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坂口 誠二さかぐち せいじ

不動産DX化の消費者メリットとは

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最終更新日:2022年1月10日
公開日:2021年12月7日

私が注目した最近の日経新聞の記事をご紹介したいと思います。

  • 不動産業界は「伏魔殿」―日経新聞の記事から

2021年11月28日付日本経済新聞の「中古住宅、データは伏魔殿 不動産IDに既得権の壁」という記事についてです。記事の冒頭を引用します。

「中古住宅の売買取引を透明化する官民プロジェクトが10年以上も迷走している。不動産業界がオープンな情報システムによって既得権を脅かされると警戒しているからだ。建物や土地を登記簿の番号で管理する『不動産ID』の構想も骨抜きの様相。閉鎖的な『伏魔殿』は改革されず、DX(デジタルトランスフォーメーション)の機会損失はふくらむ。」

都市とネットワーク

日本の不動産業界のDX化への取り組みの遅れを解説したこの記事は、“不動産業界の閉鎖性により中古住宅の売買取引を透明化する改革がされない”としています。

この記事で紹介されている

「都内の仲介会社社長は『新規参入企業や一般消費者が得るデータが増えれば、既得権が脅かされる』と本音を語る。」

というコメントは、不動産業界のDX化についての取り組みの姿勢を端的に示しているように思われます。もう少し記事の内容を紹介します。

「国土交通省が9月に立ち上げた不動産IDの官民検討会 <中略>『不動産IDをつくっても、その先の個々のデータ連携にまで国は口を出さない』ということだ。」 

「2020年の規制改革推進会議の答申も不動産IDを使ったデータ連携を求めており、国交省の資料は明らかな後退だ。ある政府関係者は『ここまで気を使わないと議論すら始められない』と明かす。」

  • 不動産IDはDX化のイロハの「イ」

ここでの「不動産ID」とは、すべての土地や戸建て、マンションの住戸、商用施設などすべて不動産に一意の番号を付けることです。「不動産って住所がわかればわかるんじゃないの」と考える方もおられるかもしれませんが、同じ住所内に建物が複数あったり、所有権の異なる土地があることはよくあるので、住所だけでは不動産を特定するには不十分です。

民間でこうした取り組みをしている一般社団法人 不動産テック協会は、「不動産ID」のことを「不動産共通ID」としていますが、その意味を「住所や物件名など、不動産情報を活用したサービス連携をスムーズにするためのソリューションです。不動産業界だけでなく、物流業界や行政などにも幅広く応用することができるインフラとなります。」としています。

現在、政府が推し進めているデジタル・トランスフォーメーションの第一歩は、各種の行政情報をデジタル化することにあると思います。不動産業界に即していえば、不動産IDを作ることはDX化のイロハの「イ」です。すべての不動産にIDが振られ、データ化できるので、関連する情報のやりとりが容易になるからです。しかし、不動産IDを作っても、そこからデータの連携が進められないとDX化は先に進めなくなり、それが不動産業界で「既得権を脅かされる」者たちの反対によって進められないとしたならば、大変な残念なことです。

  • お盆と年末年始に停止するREINSのナゾ

ネットワークイメージ

話が少し脱線します。不動産会社のみに利用が制限されているREINSという不動産情報のデータベースがあります。一般の方には、公開されていないので、業界関係者以外に使ったことのある方はあまりないと思いますが、操作をしてみると「その使いにくさ」に驚かされます。REINSの操作画面はインターネット黎明期の90年代前半、つまり今からおよそ30年前に使われていたような代物で、運営団体が、ユーザーである不動産会社の利便性をほとんど考慮してこなかったであろうことが伝わってきます。

REINSには不思議なことがもう一つあります。毎年、お盆と年末年始の時期にシステムが数日間に停止するのです。REINSを運営する組織に休業期間があるのは理解できます。また百歩譲ってメンテナンスでシステムを一時的に停止することもあるでしょう。しかし、システムを毎年お盆と年末年始の時期に長期に止める必要はあるのでしょうか? 感情を持つAIを搭載していてお盆と年末年始に必ず長期の休みを要求するのでしょうか? いいえ。システムは動かそうと思えば、動かせるのです。そのような体制を組めばよいのです。

REINSを運営する公益財団法人 東日本不動産流通機構はホームページで、

「『レインズ(REINS)』とは国土交通大臣から指定を受けた不動産流通機構が運営しているコンピューターネットワークシステムです。

『Real Estate Information Network System(不動産流通標準情報システム)』の英語の頭文字を並べて名付けられ、組織の通称にもなっています。 レインズは設立以来、一貫して利用の拡大が続いており、日常生活で水道、電気、ガスが欠かせないように、不動産取引を行なううえでなくてはならないインフラ(基盤)となっています。

とうたっています。(太字は筆者)

「日常生活で水道、電気、ガスが欠かせないように、不動産取引を行なううえでなくてはならないインフラ(基盤)」ならば、お盆と年末年始の時期に年中行事のように長期間「インフラ」を止めるようなことは、どうかもうおやめいただきたいと願っています。

話が少しずれましたが、前掲の日経新聞の記事を書いた大林広樹記者は、「不動産IDのデータ連携は不動産業界の生産性向上に直結するはずだ。」とコメントしています。

  • 消費者にとってのメリットは?

では、不動産業界での「中古住宅の売買取引の透明化」や「不動産IDのデータ連携」が進むと、消費者にとってどんなメリットあるのでしょうか。

私見では、

1)生産性の向上 = サービス向上&コスト低下

2)革新的なサービスの普及

が生じ、大きなメリットが得られるものと考えます。

サービスの向上やコストの低下」については、サービスの価格を下げることは、わかりやすいメリットと思いますので、手前みそになりますが、REDSの仲介手数料の例に挙げます。

5000万円以上の物件の場合、一般的な仲介手数料が171万6000円(税込)

(内訳:物件価格の3.3%+6.6万円)ですが、REDSではその半額の85万8000円(税込)となります。

値引き幅が大きいということは、1件当たりの売上単価が下がるので、他社よりも業務効率化やコスト削減といった企業努力を積み重ねていかないと、利益が確保できなくなってしまいます。他社よりも大幅に価格を下げて、一定の利益を確保していくには、生産性の向上が必須条件となります。

REDSでは、こうした企業努力を、全営業スタッフ(エージェント)の在宅勤務、フレックス制を可能した働き方の改革と合わせて実現をしようとしています。

革新的なサービスの普及という点では、不動産業界でのAmazonやNetflixのようなゲームチェンジャー企業が生まれれば、業界にとっては脅威かもしれませんが、消費者にとっては大きなメリットとなるでしょう。

日本の例でも1990年代の後半から金融ビックバン(金融や証券業の自由化)以降、証券業界の構図が大きく変わりました。長らく業界最大手で「ガリバー」と呼ばれていた野村證券が、昨年にネット系証券のSBI証券に口座数No.1の座を譲り渡しています。金融ビックバン後にネット系証券での株式取引手数料も値下げが進んだばかりか、最近ではSBI証券や楽天証券などでネットでの取引手数料の「無料化」が進められています。

日本の不動産業界での規制緩和とともに不動産IDやデータ連携の環境が整えば、外資系やベンチャー、異業種参入の企業などが業界内のシェア伸ばしていくこと十分に起こりえると思います。現に不動産情報の整備が進んでいる米国では不動産の仲介のシェア上位10社の中には、いわゆる不動産テック系のCompass(コンパス)(4位)やRedfin(レッドフィン)(9位)といった企業がランクインをしています。また米国での大手の新興不動産会社のeXpRealyも今年の7月に日本への参入予定であることを公表しています。

不動産業界での規制緩和や不動産情報の整備、DX化の取り組みが進めば、消費者メリットが明確なサービスの伸長が期待できます。また、不動産業者にとっても、これまでの不動産の仲介にかかっていた手間が軽減され、生産性の向上につながるものといえます。これにより不動産業界内で顧客サービス、メリットを競う合う、当たり前の競争が生まれることを期待しています。

 

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