめパンフレットを送ってあったという。その方は商談のテーブルに座るなりおっしゃったそうな。「コレ、読みました。全部理解しました。説明は要りません。このマンションを買います」

 

グラフィックのパンフレットでさえ、そういうことができる。これからの新築マンションの広告は、ほぼ100%がネットになる。ネットには紙で伝えられる何十倍、いや何百倍ものパワーがある。
紙の時代は終わった。そのことは寂しくもある。しかし、ネットにはもっとワクワクできる未来があるはずだ。デベロッパーはもっとアタマを柔らかくしてマンション広告の未来を考えてほしい。

 

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昭和、平成時代を経て日本のマンションは大きな転換期を迎えています。人生のうちで大きな買い物となるマンション選びにおいては、常に最善の選択をしたいものですが、そのためには変化に即して考え方や行動を変えていかなければなりません。長年にわたりマンションを取り巻くさまざまな業界の最前線をウオッチしてきた住宅ジャーナリスト、榊淳司氏がこれまでの常識はどの時点からどのように変わってきたのか、そしてこれからどう変わっていくのか、マンション購入を考えているみなさまにとって有益かつ目からうろこのお話満載で語っていきます。

 

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榊淳司(住宅ジャーナリスト)
1962年生まれ、京都府出身。同志社大法学部および慶応大文学部卒。不動産の広告・販売戦略立案の現場に20年以上、携わってきた。一般の人々に分かりにくい業界内の情報や、マンション分譲事業の仕組み、現場担当者の心理構造などをブログ上で解説。近著に『すべてのマンションは廃墟になる』『2025年東京不動産大暴落』(イースト新書)、『マンション格差』(講談社現代新書)など。

 

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