「筆界」と「所有権界」の2種類がある土地の境界
土地には2種類の「境界」があることをご存じでしょうか。
一つは、その土地が法務局に初めて登記されたときにその土地の範囲を区画するものとして定められた「筆界」といわれる境界です。
その後に、分筆や合筆の登記手続により変更されていないかぎり、登記されたときの区画線がそのまま現在の筆界となります。
この筆界は、土地の所有者同士の合意によって変更することはできません。
もう一つは、「所有権界」といって、土地の所有者の権利が及ぶ範囲を画する境界です。
所有権界は土地の所有者間で自由に移動させることができます。
筆界と所有権界は一致するのがふつうですが、土地の一部について他の方に譲り渡したり、他の方が時効によって所有権を取得したりした場合には、筆界と所有権界が一致しないことがあります。
隣地との筆界が不明な場合には、土地を売買したり、その土地に建築したりしようというときに、筆界をめぐってトラブルになるケースが少なくありません。
そこで、こうした筆界をめぐるトラブルの予防や早期解決に役立てるため、「筆界特定制度」というものがあります。
筆界特定制度とは、法務局の長から任命され筆界特定登記官が、民間の専門家である筆界調査委員の意見を踏まえて、現地における土地の筆界の位置を特定する制度です。
ちなみに、筆界特定とは、新たに筆界を決めることではなく、実地調査や測量を含む様々な調査を行った上で、過去に定められたもともとの筆界を筆界特定登記官が明らかにすることをいいます。
土地の筆界をめぐる問題が生じたときには、裁判(筆界確定訴訟)によって筆界を明らかにするという方法もありますが、その場合、筆界を明らかにするための資料の収集は、所有者自身が行わなければなりません。
筆界特定制度を活用することによって、公的な判断として筆界を明らかにできるため、隣人同士で裁判をしなくても、筆界をめぐる問題の解決を図ることができます。
筆界をめぐる問題の解決に裁判ではなく筆界特定制度を活用することには、次のようなメリットがあります。
①費用負担が少ない
筆界特定制度を申請する際には、申請手数料がかかります。
申請手数料は、対象となる土地の価額によって決まり、例えば、対象となる土地の合計額が4,000万円である場合、申請手数料は、8,000円です。
また、申請手数料のほか、現地における筆界の調査で測量を要する場合には、測量費用を負担する必要があります。
一般的な宅地の測量を行う場合における、測量費用は数十万円程度となりますが、申請手数料と合計しても、裁判に比べて、費用負担は少なくて済みます。
②裁判よりも早い
筆界特定制度の手続は、訴訟手続に比べて早期に判断が示されます。
裁判では、判断が示されるまでに約2年かかるといわれていますが、筆界特定制度の場合は、その多くが半年から1年で判断が示されます。
③専門家の意見を踏まえた判断であり、証拠価値が高い
筆界特定は、公的機関が専門家の意見を踏まえて行った判断であることから、その内容について高い証拠価値があるといえ、裁判手続でもその結果が尊重される傾向にあります。
ちなみに、筆界特定制度は境界紛争の相手方が話し合いに応じてくれない場合でも、一方の土地の所有者だけで申請することができます。
隣人と裁判をしなくても、土地の筆界を明らかにすることができますので、土地の筆界に関する問題の解決やトラブル防止をに寄与します。