2016年5月に宅地建物取引業法(以下、宅建業法)を一部改正する法律案が成立しました。改正された内容は、不動産業界が現状抱える問題を解消するものになり得るのでしょうか。対談連載の最終回ととなる今回は、不動産業界に詳しい三平弁護士と不動産流通システム 代表取締役の深谷が、新たな不動産流通の仕組みについて語っています。
 
 

新たな不動産流通の仕組みは作れるのか

 
深谷:私は不動産を市場相場で値を付けるのは難しいと思っています。売り手は1円でも高く売りたいと考えるのに対し、買い手は1円でも安く購入したいと考えるわけですが、不動産のように取引単価が高く、情報の非対称性がある中で、双方を満足させるような落としどころを見出して、それを相場とすることは、そもそも可能なのでしょうか。
 
三平氏:売り手と買い手、相反する立場を仲介する場合において、不動産の相場を断定することは、確かに難しいと思います。少しケースは異なるかもしれませんが、慰謝料などについても明確な基準はないものの、裁判において目安になる請求額の相場はあります。それぞれプラスとマイナスの事情があって、それを軸に、ある程度落ち着きどころを模索していくわけです。
 
これと同じように、新しいサービスも、マーケットが大きくなれば自ずと相場にもトレンドが発生していくのではないでしょうか。先ほどの「①どうしても売りたい」、「②売れるなら売りたい」、「③いずれ売りたい」といった、それぞれの要素を持つ人たちがたくさん集まることで、新たな基準値が生まれるということです。これはある意味、「我々が相場を作る」くらいの気持ちが必要かもしれません。
 
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みずほ中央事務所    
代表弁護士 三平聡史氏
 
深谷:レインズ(不動産流通標準情報システム)※にそのような機能を持たせる方が早い気がしますが、いかがでしょうか。
 
三平氏:標準の情報システムが1つしかないと、どうしても独占的な運用になりますよね。
 
深谷:ご承知のとおり、既にIT系から進出してきた新興勢力は、ビッグデータを活用した不動産情報サービスに着手しています。将来的には第二のレインズのようなものをつくろうとしているのかもしれませんね。ただ、不動産仲介の現場は、そう単純なものではありませんので、当面のあいだ紆余曲折が有る様に思います。
 
(編集部注:レインズ(REINS)とは、国土交通大臣指定の不動産流通機構が運営・管理している不動産流通の標準情報システムです。)
 
 

情報のオープン化がもたらす意味

 
深谷:先日、横浜市のマンションで不十分な杭打ち工事を実施し、マンションが傾斜した問題がありましたよね。ビッグデータには当然、そういった施工不良の情報も蓄積されていくと思いますが、たくさん瑕疵のある物件が出てきた場合、中古マンションの仲介市場にも大きな影響が出そうですね。
 
三平氏:ですが、情報を隠蔽して売買するのは詐欺行為になってしまいませんか。
 
深谷:買い手側からすれば当然そのように映りますが、売り手には少々厳しいものになるかもしれません。「ごまかす」というわけではなく、今までならその事実を伝え相応に安くすれば売却できたものが、もしもビックデータが算出するプログラムの中に、不十分な杭打ちは係数0と決めてしまったら、その物件の資産価値は0なんてことも有り得ますよね。戸建でもマンションでも基礎の欠陥は、建て替えも余儀なくされる場合もありますから。
 
三平氏:詐欺行為は法的な問題になってしまうので、売買価格の話とは別に考えた方がよさそうですね。
 
横浜のケースのように、すでに販売してしまった後で不具合が発覚すれば、元請けの施工・管理はもちろん、多方面に大きな責任が問われます。こういうリスクを回避するために、インスペクション(建物状況検査)の活用に本気で取り組むのであれば、何らかの不具合が発覚した場合には公的資金で補助するなど、国を挙げての仕組みづくりが必要でしょう。
 
このように考えていくと、すべてが詳らかになったとき、日本の不動産は売れなくなるのでしょうか。だとすると、不動産業界には大きな膿が溜まっているような気がしてなりません。
 
深谷:最大手のマンション分譲会社ですらこのありさまですので、残念ながら、膿を持っている物件も多くあると考えるのが自然かもしれません。
 
ところで、不動産物件の中には、いわゆる「事故物件」というものが存在します。もちろん物件を紹介する際に事故があった旨を買主に告知しなければなりませんが、これがマンションの場合は複雑で、当該住戸以外の事故の場合、個人情報を盾に管理会社が知らせてくれない場合もあります。
 
三平氏:法的に管理会社に告知する義務を設けるしかないかもしれないですね。
 
深谷:2005年に発覚した耐震偽装事件は、マンションの設計で構造計算の不正が行われ、大きな社会問題になりました。この事件をきっかけに建築基準法などが改正されましたが、このときも一部の管理会社は戦々恐々としていました。
 
三平氏:一度、膿はすべて出し切った方がいいでしょう。
 
 

情報価値は自由化によってこそ活きる

 
深谷:HOME’Sを運営するネクストやソニー不動産、また、リブセンスなどは、透明化=不動産情報の非対称性の解消と捉え、基幹となるような情報サービスを始めています。
 
三平氏:システムの基本のプラットフォームが同じですから、それぞれのベクトルは同じ方向性を向いているとは思います。いずれにしろ、見込み客がいるという情報は経済的価値になります。レインズもインスペクションの件も、その情報をオープン化することが業界発展にとっては急務でしょう。先ほども触れましたが、私は情報共有システムを1つに限定する必要性を感じていません。媒介契約を望む消費者の情報と、物件評価の情報は、全く別のものです。それら別々のデータベースが存在し、消費者も含めて全体で情報を把握することができれば、自ずと相場も作り上げられる、そのような状態に期待しています。
 
深谷:インターネットの普及と技術の進歩が目覚ましいこの時代、あえて情報の非対称性を守ろうとする行為は、既得権へのこだわりであり、けっして消費者は見逃しません。ようやく不動産業界にもイノベーションの風が吹き出したなか、業界関係者だけしか見ることの出来ないレインズは、その存在価値をどんどん失って行きます。誰でも自由に見られる、日本最大の不動産情報サイトとしての“レインズ”が望まれます。
 
(おわり)
 
 
○弁護士法人 みずほ中央法律事務所・司法書士法人 みずほ中央事務所
代表弁護士 三平聡史氏 
1973年生まれ。早稲田大学理工学部資源工学科卒業後、学習塾で講師をしながら法律学を学び、2000年(旧)司法試験合格。2007年弁護士法人 みずほ中央法律事務所・司法書士法人 みずほ中央事務所開設、現在は同事務所代表弁護士。主な著書に『Q&A事業承継に成功する法務と税務46の知識』『会社法対応 株主代表訴訟の実務相談』などがある。
 
聞き手:株式会社不動産流通システム 代表取締役 深谷十三
2008年株式会社不動産流通システムREDS設立。開業当初より運営の合理化を徹底し、仲介手数料を最大無料とする独自の料率を設定し、宅建士と宅建マイスターの資格保有者によるエージェント制での仲介サービスを展開している。

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