テーコー不動産新宿支店の営業チーフ、三軒家万智(北川景子)が家を売って売って売りまくる痛快お仕事ドラマ「家売るオンナ」も第10回、いよいよ最終回を迎えることとなりました。奇想天外な発想と手法で家を売り、お客様ばかりか会社の同僚の生き様にまで影響を与えてきた万智です。最終回では、どんな家をどのような方法で売るのでしょう?また彼女や周囲の人間の今後は描かれるのでしょうか?

今回も、ストーリーに沿って、ドラマの中のウソ・ホントをいくつかご紹介したいと思います。

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ビルのテナントを埋めて収益物件として売却しよう、とみんな頑張っていますけれど…

ある朝、屋代課長(仲村トオル)のもとに、行きつけのバーのママ珠城こころ(臼田あさ美)が泣きついてきます。ビルの解体で立ち退きを迫られている、とのこと。屋代課長は何とか力になろうと、ビルのオーナーと会い、ビルを売却できるのであれば解体してもしなくても構わないという確認をとります。そこで、既に立ち退き済みで空き室になったテナントを埋めて採算性を上げ、ビルの転売先を見つけようと課の方針を固めました。ビルは地上2階/地下1階建てで、1階は1店舗、2階は1住居、地下1階は3店舗の間取りです。現在の入居者は地下のこころのバーだけです。万智を除く課員が一丸となってテナントを探し、どうやら地下1階の空き店舗2つは埋められそうです。しかし、この努力の方向は的外れな気がしてなりません。

ビルの売買のポイントは再生による付加価値UPと収益性

テナントビルの売買で1番のポイントは収益性です。ネタバレになりますが、最終的にこのビルは10億円で売れましたので、オーナーの希望価格や周囲の取引価格も実際その程度だと仮定して、収益還元法といわれる方法から必要家賃を逆算してみましょう。

収益還元法というのは年間の収益を希望利回りで割り返して、不動産の査定価値を計算する方法です。

(収益)÷(利回り)=(査定価格)

収益は家賃収入のみとした場合、利回りを収益物件としては少し低めの表面利回り年8%、査定価格を10億円と仮定して逆算すると、月額の必要家賃収入は667万円となります。つまり、月額667万円の家賃収入がないと収益物件として10億円で売るのが難しい物件ということです。

このビルの間取りでその収益を得るために各階の家賃を2階:1階:地下で1:2:1の比率で設定すると、2階166万円、1階店舗334万円、地下1階のテナント1軒あたり55万円となります。こころのバーは10坪そこそこの小さいバーですから、それだけの賃料はとても払えないのではないかと思います

坪あたりで計算すると5.5万円程度となりますが、ある不動産会社の賃貸相場報告によると、新宿の1階テナントの最高額は約6万円/坪となっています。仮にこのビルが新宿最高レベルの立地条件だったとしても、1階の店舗で334万円の家賃を得ようとすると56坪の広さがなければいけません。ちょっと現実的ではないですね。2階の166万円/月の住居家賃も同様です。都心のタワーマンションでもなかなかここまでの家賃が取れる部屋は有りません。

従って、今の家賃レベルのままテナントを埋めても、収益性が低すぎてオーナーが満足する価格では売れそうもありません。屋代課長の提案に沿ってビルを売ることは、最初から非現実的なことだったといえます。更地にして周辺の土地と合わせて再開発する、ビルを建て替えて高層化する、あるいは建物をリノベーションして全く新しい価値を創造して提供する、という方法が現実的といえるでしょう。

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元バレリーナと足の不自由な娘のための家探し

一丸となっている営業所の同僚とは距離を置き、万智は元バレリーナの望月葵(凰稀かなめ)から、事故で車椅子生活となった娘カンナ(堀田真由)と2人で暮らす家を探すよう依頼されます。葵の夫は資産家で、シンガポールで愛人とその子供と暮らしているとのことです。

万智は、こころの店が入っているビルのことも密かに気になっていたようです。1人で下見に行って、鍵の開いていた1階と2階にこっそり入り、壁紙を破ったり、ドンドンと飛んだり跳ねたりしています。そして一言「このビル、私が売ります」。その後、後輩の庭野(工藤阿須加)に、壁紙やカーペットを剥がすよう命じます。何やらいい案を思いついたのですね。

しかし、壁紙やカーペットを勝手に剥がすのは問題が有ります。自分の会社がテナント探しを依頼されたビルだからといって、勝手にビルの中に入って内装を変更するのは業務の範囲を超えています。会社として鍵を預かっていて業務(ご案内等)として建物に入ったのなら問題ありませんが、万智の場合は会社の誰にも言わずに入っていますから、会社としてその行為を認めることはないでしょう。無断で壁紙やカーペットを剥がすのは論外です。結果としてビルは売れましたからオーナーが訴えることはないでしょうけれど、この時点で気付かれていたら問題になったでしょう。

常務の命令に背き、ビルを売る万智、やっぱりクビになるの?

屋代課長に常務から電話が入り、本社が当該ビルを含めて再開発を進めているので、ビルの売却から手を引けと命じられます。「諦めよう」という屋代課長に、万智は「あのビルは私が売る。私が大切なのはお客様です。課長はこころの人生を背負ったのではないか、それを見放すのなら会社の犬だ。私はクビになっても構いません」と啖呵を切ります。
そして、1階をバレエスタジオに改築し、葵たちの夢をもう一度かなえるための家としたのです。壁紙やカーペットを勝手に剥がしたのはこのためでした。さらに、1人でシンガポールに行き、葵の夫にこのビルを10億円で買うことを提案します。葵たちは、夫に購入してもらうことを受け入れ、人生をやり直す決意をします。こうして、万智は見事に10億円でこのビルを販売しました。

Ballerina Ballet Dance Practice Innocent Concept

ビルを売ったことを報告する万智に、屋代課長は命令に背いたことを怒るのではなく、仲良く辞表を出そうかと提案します。屋代課長も、覚悟を決めたようです。
でも、常務の命令に背いたことで、ホントに会社を辞めなくてはいけないのでしょうか?

万智はおそらく大丈夫、でも屋代課長には厳しい将来が

テーコー不動産がどの程度の規模の会社なのかはわかりませんが、新宿の再開発を計画するような規模の会社であれば労働組合があるのではないかと想定できます。万智はチーフとはいえ管理職ではないようですし、違法行為をしたわけでもなく、会社の方針とは違う販売をしただけですから、組合問題になることを恐れて会社は解雇することはないでしょう。万智の実績も捨てがたいものがあるはずです。

一方で、管理職の屋代課長の将来は暗いものになってしまいそうです。会社にとって莫大な利益をもたらすはずの開発計画の阻害要因を、上司からの指示があったにも関わらず、生じさせた罪は重いでしょう。管理能力不足を問われて、減給や降格、さらには実質的な退職勧奨を受けるなどといった厳しい処分があってもおかしくありません。

「サンチー不動産」

エンディングは、どこか田舎の海辺に設立された「サンチー不動産」で、万智と屋代が2人で家を売っています。2人が結婚したのかどうかはわかりませんが、どうやら万智が社長のようです。新宿営業所の面々も元気な様子です。どこにいても人が住む家がある限り、万智は家を売っていく、としてドラマは終わります。

平均視聴率10%を超える人気ドラマでしたので「帰ってきたサンチー」の続編を期待したいと思います。そしてまた、このコラムを再開できることを心待ちにしています(笑)。

(監修:不動産流通システム 高坂拓路)

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